50歳の男性。妻と二人暮らし。1年前に支店長に昇進してから仕事量が増え、持ち前の几帳面さと責任感から人一倍多くの仕事をこなしていた。半年前に本社から計画通りの業績が出ていないことを指摘され、それ以来仕事が頭から離れなくなり、休日も出勤して仕事をしていた。2か月前から気分が沈んで夜も眠れなくなり、1か月前からは仕事の能率は極端に低下し、部下たちへの指揮も滞りがちとなった。ある朝、「自分のせいで会社が潰れる、会社を辞めたい、もう死んで楽になりたい」と繰り返しつぶやいて布団にうずくまっていた。心配した妻が本人を連れて精神科病院を受診し、同日入院となった。入院後1週間が経過した時に気分を聞くと、返答までに長い時間がかかり、小さな声で「そうですねえ」と答えるのみであった。作業療法士の対応として適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
重度のうつ病患者は心身ともに疲弊しており、初期段階では休息が最も重要です。このケースでは「死んでしまいたい」という希死念慮があり、仕事の効率低下も著しく、気分も落ち込んでいるため、まずは脳の疲労を回復させるための十分な静養が必要です。
選択肢ごとの解説
- 1. 退職を促すことは、患者の人生における重大な意思決定であり、精神状態が不安定な急性期に作業療法士が介入すべきではありません。症状が改善してから、患者自身の意思で検討されるべきです。正しくは:まずは十分な静養を促し、病状が安定してから今後の生活や仕事について患者自身が考えられるよう支援する。選びやすい理由:仕事のストレスが原因であるため、仕事から離れることが根本的な解決策のように思えるため。混同注意:治療計画における社会適応支援の段階。
- 2. 気分転換を目的とした活動の提案は、患者の心身に負担をかける可能性があります。特にこの患者は「夜も眠れない日々が続き」「仕事の効率が著しく低下」している重症期であり、活動による疲労が症状を悪化させる危険性があります。正しくは:気分転換の活動は、病状が回復し、患者の負担とならない段階で、個別の状態に合わせて導入を検討する。選びやすい理由:気分転換は一般的なストレス解消法であるため、無意識に良い選択肢だと考えてしまう。混同注意:軽症うつ病や、うつ病回復期の介入。
- 3. 正解。重度のうつ病患者は脳機能が低下しており、十分な休息が必要です。この男性は「死んでしまいたい」と希死念慮を訴え、心身ともに疲弊しているため、まずは心身の安静を確保し、脳の疲労を回復させることが最優先となります。作業療法士として、安心できる環境を提供し、刺激を最小限に抑えることで静養を推奨することは適切な初期対応です。選びやすい理由:特別な介入ではなく地味に見えるため、より積極的な介入を選んでしまいがち。混同注意:薬物療法や精神療法など、より直接的な治療行為。
- 4. 自信を取り戻すために励ますことは、患者にとってプレッシャーとなり、かえって自己肯定感を損なう可能性があります。うつ病患者は、励まされることで「頑張れない自分はダメだ」と感じ、罪悪感や無力感を強めることがあります。正しくは:励ますのではなく、患者の苦痛に寄り添い、安全で安心できる環境を提供することに重点を置く。選びやすい理由:落ち込んでいる人に対して励ますことが良いことだと一般的に考えられているため。混同注意:一般的な対人援助スキル。
- 5. 集団認知行動療法は、ある程度の認知機能と活動性が必要とされる治療法であり、本症例のように希死念慮があり、活動性が著しく低下している急性期の患者には適していません。患者に過度な負担をかける可能性があります。正しくは:集団認知行動療法は、病状が回復し、認知機能が安定してから、患者の参加意欲や状態に合わせて導入を検討する。選びやすい理由:認知行動療法はうつ病に有効な治療法として広く知られているため。混同注意:うつ病の回復期から維持期における精神療法。
国試ポイント
うつ病急性期の患者に対する作業療法の初期対応として、心身の安静確保が最優先であることを理解する。
混同注意
うつ病の回復期や慢性期の介入と、急性期の介入を混同しやすい。急性期は負荷の少ない静養が中心だが、回復期には活動の導入も検討される。
次に同じ論点が出たら
患者の病状の重症度、特に希死念慮の有無や活動性の低下の程度を確認し、病態が急性期であれば「静養」「休息」といった選択肢を優先的に判断する。
関連知識
うつ病の治療段階に応じて作業療法の目標と介入内容が変化する(急性期:休息と環境調整、回復期:活動の再開と生活リズムの確立、維持期:再発予防と社会適応)。