背臥位のまま右手でスマートフォンを持ち電子書籍を閲覧していた。図のように、この時の肩関節は屈曲40度、肘関節は屈曲90度であった。文字が見づらいためゆっくり肘を曲げて画面を顔に近づける際に活動する筋と収縮様式の組合せで正しいのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
スマートフォンを顔に近づけるために「ゆっくり肘を曲げる」動作は、重力(スマートフォンと腕の重み)に抗しながら肘関節を屈曲させている状況です。この時、肘関節の屈筋群(上腕二頭筋、上腕筋など)は重力に打ち勝つ形で求心性収縮を行います。同時に、肘関節の伸筋群である上腕三頭筋は、重力と屈筋の活動によって肘が屈曲していく動きを制御し、ゆっくりとした動きを可能にするために、筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する『遠心性収縮』を行います。重力に抗して「ゆっくりと」動かす場合の、拮抗筋(この場合は伸筋)の遠心性収縮の理解が問われる問題です。
選択肢ごとの解説
- 1. 肘をさらに曲げる(屈曲を増やす)動作なので、肘関節の屈筋が活動します。上腕二頭筋は肘関節の屈筋ですが、遠心性収縮は筋肉が伸びながら力を出す収縮様式であり、ここでは屈曲を増やす動作に対しては求心性収縮が主になります。また、ゆっくりと重力に逆らうように動かす際には、重力の影響も考慮する必要があります。正しくは:上腕二頭筋の求心性収縮選びやすい理由:上腕二頭筋が肘を曲げる筋肉であることは正しいですが、「遠心性」という収縮様式が誤りです。混同注意:求心性収縮と遠心性収縮の区別、およびその動作への適用。
- 2. 肘をさらに曲げる(屈曲を増やす)動作なので、肘関節の屈筋が活動します。上腕二頭筋は肘関節の屈筋ですが、等張性収縮は筋肉の長さが変化しない収縮様式であり、ここでは肘の角度が変化するため適切ではありません。また、求心性収縮と遠心性収縮を合わせた動的収縮を指すこともありますが、選択肢の他の具体性に劣ります。正しくは:上腕二頭筋の求心性収縮(または動的収縮のうち求心性)選びやすい理由:上腕二頭筋が肘を曲げる筋肉であることは正しいですが、「等張性」という収縮様式が誤りです。等張性収縮は動的収縮の総称として用いられることもありますが、より具体的には「求心性」「遠心性」に分けられます。混同注意:等張性収縮の定義と、求心性・遠心性収縮との関係性。
- 3. 正解。スマートフォンを顔に近づけるために「ゆっくり肘を曲げる」動作は、重力(スマートフォンと腕の重み)に抗しながら肘関節を屈曲させています。この時、主要な屈筋(上腕二頭筋など)が求心性収縮を行いますが、同時に伸筋である上腕三頭筋は、この動きを制御し、ゆっくりと屈曲が進むように抵抗しながら伸長する(緩める)働きをしています。この「重力に逆らいながら、ゆっくりと関節運動を制御する」場合の伸筋の活動は、遠心性収縮に該当します。この動作は、重力に抗して屈筋が収縮しつつ、伸筋がブレーキをかけながら伸びることで滑らかに行われます。本設問では、ゆっくりと曲げる動作なので、伸筋である上腕三頭筋が重力に抗して遠心性収縮することで、屈曲速度を調整していると考えられます。例えば、完全に脱力すれば重力によって一気に屈曲しますが、それを防ぐために伸筋が力を発揮しつつ伸びることで、滑らかな動きが実現します。混同注意:主要動作筋(アゴニスト)と拮抗筋(アンタゴニスト)の役割、および重力下での動作における収縮様式の理解。
- 4. 上腕三頭筋は肘関節の伸筋です。肘を曲げる動作において、上腕三頭筋が求心性収縮(筋肉が短縮しながら力を出す)をすると、肘関節は伸展してしまいます。これは設問の「肘を曲げて」という動作に矛盾します。正しくは:上腕二頭筋の求心性収縮、または上腕三頭筋の遠心性収縮選びやすい理由:筋肉の名前と収縮様式を混同しやすい。上腕三頭筋が肘を伸ばす筋肉であることを理解していれば選びにくい。混同注意:各筋肉の作用(屈曲か伸展か)と求心性収縮の組み合わせ。
- 5. 上腕三頭筋は肘関節の伸筋です。肘を曲げる動作において、上腕三頭筋が等張性収縮をすると、肘関節の伸展方向に力が働き、曲げる動きが阻害されるか、伸展してしまいます。設問の「肘を曲げて」という動作には適しません。正しくは:上腕三頭筋の遠心性収縮選びやすい理由:「等張性」という言葉が、広い意味で運動を伴う収縮を指すため、一見正しいように感じられるかもしれませんが、肘を曲げる具体的な動作と上腕三頭筋の作用を考慮すると不適切です。混同注意:等張性収縮の定義と、各筋肉の作用、動作の方向性の関係。
国試ポイント
日常生活動作における特定の関節運動について、その動作に関わる主動筋、拮抗筋、そして重力の影響を考慮した上での筋肉の収縮様式(求心性、遠心性、等尺性)を正確に理解しているかが問われます。特に「ゆっくりと動かす」「重力に逆らう」「重力方向へ動かす」といった条件が収縮様式を判断する上で重要になります。
混同注意
主動筋(アゴニスト)と拮抗筋(アンタゴニスト)の役割の混同。重力下での動作における遠心性収縮の概念の理解不足。特に、拮抗筋が「ゆるめる」動作で遠心性収縮を行うこと。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず『どの関節がどの方向に動いているか』『その動作の主動筋は何か』『重力の方向と動きの方向はどうか』、そして『ゆっくり動かすのか、速く動かすのか、止めているのか』といった条件を抽出し、それに基づいて主動筋と拮抗筋それぞれの収縮様式を判断します。特に拮抗筋の遠心性収縮は引っ掛けになりやすい点です。
関連知識
筋収縮の様式(求心性収縮、遠心性収縮、等尺性収縮)の定義とその違い。各関節における主要な屈筋と伸筋の名称と作用。重力と身体運動の関係性(重力による負荷、重力方向への運動、重力に抗する運動)。