70歳の男性。右利き。右内頸動脈閉塞による左片麻痺のため回復期リハビリテーション病棟に入院中。意識清明。日用物品の使用に不便はないが、右側を向いていることが多く、左側の対象物への気付きが遅れることがある。物事には積極的に取り組む一方で、他者へ脈絡なくたびたび話しかけてしまう。この時期の患者の評価法として適切なのはどれか。2つ選べ。
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出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2・3番
解説
この患者は、左半側空間無視を示唆する「右側を向いていることが多く、左側の対象物への気付きが遅れる」という症状と、前頭葉機能障害(特に脱抑制や行動制御の障害)を示唆する「物事には積極的に取り組む一方で、他者へ脈絡なくたびたび話しかけてしまう」という症状を呈しています。したがって、半側空間無視の評価にはBIT (Behavioral Inattention Test)が、前頭葉機能の評価にはFAB (Frontal Assessment Battery)がそれぞれ適切な検査法となります。
選択肢ごとの解説
- 1. Apathy Scaleは、自発性や意欲の低下(アパシー)を評価する尺度です。この患者は「物事には積極的に取り組む」とあるため、アパシーの状態ではないと考えられます。正しくは:アパシーの兆候(無関心、自発性低下、感情鈍麻など)が見られる場合に適用します。選びやすい理由:「他者へ脈絡なくたびたび話しかけてしまう」という記述から、コミュニケーションの問題や行動の変化を疑い、漠然と精神症状全般の評価として選択してしまう可能性があります。混同注意:前頭葉機能障害によって生じるアパシーと、この患者の症状(左側への注意障害、脱抑制的な言動)とを混同するかもしれません。アパシーは意欲低下が中心であり、この患者の積極性とは異なります。
- 2. 正解。BITは、半側空間無視を評価するための検査です。患者は「右側を向いていることが多く、左側の対象物への気付きが遅れることがある」と記載されており、これは左半側空間無視を示唆する症状であるため、BITは適切な評価法です。
- 3. 正解。FABは、前頭葉機能、特に実行機能(行動の計画、抑制、遂行など)を簡便に評価する検査です。患者は「他者へ脈絡なくたびたび話しかけてしまう」とあり、これは脱抑制や行動制御の障害を示唆しており、前頭葉機能障害の可能性が高いため、FABは適切な評価法です。
- 4. GATBは、一般職業適性検査であり、職業選択や就職支援の際に用いられる各種能力(言語、数理、空間など)を測定する検査です。この患者の現在のリハビリテーション病棟での状態評価には直接関係ありません。正しくは:就労支援や職業評価の場面で適用します。選びやすい理由:「回復期リハビリテーション病棟に入院中」という情報から、将来的な社会復帰を見据えた漠然とした能力評価として誤って選択してしまう可能性があります。混同注意:認知機能検査(高次脳機能評価)と、職業適性検査のような目的が異なる能力検査とを混同するかもしれません。
- 5. WABは失語症の有無とそのタイプ、重症度を評価するための検査です。患者は「日用物品の使用に不便はない」とあり、具体的な失語症状の記載がないため、この時点での主要な評価法としては適切ではありません。また「脈絡なく話しかける」という記述は、失語症よりも前頭葉機能障害による脱抑制的な発話の可能性が高いです。正しくは:発話困難、理解困難、読み書きの障害など、具体的な失語症状が疑われる場合に適用します。選びやすい理由:「他者へ脈絡なくたびたび話しかけてしまう」というコミュニケーションの問題から、安易に失語症を疑いWABを選んでしまう可能性があります。混同注意:発話の問題をすべて失語症と捉えてしまうことと、前頭葉機能障害による脱抑制的な発話や、注意障害による会話のズレとを混同する可能性があります。
国試ポイント
この問題は、脳損傷患者の症状記述から、その症状に対応する適切な高次脳機能検査を選択できるか否かを問うものです。特に、半側空間無視と前頭葉機能障害の典型的な症状と、それぞれの代表的な評価法を正確に結びつけられるかがポイントとなります。
混同注意
アパシーと脱抑制(前頭葉機能障害)、失語症とコミュニケーションの逸脱、認知機能検査全般と特定の高次脳機能検査の適用範囲が混同されやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の症状記述が出題された場合、まず高次脳機能障害のどの領域に問題があるのか(例:注意、遂行機能、言語、記憶など)を明確に特定し、その上で各領域の代表的な評価法を照合して判断します。特に、複数の症状が提示された場合は、それぞれに対応する複数の評価法を適切に選択できるかが重要になります。
関連知識
半側空間無視の他の評価法(線分二等分検査、抹消検査など)、前頭葉機能障害の他の評価法(遂行機能検査BADS、WCSTなど)、失語症の評価法(SLTA、標準失語症検査など)、アパシーの評価法(DBS、AESなど)についても理解しておく必要があります。また、内頸動脈閉塞による症状(特に右病変による左片麻痺と右半球機能障害)との関連性も重要です。