23歳の男性。中学生の頃から対人緊張が強く、人前での食事で発汗や赤面、緊張が強まることがあった。大学進学後も実習の発表時に緊張が強く、動悸や発汗を苦にしていた。卒業後に病院で作業療法士として働いていたが、通勤中のバスに停留所から同僚が数人乗り込んでくると、動悸、振戦、発汗が生じるようになった。車内に知り合いがいなければ不安や自律神経症状を生じることはない。考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この男性は、人前での食事や発表、同僚との同乗など、他者の注目を浴びたり評価されたりする可能性のある特定の社会的状況で一貫して強い不安と身体症状(動悸、発汗、赤面、振戦)を経験しています。そして、これらの状況以外では症状が現れないという記述から、他者からの評価への恐怖が中核にあることが示唆されます。これは社交不安障害の診断基準と非常に良く合致します。
選択肢ごとの解説
- 1. 解離性障害は、意識、記憶、同一性、または環境の知覚の統合性が障害されることで、健忘、遁走、同一性障害などの症状が現れるものです。事例の男性の症状とは異なります。正しくは:意識や記憶、自己同一性の障害、現実感の喪失などが主症状となる。選びやすい理由:精神的なストレスが関与する点は共通しているため、漠然とした不安から誤って選ぶ可能性。混同注意:統合失調症の解離症状や、単なる健忘と混同しやすい。
- 2. 強迫性障害は、不快な強迫観念(頭から離れない思考)とそれによる強迫行為(繰り返しの行動)が特徴です。事例の男性の症状は特定の状況下での身体症状と不安であり、強迫観念や強迫行為は見られません。正しくは:反復する不合理な思考(強迫観念)と、それを打ち消すための反復行動(強迫行為)が主症状となる。選びやすい理由:不安を伴う精神疾患であるため、広範な不安障害の一つと誤解する可能性。混同注意:神経症性障害の一種として、うつ病や他の不安障害と混同されることがある。
- 3. パニック障害は、予期せぬパニック発作(動悸、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴う強い恐怖)が繰り返し起こり、それに加えて次の発作への不安(予期不安)や広場恐怖を伴うことがあります。この事例の男性の症状は特定の社会的状況に限られており、予期せぬ発作ではないため異なります。正しくは:突発的かつ予期しないパニック発作が繰り返し起こり、それに伴う予期不安や広場恐怖が主症状となる。選びやすい理由:動悸や発汗といった身体症状が共通しているため、一番選びやすい誤答肢。混同注意:特定の状況での不安(社交不安障害)と、予期せぬ強い発作(パニック障害)の区別がつきにくい。
- 4. 正解。社交不安障害(旧称:社交恐怖)は、他者の注目を浴びる状況や、他者から評価される可能性のある状況で、強い不安や恐怖を感じる精神疾患です。この男性は、人前での食事や発表、同僚とのバス内など、他者の視線や評価が気になる状況で特異的に動悸、発汗、赤面、振戦といった身体症状を伴う強い不安を示しており、これは社交不安障害の典型的な症状と一致します。選びやすい理由:症状が身体的であるため、身体疾患やパニック障害と混同されがちだが、特定の社会的状況に限定される点がポイント。混同注意:単なる『内気』や『あがり症』と混同されることがあるが、機能的な障害を伴う場合に診断される。
- 5. PTSDは、生命を脅かすような心的外傷となる出来事(事故、災害、暴力など)を経験した後に発症する精神疾患で、フラッシュバック、悪夢、回避行動、過覚醒などが特徴です。事例の男性の症状は特定の社会的状況での不安であり、心的外傷体験に起因するものではないため異なります。正しくは:過去の心的外傷体験が原因となり、フラッシュバック、回避行動、過覚醒などの症状が続くもの。選びやすい理由:『緊張が強い』という表現から、強いストレスやトラウマが背景にあると誤解する可能性。混同注意:急性ストレス障害や適応障害など、ストレス関連疾患全般と混同しやすい。
国試ポイント
精神疾患の鑑別診断、特に不安障害群の症状と診断基準を正確に理解しているかが問われます。具体的な症例から、各疾患の核となる特徴を捉え、適切な診断名を選択する能力が求められます。特に、パニック障害との区別が重要です。
混同注意
パニック障害:身体症状が似ているが、予期せぬ発作か特定の社会的状況に限定されるかで鑑別。全般性不安障害:広範な事柄に対する持続的な不安だが、本事例は特定の状況に限定される。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合、まず症状が『特定の状況』に限定されているか、それとも『予期せず』発症するか、『広範な事柄』に対するものかを判断する。また、強迫観念や心的外傷体験の有無を確認し、鑑別を進める。
関連知識
DSM-5やICD-10/11における各精神疾患の診断基準、特に不安症群の鑑別点。治療法としては、認知行動療法(曝露療法、社会的スキル訓練)、薬物療法(SSRIなど)が挙げられる。