24歳の女性。2年前、大学卒業時に統合失調症で3か月間入院した。退院後、アルバイトを転々とし、1年前に再発し入院した。退院後はデイケアに通所し、就労準備プログラムに参加した。作業でのケアレスミスが多く見られ、スタッフとの面談で「作業を説明されても途中から理解できなくなる。働く自信がない」と語った。この患者の評価で最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この患者は統合失調症の既往があり、デイケアの就労準備プログラムに参加しているものの、「作業でのケアレスミスが多い」「作業を説明されても途中から理解できなくなる」と訴えています。これらは統合失調症の認知機能障害に典型的な症状であり、就労準備を進める上でその詳細な評価が不可欠です。BACSは統合失調症に特化した認知機能の評価尺度であり、注意、記憶、遂行機能などを包括的に評価できるため、この状況で最も適切な評価ツールと言えます。
選択肢ごとの解説
- 1. RASはリカバリーの段階や要素を評価する尺度であり、精神症状や認知機能の具体的な障害そのものを直接評価するものではありません。この患者は認知機能の困難により就労準備に支障をきたしているため、認知機能の評価が優先されます。正しくは:この患者の認知機能障害を直接評価する尺度が必要です。選びやすい理由:統合失調症の患者で「働く自信がない」という発言から、リカバリーの側面が問われていると感じるかもしれませんが、このケースでは就労準備プログラムでの具体的な困難(ケアレスミス、説明理解の困難)が示されており、より直接的な原因としての認知機能障害の評価が優先されます。混同注意:患者の主観的なリカバリー感覚や希望といった側面を評価する他の尺度(例:QOL尺度など)
- 2. 正解。BACSは統合失調症患者の認知機能障害を簡便かつ包括的に評価するために開発されたツールです。この患者は「作業でのケアレスミスが多い」「作業を説明されても途中から理解できなくなる」と訴えており、これらは統合失調症に典型的な認知機能障害(注意、記憶、遂行機能など)を示唆しています。就労準備プログラムへの参加を考慮すると、作業遂行能力に影響を与える認知機能の具体的な評価は極めて重要であり、BACSが最も適切です。混同注意:WAISなどの他の認知機能検査(BACSは統合失調症に特化している点が異なる)
- 3. 意志質問紙は、カナダ作業遂行測定(COPM)などと同様に、患者の興味、価値、目標、習慣といった意志的側面を評価するものです。この患者は作業遂行上の具体的な認知機能の困難を訴えており、意志の問題よりも、まず認知機能障害がどこに、どの程度あるかを評価することが喫緊の課題です。意志質問紙は、認知機能の基盤の上に形成される興味や価値観を評価するものであり、現在の状況には不適切です。正しくは:意志質問紙は、患者の興味や価値観を評価するものであり、認知機能の具体的な困難には対応していません。選びやすい理由:「働く自信がない」という発言から、意欲や意志の側面が問われているように感じるかもしれませんが、その根本には「説明が理解できない」という認知機能の問題があります。混同注意:MOHOに基づく評価ツール全般(意志質問紙はMOHOに基づくが、全てのMOHOツールがこの状況に合うわけではない)
- 4. VPI職業興味検査は、個人の興味パターンを分析し、それに合致する職業分野を特定するためのものです。この患者の場合、興味の問題以前に、作業遂行能力(認知機能)に具体的な課題が見られており、まずその障害の程度や特性を把握することが優先されます。興味は就労において重要ですが、現在の困難の原因を究明するためには不適切です。正しくは:VPI職業興味検査は、認知機能の具体的な困難を評価するものではありません。選びやすい理由:就労準備プログラムに参加していることから、職業選択の側面が問われていると考えるかもしれませんが、このケースでは『作業を説明されても理解できない』という認知機能の困難が示されており、興味よりもまずその原因を探るべきです。混同注意:他の職業適性検査や就労移行支援におけるアセスメント全般
- 5. 患者は現在、就労準備プログラムに参加しており、過去のアルバイト経験や学生という役割も存在しますが、現在の問題は役割への参加意欲や価値観ではなく、役割遂行上の具体的な認知機能の困難です。この評価ツールは認知機能の直接的な評価にはなりません。正しくは:役割チェックリスト10は、認知機能の具体的な困難を評価するものではありません。選びやすい理由:「働く自信がない」という発言から、就労という役割への意識が低いと考えるかもしれませんが、その根本には認知機能の課題があります。混同注意:MOHOに基づく評価ツール全般や、生活機能の評価尺度
国試ポイント
統合失調症患者の症状と、それに適した評価ツールを正確に結びつけられるかが問われています。特に、統合失調症の主要な症状である認知機能障害の理解と、それに対応する評価ツールの知識が重要です。事例中の具体的な訴えから、患者が抱える問題の本質を見抜く臨床的推論力が求められます。
混同注意
患者の主訴が「働く自信がない」であるため、精神的なリカバリーや意志・意欲を評価する尺度(RASや意志質問紙)と混同しやすいですが、その発言の背景にある具体的な認知機能の問題を見抜く必要があります。また、就労関連のプログラムに参加していることから、職業興味や役割の評価(VPI、役割チェックリスト)も選択肢として考えられますが、まずは障害の原因となる認知機能の評価が優先されます。
次に同じ論点が出たら
もし認知機能評価の結果、特定の領域に顕著な障害が見られた場合、次にその障害に対応した具体的な介入(例:認知リハビリテーション、環境調整、代償戦略の指導)の計画や、就労における適応能力(例:作業能力検査、職業適性検査)の評価へと進むべきでしょう。
関連知識
統合失調症の主な症状(陽性症状、陰性症状、認知機能障害)、統合失調症の認知機能障害が生活機能や就労に与える影響、BACSの評価項目(言語性記憶、作業記憶、運動速度、注意・情報処理速度、遂行機能、言語流暢性など)、MOHOに基づく評価ツール(意志質問紙、役割チェックリスト)の目的と適用、リカバリー支援における評価の視点。