68歳の女性。脳梗塞で回復期リハビリテーション病院に入院中。作業療法中に図のような状態を示した。考えられる障害はどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
本事例の患者は、櫛の「形」を正確に描写できることから視覚的な知覚・構成は保たれていると考えられますが、「何に使うものか」「名前は何か」が分からないことから、知覚された視覚情報と既有知識(意味記憶)との連合が障害されていることが示唆されます。これは連合型視覚失認の典型的な症状です。他の選択肢は、行為の概念の障害(観念失行)、特定の顔認識障害(相貌失認)、脳梁による運動実行の障害(脳梁失行)であり、本事例の症状とは異なります。「拮抗失行」は一般的な用語ではありません。
選択肢ごとの解説
- 1. 観念失行は、道具を使用する手順や行為の概念自体が障害される状態です。例えば、パンにバターを塗る際に、ナイフでパンを切り、バターを直接口に入れるなど、行為の順序がめちゃくちゃになったり、誤った道具の使い方をしたりします。このケースは視覚情報から対象物を認識できない問題であり、行為の概念の障害ではありません。正しくは:「道具の使用手順が混乱し、行為の概念が失われている状態」が適切です。選びやすい理由:脳損傷後の高次脳機能障害であるため、なんとなく関連があるように感じるかもしれませんが、失行と失認は異なる概念です。混同注意:観念運動失行(目的動作は理解しているが、運動の実行が困難)と混同しやすいです。
- 2. 「拮抗失行」は一般的に確立された失行の分類には含まれません。文脈によっては、拮抗的な運動(例えば、伸筋と屈筋の協調)の困難や、両手動作の困難(脳梁失行の一部として表現されることも稀にある)を指す可能性がありますが、本事例の視覚失認の症状とは明らかに異なります。正しくは:この用語は一般的ではないため、修正は困難です。もし「二つの相反する動作を同時に行うのが困難な状態」を指すとしても、視覚認知の障害とは無関係です。選びやすい理由:「失行」という言葉が入っているため、高次脳機能障害の一つとして選んでしまう可能性があります。混同注意:特定の運動失調や、脳梁失行における左右の手の協調困難などと混同する可能性があります。
- 3. 相貌失認は、他人の顔(特に親しい人の顔)を認識できない障害です。この事例は物の形を認識しつつもその物の意味を理解できないというものであり、顔の認識に特化した問題ではありません。正しくは:「人の顔を識別できない状態」が適切です。選びやすい理由:視覚的な認識障害の一種であるため、視覚失認と似ていると感じるかもしれませんが、対象が「顔」に限定される点が異なります。混同注意:他の視覚失認(物体失認など)と混同しやすいですが、相貌失認は特定のカテゴリに限定される点が特徴です。
- 4. 脳梁失行は、脳梁の損傷によって左右の大脳半球間の情報伝達が阻害され、主に非優位半球に情報を伝達できないために、優位半球で計画された運動が非優位半球側の肢で実行できない失行です(例:右手で指示された動作を左手でできない)。本事例は視覚刺激の認識の問題であり、運動実行の障害ではありません。正しくは:「脳梁損傷により、優位半球から非優位半球への情報伝達が困難となり、主に非優位半球側の手で指示された動作ができない失行」が適切です。選びやすい理由:「失行」という言葉が入っているため、高次脳機能障害の一つとして選んでしまう可能性があります。また、脳梗塞の部位によっては脳梁も関与することがあるため、関連性を感じるかもしれません。混同注意:他の失行(観念失行、観念運動失行など)と混同しやすいですが、左右の半球間連絡障害に特化している点が特徴です。
- 5. 正解。連合型視覚失認は、視覚的に対象物の形や特徴を認識できる(模写などが可能)にもかかわらず、それが何であるか(意味)を理解したり、名前を呼んだりすることができない状態です。患者が櫛の形を正確に描写できるものの、その用途や名前を認識できないという本事例の症状に完全に合致します。
国試ポイント
視覚失認の種類(統覚型、連合型、相貌失認など)と、失行の種類(観念失行、観念運動失行など)の鑑別がよく問われます。特に、失認と失行の違い、そして各失認・失行の具体的な症状を事例と結びつけて理解しているかが重要です。
混同注意
統覚型視覚失認(形そのものが認識できない)と連合型視覚失認(形は認識できるが意味が分からない)。失行(行為の障害)と失認(認識の障害)。相貌失認(顔の認識)と物体失認(物体の認識)。
次に同じ論点が出たら
「視覚的に対象物の形を認識できるか(模写ができるか否か)」と「その対象物の意味や用途を理解できるか」の2点を区別して事例を読み解くことが重要です。模写可能で意味不明であれば連合型、模写困難であれば統覚型と判断できます。
関連知識
失認、失行、失語などの高次脳機能障害全般の分類、症状、病巣部位。視覚路の解剖学(後頭葉、側頭葉、頭頂葉)。脳梗塞による各部位の損傷とそれに伴う高次脳機能障害。