36歳の女性。5か月の乳児の子育て中。1か月前から周囲への興味と関心が低下し、育児がおろそかになってきた。物事の判断が鈍くなり、育児に自信をなくし、ささいなことで不安になった。うつ病と診断され、乳児を実母に預けて入院した。入院後早期に不安の軽減を目的に作業療法が開始された。導入時の作業療法で優先すべき対応はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
うつ病患者の導入期の作業療法では、不安の軽減と心身の安定が最優先課題です。本症例では、育児への自信喪失と強い不安が認められるため、患者が安心して過ごせる環境と生活リズムを整えることが重要となります。「ゆとりが持てるような日中の過ごし方」を話し合うことは、患者が過度な負荷を感じずに日々の活動に取り組めるよう支援し、生活へのコントロール感を取り戻すことで、不安の軽減と安定化を図る上で最も適切かつ優先すべき介入です。これにより、自己肯定感の回復や、その後の治療への積極的な参加を促す土台が築かれます。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者は精神的な不安と抑うつ状態にあり、まずは心身の安定を図ることが優先されます。導入期に体力増強のような身体的な負荷をかけることは、かえって負担となり、精神状態を悪化させる可能性があります。正しくは:導入期には、心身のリラックスや安定を目的とした軽いストレッチや深呼吸、短時間のウォーキングなどが適切です。本格的な体力増強は、症状が安定し、意欲が回復してから検討します。選びやすい理由:運動はうつ病の症状改善や気分転換に有効であることが知られているため、選択肢として魅力的に映るかもしれません。混同注意:運動療法がうつ病全体に有効であることと、不安が強く意欲の低下した導入期の患者への個別的かつ段階的なアプローチとの混同。
- 2. 患者は「周囲への興味と関心が低下」しており、新しい活動に取り組むための精神的なエネルギーや意欲が不足しています。この時期に趣味探しを促すことは、患者にとって新たな負担となり、かえって不安や焦燥感を増幅させる可能性があります。正しくは:趣味活動の導入は、症状が改善し、自ら興味を示したり、精神的な余裕が生まれてから段階的に検討するのが適切です。選びやすい理由:趣味を持つことは生活の充実や気分転換につながるため、長期的な視点では有効な介入に見えるからです。混同注意:活動性の向上という目標と、患者の現状(意欲低下、不安増強)に合わせた段階的な介入の必要性との混同。
- 3. 患者は「育児に自信をなくし、ささいなことで不安になった」状態であり、この段階で具体的な助言を与えることは、患者のプレッシャーや責任感を増大させ、不安をさらに高める可能性があります。まずは不安の軽減と心身の安定が最優先です。正しくは:子育てに関する支援は、患者の不安が軽減され、精神的に安定してから、本人のペースやニーズに合わせて情報提供や具体的なスキルの練習を行うのが適切です。選びやすい理由:育児がおろそかになっているという問題提起があるため、その問題に対する直接的な解決策として魅力的に感じるかもしれません。混同注意:問題解決型の介入と、導入期における情緒的安定を優先する介入との混同。
- 4. 患者は「周囲への興味と関心が低下」しており、強い不安を抱えています。集団活動は、他者との交流や活動への参加が求められるため、導入期には過度な刺激となり、かえって精神的負担や疲労を増大させ、不安を悪化させる可能性があります。正しくは:導入期には、個別での関わりや、小人数で安心感のある環境で行える活動が望ましいです。集団活動は、症状が安定し、他者との交流に意欲が持てるようになってから段階的に導入を検討します。選びやすい理由:レクリエーションが気分転換に有効であるという一般的な知識から、選択肢として選びたくなるかもしれません。混同注意:レクリエーションの全般的な効果と、導入期の不安が強い患者に対する段階的なアプローチとの混同。
- 5. 正解。患者は育児の負担、自信喪失、強い不安、判断力の低下といった状態にあり、心身ともに疲弊しています。この導入段階では、まず過度な負荷を軽減し、安心できる環境と生活リズムを確立することが不安軽減に直結します。「ゆとりが持てるような日中の過ごし方」を共に話し合うことで、患者は自身の生活をコントロールできる感覚を取り戻し、予測可能で安定した日常を作り出すことができ、これにより不安が和らぎ、心身の安定につながります。これは導入期における作業療法の最も適切なアプローチです。
国試ポイント
うつ病患者、特に精神的に不安定な導入期における作業療法の優先順位と、不安軽減を目的としたアプローチの理解が問われています。患者の現在の状態(不安、意欲低下、自信喪失)を正確に把握し、それに合わせた適切な介入を選択できるかどうかが重要です。性別、年齢、子育てという状況も考慮に入れる必要があります。
混同注意
精神疾患患者への作業療法介入全般と、病期や症状に合わせた段階的な介入の必要性、特に導入期における『安定化』と『不安軽減』の重要性との混同が起きやすいです。活動的な介入が有効であるという一般的な知識と、患者の現状への配慮を誤ると、不適切な選択をしてしまう可能性があります。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合は、まず患者の『現在の精神状態(特に導入期か、回復期か)』『最も優先すべき課題(不安、意欲、対人関係など)』『介入の目的(安定化か、機能向上か)』に着目し、患者に過度な負担をかけず、安心感を高める選択肢を選ぶように判断します。
関連知識
精神科作業療法の段階的介入、ストレスマネジメント、生活リズムの調整、自己効力感(セルフエフィカシー)の向上、不安に対する認知行動療法的なアプローチの基礎、母性看護における精神的支援の原則。