85歳の男性。脳血管障害による右片麻痺で、発症から5か月が経過。回復期リハビリテーション病棟に入院中。主な介護者は77歳の妻。左手でT字杖を使用して屋内平地歩行は可能であるが、屋外は車椅子介助である。排泄はトイレにて自力で行うが、夜間頻尿と切迫性尿失禁がある。自宅の見取り図を示す。在宅復帰に向けて住環境の調整を行う際、作業療法士のアドバイスで正しいのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
夜間頻尿と切迫性尿失禁がある利用者の場合、夜間の排泄時の転倒リスクを軽減することが重要です。寝室をトイレに近いB客室に変更することで、移動距離が大幅に短縮され、安全かつスムーズな排泄が可能になります。これは、転倒予防と介護負担軽減の両面で非常に有効なアドバイスです。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。現在の寝室からトイレまでの距離が長く、夜間頻尿と切迫性尿失禁がある利用者にとって転倒リスクが高まります。B客室はトイレに近いため、移動距離が短縮され、夜間の転倒リスク軽減や排泄動作の負担軽減につながります。
- 2. ベッドの頭の向きを逆にするだけでは、トイレまでの移動距離や経路の改善にはつながりません。むしろ、既存の生活動線を考慮すると、不便になる可能性があります。正しくは:ベッドの向きを変えること自体よりも、ベッドからトイレへの経路を短縮したり、ベッドサイドにポータブルトイレを設置したりする方が適切です。選びやすい理由:ベッドの向きを変えることが一般的な住環境整備の一つであるため、一見すると適切なアドバイスに見えるかもしれません。混同注意:ベッドの配置変更が動線改善に有効な場合もありますが、このケースでは根本的な問題解決にはなりません。
- 3. 右片麻痺で左手T字杖使用のため、身体を支えながら扉を開閉する際に、内開き扉は狭い空間でさらに動作を妨げ、転倒のリスクを高めます。外開きや引き戸への変更が適切です。正しくは:トイレの扉は外開きや引き戸に変更する。選びやすい理由:扉の変更は住環境整備でよくある項目であるため、反射的に選んでしまう可能性があります。混同注意:扉の開閉方向の重要性や、身体状況に合わせた扉の種類(内開き、外開き、引き戸など)の選択基準を混同する可能性があります。
- 4. 屋外スロープの両側には、車椅子の脱輪を防ぐため5 cm程度以上の立ち上がり(縁)を設けます。1 cmでは脱輪を防げません。正しくは:屋外スロープは段差を解消し、適切な勾配(一般的に1/12以下、介助を考慮すると1/15~1/20が望ましい)で設置する。選びやすい理由:スロープ設置自体は適切なアドバイスに見えますが、20cmの『立ち上がり』という記述が誤りです。混同注意:スロープの目的と、段差解消の重要性を混同する可能性があります。また、スロープの勾配に関する知識が不確かな場合、選択肢の意図を誤解するかもしれません。
- 5. 右片麻痺で左手T字杖を使用して屋内歩行が可能な利用者に対して、入浴動作のためだけに天井走行リフトを設置するのは、過剰な設備投資であり、必ずしも最優先の選択肢とは言えません。手すりの設置や入浴補助具の活用など、より簡便で費用対効果の高い方法から検討するのが一般的です。正しくは:浴室には手すりやバスボード、シャワーチェアなどの入浴補助具を設置し、必要に応じて介助方法を検討する。選びやすい理由:リフト設置は重度な障害を持つ方にとっては有効な手段であり、住環境整備の一環として考えられやすいため、選択肢として選びやすいかもしれません。混同注意:利用者の現在のADLレベルや介護者の負担、費用対効果を考慮せずに、重度な対策を全てのケースに適用しようと混同する可能性があります。自立支援の原則と、過剰な介助・設備のバランスを見誤ることもあります。
国試ポイント
脳血管障害後の片麻痺患者の住環境整備において、利用者の現在のADLレベル、主要な介護者の状況、具体的な問題点(この場合は夜間頻尿と切迫性尿失禁、屋外歩行困難など)を総合的に判断し、最も優先度が高く、かつ実現可能な改善策を選択できるかどうかが問われています。特に、転倒リスクの軽減と生活の質の向上に直結するアドバイスを見抜く力が求められます。
混同注意
各選択肢が、住環境整備で考慮される項目(寝室の配置、ベッドの向き、扉の種類、スロープ、入浴補助具など)に関連しているため、個々の項目が持つ意味や、利用者の具体的な状況に照らし合わせた際の適切性を判断する際に混同しやすい。特に、不適切な表現(例:スロープに立ち上がり)や、利用者の状態に対して過剰または不十分な対策を見抜くことが重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出題された場合、まず利用者の主要な問題点(今回のケースでは夜間頻尿・切迫性尿失禁とそれに伴う転倒リスク)を明確にし、その問題点を解決するために最も効果的で現実的な住環境調整は何かを検討します。次に、提示された選択肢が、その問題解決にどれだけ寄与し、あるいは弊害とならないかを一つずつ検証します。特に、不適切な表現や過剰・不十分な対策が含まれていないか注意深く読み解くことが重要です。
関連知識
ADL評価(FIM/BI)、住宅改修の原則(バリアフリー、ユニバーサルデザイン)、転倒予防の知識、介護保険制度における住宅改修費支給、福祉用具の知識、環境適応に関する作業療法の理論。