80歳の男性。3年前にAlzheimer型認知症と診断された。妻の介護で在宅生活を続けてきたが、夜間不眠、妄想と興奮が顕著となり入院治療を受けた。その後、症状が落ち着き、在宅復帰の前段階として介護老人保健施設に入所した。この入所者の行動・心理症状の評価で適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この事例の患者様は、夜間不眠、妄想、興奮といった『行動・心理症状(BPSD)』が顕著であるため、これらの症状に特化して評価できる尺度を選択する必要があります。NPI(神経精神医学的インベントリー)は、認知症に伴う様々なBPSD(例:妄想、幻覚、興奮、抑うつ、不安、無感情、脱抑制、易刺激性、夜間行動異常など)を評価する目的で開発された尺度であり、頻度、重症度、介護負担の観点から症状を客観的に捉えることができます。他の選択肢は、認知機能全般、認知症の重症度、前頭葉機能、機能的な進行度などを評価するものであり、BPSDの詳細な評価には適していません。
選択肢ごとの解説
- 1. ADAS-cogは、記憶、言語、構成などの認知機能の評価に特化しており、行動・心理症状(BPSD)を直接評価する尺度ではありません。正しくは:行動・心理症状の評価には適していません。主に認知機能の評価に用いられます。選びやすい理由:アルツハイマー病の診断名があるため、認知症全般の評価尺度として選択肢にあると、知識が曖昧な場合に選んでしまいやすいです。混同注意:認知症の進行度や重症度を全体的に評価する尺度や、認知機能評価尺度と混同されやすいです。
- 2. CDRは、認知症の全体的な重症度や進行段階を評価するための尺度であり、行動・心理症状(BPSD)に特化した詳細な評価はできません。正しくは:行動・心理症状の評価には適していません。認知症の重症度を段階的に評価する際に用いられます。選びやすい理由:アルツハイマー型認知症と診断されているため、病期の評価尺度として妥当に見えてしまうことがあります。混同注意:認知症の全体像を捉える尺度と、特定の症状(BPSD)を詳細に評価する尺度を混同しやすいです。
- 3. FABは、前頭葉機能(抽象概念、精神的柔軟性、行動計画など)を評価するための尺度であり、行動・心理症状(BPSD)そのものを直接的に評価するものではありません。正しくは:行動・心理症状の評価には適していません。前頭葉機能障害が疑われるケースの認知機能評価に用いられます。選びやすい理由:行動症状は前頭葉機能と関連がある場合が多いため、間接的な関連を誤解して選んでしまう可能性があります。混同注意:認知機能の一部分(前頭葉機能)を評価する尺度と、行動・心理症状を直接評価する尺度を混同しやすいです。
- 4. FASTは、アルツハイマー病の進行段階を日常生活動作(ADL)の低下に基づいて評価する尺度であり、行動・心理症状(BPSD)に焦点を当てた評価ツールではありません。正しくは:行動・心理症状の評価には適していません。アルツハイマー病の機能的な進行度を評価する際に用いられます。選びやすい理由:認知症の重症度を測る尺度の一つであるため、認知症患者全般に用いられるものとして誤って選んでしまう可能性があります。混同注意:認知症の全体的な機能レベルや進行度を評価する尺度と、BPSDに特化した詳細な評価尺度を混同しやすいです。
- 5. 正解。NPIは、認知症患者に特有の行動・心理症状(BPSD)の有無、頻度、重症度、介護者の負担度を包括的に評価するために開発された尺度です。本事例のように夜間不眠、妄想、興奮といった具体的なBPSDが顕著な状況の評価に最も適しています。
国試ポイント
作業療法士国家試験では、認知症の評価尺度に関して、その名称と評価内容、そしてどのような目的でどの尺度が適切であるかという実践的な知識が問われます。特に、認知機能評価尺度と行動・心理症状(BPSD)評価尺度を区別し、それぞれの尺度の特徴を理解しているかが重要です。
混同注意
認知症に関する評価尺度は多岐にわたり、それぞれ評価する側面が異なります。例えば、MMSEやHDS-Rのような『全般的認知機能評価尺度』、CDRやFASTのような『認知症の全体的な重症度・進行度評価尺度』、そしてNPIやBEHAVE-ADのような『行動・心理症状(BPSD)評価尺度』などを混同しやすいです。問題文で何に焦点を当てた評価が求められているかを正確に把握することが重要です。
次に同じ論点が出たら
次に同様の論点が問われた際には、まず問題文で『何について評価を求めているか』を明確に確認することが重要です。特に「認知機能」なのか「行動・心理症状(BPSD)」なのか、あるいは「日常生活動作(ADL)」や「全体の重症度」なのかといったキーワードに注目します。その後、各評価尺度がどの側面を主に評価するものであるかを想起し、適切なものを選択できるよう準備しておくことが求められます。
関連知識
認知症の行動・心理症状(BPSD)を評価する尺度にはNPIの他に、BEHAVE-AD(Behavioral Pathology in Alzheimer's Disease Rating Scale)、BPSDスケール(行動・心理症状アセスメント尺度)、コーネルうつ病評価尺度(認知症におけるうつ病評価)などがあります。認知症の全体像を評価する尺度としてはMMSE(Mini-Mental State Examination)、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)、ADAS-cog、CDRなどが挙げられます。