31歳の女性。小学生の頃から虚無感を抱くことが多かった。高校では異性との交際が活発であった。相手に過度に依存的になったかと思うと些細なきっかけで罵倒する行動がみられた。別れを切り出されると自殺をほのめかしたり、リストカットで相手を引き留めようとしたりすることが多く、成人してからも続いた。今回も自傷行為のためパートナーと精神科外来を受診した。この患者の治療法で適切でないのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第60回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
設問の女性は、虚無感、過度な依存と罵倒の繰り返し、自傷行為による引き止めなど、境界性パーソナリティ障害(BPD)の典型的な症状を示しています。選択肢1、2、3、5はいずれもBPDの治療に有効性が示されている精神療法です。一方、TEACCHプログラム(選択肢4)は、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害を持つ個人への支援プログラムであり、BPDの治療には適用されません。したがって、この患者の治療法として適切でないのはTEACCHプログラムです。
選択肢ごとの解説
- 1. この患者さんの状況は境界性パーソナリティ障害(BPD)の典型的な症状を示しており、認知行動療法はBPDの治療に有効性が報告されています。特に思考パターンや感情の調整に焦点を当てます。正しくは:認知行動療法はBPDの治療選択肢の一つとして適切です。選びやすい理由:一般的な精神疾患に対する治療法として知られているため、正しい選択肢に見えるかもしれません。混同注意:他のパーソナリティ障害やうつ病などの治療法と混同しやすいですが、BPDにも適用されます。
- 2. 力動的精神療法は、患者さんの無意識的な葛藤や過去の経験が現在の行動や人間関係にどう影響しているかを探索し、理解を深めることで症状の改善を目指します。境界性パーソナリティ障害の治療にも適用されることがあります。正しくは:力動的精神療法もBPDの治療選択肢の一つとして適切です。選びやすい理由:パーソナリティ障害のような根深い問題に対し、深層心理にアプローチするこの療法が有効そうに思えるでしょう。混同注意:精神分析療法と関連が深く、長期的な治療が必要となることが多いため、他の短期間の療法と比較して効果の出方が異なる点を混同するかもしれません。
- 3. 弁証法的行動療法(DBT)は、特に境界性パーソナリティ障害(BPD)のために開発された治療法です。感情調整のスキル、苦痛耐性、対人関係スキル、マインドフルネスの習得を目指し、高い有効性が認められています。正しくは:弁証法的行動療法はBPDの主要な治療法の一つであり、非常に適切です。選びやすい理由:この療法がBPDの特化型治療であることを知らない場合、選択肢が多いため迷うかもしれませんが、BPD治療の「ゴールドスタンダード」です。混同注意:認知行動療法(CBT)の一種ですが、BPD特有の困難(感情の不安定さや自傷行為など)に対応するために特化しており、一般的なCBTとは内容が異なります。
- 4. 正解。TEACCHプログラムは、自閉スペクトラム症(ASD)や関連する発達障害を持つ人々のための包括的な支援プログラムです。構造化された環境や視覚的な手がかりを用いて、自立と適応を支援することを目的としています。設問の女性は境界性パーソナリティ障害の症状を示しており、発達障害の治療プログラムであるTEACCHプログラムは彼女の治療には適切ではありません。正しくは:TEACCHプログラムは自閉スペクトラム症など発達障害の支援プログラムであり、境界性パーソナリティ障害の治療には不適切です。選びやすい理由:特定の疾患に対するプログラム名なので、もしTEACCHプログラムが何であるかを知らない場合、他の選択肢と同様に精神療法の一種であると誤解する可能性があります。混同注意:各種精神疾患や発達障害の治療法・プログラムの名前と混同しがちです。TEACCHプログラムはASDのためのものであると明確に覚える必要があります。
- 5. メンタライゼーション療法(MBT)は、自分や他者の行動の背景にある精神状態(感情、思考、意図など)を理解する能力(メンタライゼーション)を高めることを目指す精神療法です。境界性パーソナリティ障害の患者さんは、対人関係の混乱や感情の不安定さからメンタライゼーションの機能が損なわれやすいため、この療法は有効性が報告されています。正しくは:メンタライゼーション療法もBPDの治療選択肢の一つとして適切です。選びやすい理由:比較的新しい療法であり、名前からその内容を推測しにくいかもしれませんが、パーソナリティ障害の治療に効果的です。混同注意:他の対人関係に焦点を当てた療法(例:対人関係療法)と混同する可能性はありますが、MBTは特にメンタライゼーションの障害にアプローチする点が特徴です。
国試ポイント
境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断的特徴を理解しているか、またBPDに有効な治療法と、発達障害など他の疾患に対する治療法を区別できるかが問われる。特に、特定の疾患に特化した治療プログラム(DBT、TEACCHなど)の知識が重要。
混同注意
境界性パーソナリティ障害と自閉スペクトラム症の鑑別、またそれぞれの疾患に対する治療法の混同。精神療法全般の知識だけでなく、各療法がどの疾患に最も効果的か、または特化しているかの理解が求められる。
次に同じ論点が出たら
同様の症状を呈するケーススタディが出た場合、まず境界性パーソナリティ障害を鑑別し、その上で示された選択肢がその疾患に対する適切な治療法であるか、あるいは他の疾患に対するものかを判断する。また、各療法の具体的な内容や目的についても確認する。
関連知識
境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)、弁証法的行動療法(DBT)の構成要素、メンタライゼーションの概念、TEACCHプログラムの原則と対象疾患。パーソナリティ障害の概念と他の精神疾患との鑑別。