58歳の男性。不動産関係の会社勤務。半年前に新プロジェクトを担当してから、下肢のしびれと疼痛を訴えるようになった。整形外科や神経内科を受診したが、身体的な疾患は認めなかった。次第に食思低下や不眠を自覚したため、精神科を受診して入院となり、作業療法が導入された。開始当初に、「足のしびれや疼痛があるので整形外科を受診できるように担当医に伝えて欲しい」と作業療法士に訴えた。このときの作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者は、身体的な疾患がないにもかかわらず下肢のしびれと疼痛を訴え、精神科に入院しています。これは身体表現性障害などの精神的な問題が身体症状として現れている可能性が高い状況です。作業療法士の最初の対応としては、まず患者の身体症状による苦痛を傾聴し、共感を示すことが極めて重要です。患者の訴えを受け止めることで信頼関係の基盤を築きます。この段階で、安易に専門外の受診を約束したり、症状の原因が精神的なものであると一方的に説明したり、作業療法の効果を断定的に保証することは、患者の不信感を招き、治療への抵抗を高める可能性があります。また、直接的にストレス要因を探る質問も、まだ患者が受け入れにくい段階である可能性があります。したがって、患者の訴えを傾聴し、受容する姿勢を示すことが最も適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。患者は身体症状で苦痛を感じており、その訴えを傾聴し共感を示すことは、信頼関係を築く上で最も重要である。身体的疾患が除外されているため、症状が精神的な要因からきている可能性が高く、この段階で安易な受診の約束や精神的な問題だと決めつける説明は、患者の不信感を招き治療への抵抗を高める恐れがある。作業療法士は、まず患者の感情を受け止める姿勢を示すべきである。
- 2. 作業療法士が医師の判断なしに、専門外の受診を約束することは不適切である。医療チームとしての連携を無視した行為であり、患者に対して無責任な期待を抱かせることになる。身体疾患が除外されている現状では、安易な受診の約束は患者の精神科治療への抵抗を強める可能性がある。正しくは:患者の訴えを傾聴し、その上で必要に応じて、チーム内で情報共有や検討を行う姿勢を示す。受診の可能性については、担当医と相談の上で決定することを伝える。選びやすい理由:患者の苦痛を和らげたいという思いから、患者の希望に応えることが良い対応だと感じるかもしれない。混同注意:患者の訴えを尊重することと、その訴えをそのまま実行することを混同しやすい。
- 3. 患者が身体症状で苦痛を感じている状況で、その症状が精神的なものであると繰り返し説明することは、患者の感情を否定することになり、不信感を抱かせやすい。患者が症状を精神的なものとして受け入れられる段階は、信頼関係が構築され、患者自身が内省できるようになってからである。正しくは:まずは患者の訴えを傾聴し、共感を示す。精神的な要因への理解を促す場合は、患者の準備性に合わせて慎重に行い、一方的な説明は避ける。選びやすい理由:身体的な原因がないと診断されているため、事実を伝えることが適切だと考えるかもしれない。混同注意:医療者が事実を知っていることと、患者にその事実をいつ、どのように伝えるべきかを混同しやすい。
- 4. 新プロジェクトがストレス要因である可能性は高いが、作業療法開始当初で患者が身体症状の解決を求めている段階で、直接的に精神的な問題の核心に触れる質問は時期尚早である可能性がある。患者はまだ精神的な問題として症状を認識しておらず、身体症状への苦痛を強く訴えているため、まずはその訴えを受け止めることが優先される。正しくは:まずは身体症状に関する訴えを傾聴し、共感を示す。信頼関係が構築され、患者が精神的な側面にも目を向けられるようになった段階で、生活状況やストレス要因について探索的に関わる。選びやすい理由:患者の症状の背景にあるストレス要因を探ることは、精神科作業療法として重要な介入であると考えるため、適切な対応だと感じるかもしれない。混同注意:長期的な介入目標と、初期段階での最も優先すべき対応を混同しやすい。
- 5. 作業療法の効果を断定的に保証することは、専門職として不適切である。治療効果には個人差があり、必ずしも特定の症状が軽減するとは限らない。また、身体症状の軽減を作業療法の主要な目標として提示することは、患者が精神的な問題に向き合う機会を奪う可能性もある。正しくは:作業療法が患者の全体的な健康や生活の質の向上にどのように役立つか、具体的な活動内容や目標を説明する。症状の軽減は、活動を通じて自己効力感が高まることで間接的に期待される可能性もあるが、それを保証する形では伝えない。選びやすい理由:患者の不安を和らげたいという思いや、作業療法への動機付けを促したいという気持ちから、ポジティブな効果を強調することが良いと考えるかもしれない。混同注意:作業療法の有効性を伝えることと、特定の症状の軽減を保証することを混同しやすい。
国試ポイント
精神科領域における作業療法士の初期対応、特に身体症状を訴える患者への関わり方、患者との信頼関係構築の重要性、専門職としての倫理的判断が問われています。身体症状の背景に精神的な問題がある場合に、作業療法士がどのように患者に接するべきかという臨床実践能力を評価する問題です。
混同注意
患者の訴えを「傾聴する」ことと、「患者の要求をそのまま受け入れる」ことや「症状の原因を説明する」ことを混同しやすいです。また、精神科の患者に対して「身体的な問題ではない」ことを伝えるべきか否かの判断も迷いやすい点です。作業療法士としての役割と、医師の役割の区別も重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の症例で問われる場合、初期対応の次段階として、どのように患者の症状の背景にある心理的・社会的要因に焦点を当てていくか、具体的な作業活動を通じてどのように症状を緩和し、生活適応を支援していくかといった介入内容が問われる可能性があります。また、精神科での身体症状への対応として、医師や他職種との連携のあり方も着眼点となります。
関連知識
身体表現性障害(現在はDSM-5で身体症状症および関連症群に含まれる)、精神科作業療法の初期プロセス、患者中心のアプローチ、医療チームにおける連携、ラポール形成の重要性。