65歳の男性。3年前から右手に振戦がみられるようになり、体の動きが固く、すくみ足がみられ、表情も乏しくなっていった。日常生活の支障に対して作業療法が処方されたが、本人は何かと理由をつけてなかなか参加せず、無為に過ごす様子が目立ってきた。この患者の治療方針を検討する際に、評価すべき精神医学的な合併症として最も重要なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
パーキンソン病患者では、ドパミン神経だけでなく、セロトニンやノルアドレナリン神経の変性も関与するため、うつ病の合併が非常に高頻度に見られます。本症例の「何かと理由をつけてなかなか参加せず、無為に過ごす」という行動は、意欲低下や活動性の減退を示す典型的なうつ病の症状です。作業療法の効果を最大化するためには、うつ病を早期に評価し、適切な介入を行うことが極めて重要です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。パーキンソン病では、ドパミン作動性神経の変性だけでなく、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の異常も生じるため、高頻度でうつ病を合併します。意欲の低下や活動性・参加の減少はうつ病の重要な症状であり、この患者の「何かと理由をつけてなかなか参加せず、無為に過ごす様子」はうつ病を示唆する典型的な兆候です。治療計画において、身体症状だけでなく精神症状への対応が非常に重要になります。
- 2. 解離性障害は、記憶、意識、同一性、または環境の認識における統合性の障害を特徴とします。具体的には、解離性健忘、離人症性障害、解離性同一性障害などが含まれます。この患者が示すパーキンソン病の身体症状や、活動への意欲低下、無為といった症状とは直接関連がありません。正しくは:パーキンソン病に伴う活動性低下や無為な状態を精神症状として評価するなら、うつ病などの気分障害が考えられます。選びやすい理由:活動への参加を拒む行動自体が精神的な問題であると捉え、漠然と「心の病」として解離性障害を連想する可能性もゼロではありませんが、症状の合致度は低いでしょう。混同注意:心的外傷後ストレス障害(PTSD)や、その他のストレス関連障害の症状の一部として解離症状が見られることがありますが、この症例の状況とは異なります。
- 3. 強迫性障害は、反復的でしつこい思考(強迫観念)や、それを打ち消すための反復行動(強迫行為)を特徴とします。この患者の症状である振戦、筋固縮、無動といったパーキンソン病の症状や、意欲低下、無為といった行動様式は、強迫性障害の典型的な症状ではありません。正しくは:パーキンソン病の症状に加え、特定の思考や行為が止められないといった症状が見られる場合に考慮されますが、本症例の記述からは該当しません。選びやすい理由:精神科的な合併症という点では選択肢として挙がりますが、提示された症状とは結びつきません。混同注意:何らかのこだわりやルーティンへの固執と混同される可能性はありますが、強迫性障害の診断基準を満たす症状は提示されていません。
- 4. 身体症状症(旧:身体表現性障害)は、身体症状があるにもかかわらず、それが医学的に説明できないか、説明できるとしても身体症状への過度な思考、感情、行動を伴うことが特徴です。この患者の身体症状(振戦、筋固縮、すくみ足)はパーキンソン病という具体的な神経疾患によって説明されており、身体症状そのものが精神的な原因である、あるいは身体症状への過度なこだわりが問題とは考えられません。正しくは:身体症状が医学的に説明できない場合や、身体症状に過度な苦痛や不安が伴う場合に考慮される病態です。本症例では、身体症状は明確な疾患に基づいています。選びやすい理由:患者が「不参加」「無為」という行動を示すため、身体症状が行動の言い訳になっていると誤解し、「身体症状症」を連想するかもしれませんが、これは誤りです。混同注意:実際に身体に症状があるにも関わらず、精神的な問題が背景にある病態という点で、診断名を混同する可能性があります。しかし、パーキンソン病の身体症状は実体のある神経疾患によるものです。
- 5. 統合失調症は、幻覚、妄想、まとまりのない思考や言動、陰性症状(意欲・感情の平板化、社会性の障害)などを特徴とする精神病性障害です。この患者の症状(パーキンソン病の身体症状、意欲低下、無為)は統合失調症の中心的症状とは一致しません。正しくは:幻覚、妄想、思考障害などが明確に見られる場合に疑われますが、本症例の記述からは該当しません。選びやすい理由:意欲低下や無為な様子が「陰性症状」と解釈され、統合失調症を連想するかもしれませんが、パーキンソン病におけるこれらの症状はうつ病と関連が深いです。混同注意:意欲の低下や活動性の減少といった「陰性症状」が、うつ病の症状とも共通するため、統合失調症と混同される可能性があります。しかし、パーキンソン病の合併症として最も頻度が高く、かつ症状が合致するのはうつ病です。
国試ポイント
パーキンソン病患者の精神症状として頻繁に合併するうつ病について、その症状や作業療法への影響を理解しているかを問う問題です。身体症状だけでなく、精神症状が患者の生活やリハビリテーション参加に与える影響の大きさを把握していることが重要視されます。
混同注意
パーキンソン病患者に見られる意欲低下や無為は、単なる病気による活動性低下と誤解されがちですが、うつ病の症状として適切に評価する必要があります。また、統合失調症の陰性症状と混同される可能性もありますが、パーキンソン病で最も頻繁に問題となるのはうつ病です。
次に同じ論点が出たら
次に類似の論点が出題された場合、パーキンソン病の他の非運動症状(認知機能障害、幻覚、せん妄など)や、他の神経疾患(脳血管疾患など)における精神科合併症(例:血管性うつ病)について問われる可能性があります。また、パーキンソン病の薬物療法(ドパミン補充療法)による精神症状(幻覚、妄想)についても注意が必要です。
関連知識
パーキンソン病における非運動症状(嗅覚障害、便秘、睡眠障害、うつ病、認知症など)。うつ病の診断基準(DSM-5またはICD-10/11)、症状(抑うつ気分、興味・喜びの喪失、食欲・睡眠障害、精神運動性興奮または制止、疲労感、無価値感、集中力低下、自殺念慮など)。うつ病と作業療法の関連。