8歳の男児。幼児期より落ち着きがなくじっとしていられず、家族で外出した際にはよく迷子になり、両親も養育に困難を感じていた。小学校に入学してからは、授業中に勝手に席を立って歩き出したり、順番を守ることも難しく、日常的に忘れ物や落とし物も多く、うっかりミスをして教師に注意されるが、その後も同じミスを繰り返していた。授業中は周囲の雑音に注意を削がれて勉強に集中できず、最近では学業不振が目立ち始めたため放課後等デイサービスで作業療法士が対応することになった。作業療法士の対応として適切でないのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
選択肢5は、ADHDの特性を持つ子どもに対する不適切な対応です。ADHDの子どもは、注意欠陥や多動性、衝動性といった特性から行動を制御することが難しく、単に「強く促す」だけでは行動改善に繋がりません。むしろ、自己肯定感を低下させ、問題行動を悪化させる可能性があります。作業療法士は、子どもの特性を理解した上で、環境調整、具体的な行動目標設定、スモールステップでの支援、肯定的な声かけ、そして教員との連携による具体的なサポート方法を提案・協働すべきです。他の選択肢は、ADHDを持つ子どもの特性や置かれている状況を考慮した上で、作業療法士が取りうる適切な介入や情報収集の方法です。
選択肢ごとの解説
- 1. この男児には多動性、不注意、衝動性といったADHDの特性が見られ、感覚処理の問題が背景にある可能性も考えられます。感覚統合療法は、感覚情報の処理を改善することで、落ち着きのなさや集中困難の軽減に繋がる可能性があるため、適切な介入となり得ます。正しくは:感覚統合療法は、ADHDの特性を持つ子どもに対し、感覚刺激への過敏さや鈍感さを調整し、自己制御能力を高める目的で実施されることがあります。選びやすい理由:ADHDに対する直接的な治療法とは限らないため、選択肢として迷うかもしれませんが、発達障害の二次的な問題や併存する感覚処理の問題へのアプローチとしては有効です。混同注意:ADHDの薬物療法や行動療法と混同し、感覚統合療法が主要な介入ではないと考える可能性があります。
- 2. ご両親が「養育に困難を感じていた」とあるように、お子様の行動への対応に悩んでいることが示唆されます。ペアレントトレーニングは、保護者が子どもの問題行動への効果的な対処法や肯定的な関わり方を学ぶためのプログラムであり、子どもの行動改善を促し、家庭での養育環境を整える上で非常に有効な介入です。正しくは:保護者が子どもの行動特性を理解し、適切な肯定的な声かけや指示の出し方を学ぶことで、子どもの行動調整能力を育むことができます。選びやすい理由:直接子どもへの介入ではないため、効果がすぐに現れないと考えるかもしれませんが、長期的な視点で見ると非常に重要な支援です。混同注意:子どもの直接的な治療プログラムと混同し、保護者への介入の優先度が低いと考えるかもしれません。
- 3. 男児は「授業中に勝手に席を立って歩き出したり、順番を守ることも難しく」「うっかりミスをして教師に注意される」など、集団でのルール遵守や対人関係スキルに課題が見られます。SSTは、これらの社会的な状況で必要となる技能を練習し、獲得していくことを目的とするため、本児の課題に対して非常に有効な介入です。正しくは:SSTを通して、適切な行動やコミュニケーションの方法をロールプレイングなどで学び、実際の社会生活で応用できるように支援します。選びやすい理由:ADHDの特性を持つ子どもには衝動性や不注意が先行するため、SSTがすぐに効果を発揮するか疑問に思うかもしれませんが、長期的な適応を考えると重要な介入です。混同注意:学業不振が主訴であるため、SSTよりも学習支援を優先すべきだと考えるかもしれません。
- 4. 男児の困難は「小学校に入学してからは、授業中に勝手に席を立って歩き出したり」「授業中は周囲の雑音に注意を削がれて勉強に集中できず」と、学校生活、特に授業中の状況で顕著です。作業療法士が学校を訪問し、実際の環境で男児の行動や困難を観察することは、問題の背景を正確に把握し、具体的な環境調整や介入計画を立てる上で不可欠な情報収集となります。正しくは:実態を把握することで、教室の座席配置や学習環境の調整、教員への具体的な助言など、より個別化された支援が可能になります。選びやすい理由:直接的な介入ではないため、すぐに効果が出ないと感じるかもしれませんが、適切な介入には正確なアセスメントが必須です。混同注意:学校への訪問が、治療行為そのものと直接結びつかないと考える可能性があります。
- 5. 正解。ADHDの特性を持つ子どもに対し、単に「より強く行動修正を促す」だけでは、子どもの特性を理解せず、不適切な対応となり得ます。ADHDの子どもは、自分の意思では行動を制御しにくい場合が多く、叱責や強制だけでは根本的な解決にはなりません。むしろ、子どもの自己肯定感を低下させ、二次的な問題行動を引き起こす可能性があります。作業療法士は、子ども自身の特性を理解した上で、環境調整や具体的なスキル指導、教員との協働による支援策を提案すべきであり、一方的に教員に「促す」よう依頼するのは適切ではありません。正しくは:担任の先生には、ADHDの特性に関する情報提供、具体的な行動への理解、子どもの行動をサポートするための環境調整の提案、ポジティブな声かけやスモールステップでの目標設定などを協働して行うよう依頼することが適切です。選びやすい理由:教師が介入することで行動が改善すると考えるかもしれませんが、ADHDの特性を理解せずに「促す」だけでは逆効果になることを理解する必要があります。混同注意:教師への情報提供や協働とは異なり、単なる『指示・依頼』として捉えてしまう可能性があります。
国試ポイント
発達障害、特にADHDの特性を理解し、その子どもに対する作業療法士としての適切な介入方法と、不適切な介入方法を区別できるかどうかが問われています。特に、単なる行動修正の強制が適切でない点を理解しているか重要です。
混同注意
ADHDの子どもへの対応として、一時的な行動抑制と根本的な行動改善支援を混同しやすい。また、教師への協力依頼と、不適切な指示を区別できない可能性がある。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出た場合、発達障害を持つ子どもへの介入において、特性に基づかない一方的な行動強制や叱責は不適切であるという原則を常に念頭に置くこと。また、環境調整、家族支援、学校連携、具体的なスキル指導の重要性を確認すること。
関連知識
ADHDの診断基準(DSM-5)、感覚統合障害、ペアレントトレーニングの目的と効果、SSTの適用と内容、学校連携の重要性、発達障害のある子どもへの環境調整の原則。