45歳の女性。20歳前後から、心理的負荷がかかるとリストカットを行うようになり縫合を必要とすることが多かった。また、自分の思い通りにいかないと易怒的となり、周囲に暴言を吐くこともあった。25歳時に精神科を初めて受診し、以後、過量服薬時に数回の入院歴があるが、現在は調理の仕事に就いて3年目となる。最近、職場の人間関係で正論を吐きすぎて孤立し、結果として焦燥感が強まり、主治医の勧めで仕事のシフトのない平日の日中に外来作業療法を開始することになった。この時点での作業療法士の関わりとして最も適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この患者は、感情のコントロールの困難さ、衝動的な行動化(リストカット、過量服薬、暴言)の既往があり、対人関係でのトラブルを繰り返しやすい特徴があります。このようなケースでは、医療スタッフ間で対応が異なると、患者が混乱したり、医療者間の対立を誘発したりするリスクがあります。そのため、医療チーム全体で患者に対する理解を共有し、一貫した態度と方針で関わることが、患者に安心感を与え、治療関係を安定させ、効果的な介入につながる上で最も重要です。これは、特に境界性パーソナリティ障害の特性を持つ患者への対応の基本となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 現在の仕事は5年継続しており、生活基盤として安定している可能性があります。焦燥感の原因が職場の人間関係にあるため、すぐに転職を勧めるのは時期尚早であり、問題解決の機会を奪うことにもつながりかねません。まずは現状の職場での対処法を支援すべきです。正しくは:現在の職場で抱える人間関係の課題に対する対処法を共に検討し、適応能力を高める支援を行う。選びやすい理由:職場の人間関係が原因でストレスが高まっているため、環境を変えることが手っ取り早い解決策のように感じられるかもしれない。混同注意:安易な環境調整と、問題解決に向けた建設的な支援。
- 2. 患者は現在、焦燥感は強いものの、仕事に就いて5年継続しており、外来作業療法を開始できる状態です。直ちに再入院が必要なほどの状態ではないと判断できます。まずは外来での支援を通じて、問題解決能力の向上やストレス対処法の習得を目指すべきです。正しくは:まずは外来での作業療法を通じて、患者の現在の状況を評価し、ストレス対処能力の向上や社会適応支援を継続する。選びやすい理由:過去に過量服薬による入院歴があるため、焦燥感が強いという現状から、悪化を心配して入院が頭をよぎるかもしれない。混同注意:焦燥感などの精神症状と、直ちに入院が必要な急性期の病状の区別。
- 3. 正解。患者は感情のコントロールが難しく、易怒性や行動化(自傷行為、過量服薬、暴言)の既往があるため、医療者に対して分裂的な対応を求める可能性や、医療者間で対応が異なると混乱を招きやすい特徴があります。一貫した対応は、患者が医療者に対して安心感と信頼感を持ち、治療関係を安定させる上で極めて重要です。
- 4. 行動化(自傷行為、過量服薬、暴言など)の傾向がある患者に対しては、心理的な距離を適切に保ち、一定の枠組みやルールの中で安定した関係性を築くことが重要です。心理的な距離を縮めすぎると、患者が医療者に過度に依存したり、境界線があいまいになり治療関係が不安定になるリスクがあります。正しくは:行動化の傾向がある患者に対しては、心理的な距離を適切に保ち、明確な境界線を設定した上で安定した治療関係を築く。選びやすい理由:共感や理解を示すために、心理的な距離を縮めることが良いと誤解されるかもしれない。混同注意:共感的な態度と、境界線の曖昧な関係性。
- 5. 患者は感情のコントロールが不安定で、過去に行動化の傾向が見られます。このような患者に対し、日々の対応を臨機応変に変えることは、治療の一貫性を欠き、患者を混乱させたり、医療者への不信感を抱かせたりする可能性があります。安定した治療環境と予測可能な対応が、安心感と信頼関係を構築する上で不可欠です。正しくは:患者の希望も考慮しつつ、治療計画に基づいた一貫性のある対応を継続する。選びやすい理由:患者中心の医療という考え方から、希望を尊重することが良いと誤解されるかもしれない。混同注意:患者の意見を尊重することと、治療的枠組みの逸脱。
国試ポイント
精神疾患、特にパーソナリティ障害や感情制御が難しい患者に対する作業療法士の基本的な関わり方、特にチームアプローチの重要性について問う問題です。患者の特性を理解し、治療的関係を構築するための原則が理解できているかが試されます。
混同注意
個別性への配慮と一貫した対応の区別、共感と過度な同一視の区別、環境調整と問題解決スキルの向上支援の区別。
次に同じ論点が出たら
同様のケースでは、患者の主訴だけでなく、過去の病歴や行動特性から潜在的な課題(感情調整の困難さ、対人関係の問題、衝動性など)を読み取り、それに対する治療原則(チームによる一貫性、境界線の設定、構造化された環境提供など)が選択肢に含まれているかを確認する。
関連知識
境界性パーソナリティ障害の診断基準と治療原則、医療におけるチームアプローチの重要性、精神科作業療法における治療的関係の構築、行動化への対処法、患者のニーズに応じた段階的な支援。