55歳の男性。営業部の部長職に就いていたが、物や人の名前や地名が出てこないことを自覚し、その後は部下を同伴して仕事を継続していた。好きな日曜大工で使用していた工具を目の前にしてもそれを呼称できなくなり妻同伴で物忘れ外来を受診した。WAIS-Ⅲでは言語性IQが79、動作性IQは131、全検査IQは103であった。その後も徐々に言いたいことが言葉にならず、仕事で著しく疲弊するようになり退職した。徐々に誰に対してもなれなれしくなり、節度を失うような人格変化も認められるようになった。この患者の受診当初のMRI画像で予想される脳の萎縮部位はどこか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この症例は、呼称困難、語義失語(物の名前が出てこない、言葉にならない)、そして脱抑制を伴う人格変化を呈しています。特にWAIS-IIIにおける言語性IQの著しい低下と動作性IQの保持という乖離は、意味性認知症(意味性痴呆)に特徴的なパターンです。意味性認知症では、左側頭葉前部(特に側頭極や下側頭回)の萎縮が認められることが最も典型的です。この萎縮が、語義失語や意味記憶障害の原因となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 側頭葉内側部の萎縮はアルツハイマー病でよく見られ、特に記憶障害(エピソード記憶)と関連が強いです。本事例では語義失語や人格変化が顕著であり、典型的ではありません。正しくは:側頭葉内側部の萎縮は、主にエピソード記憶の障害を特徴とする疾患で見られます。選びやすい理由:物忘れと聞くと、アルツハイマー病でよく見られる側頭葉内側部の萎縮を連想しやすいため。混同注意:アルツハイマー病における記憶障害と、意味記憶障害(語義失語)の違い。
- 2. 前頭葉眼窩面の萎縮は、脱抑制や衝動性亢進といった行動障害と関連しますが、主要な特徴は嗅覚障害や味覚障害、情緒不安定などです。本事例の語義失語の進行や、TPOをわきまえない行動とは直接的に一致しません。正しくは:前頭葉眼窩面の萎縮は、嗅覚障害、味覚障害、情緒不安定などに関連します。選びやすい理由:人格変化や脱抑制行動があるため、前頭葉の関与を考える候補になりやすい。混同注意:前頭葉の各領域の機能と、前頭側頭型認知症の主要な病態の関係性。
- 3. 頭頂連合野の萎縮は、視空間認知障害、失行、失認などと関連が深いです。本事例では語義失語や人格変化が主症状であり、これらの症状との直接的な関連性は低いです。正しくは:頭頂連合野の萎縮は、視空間認知障害、失行、失認などに関連します。選びやすい理由:認知症の症状として失行や失認がある場合に検討されるが、本事例では主要な症状ではない。混同注意:アルツハイマー病の後期に見られる症状と、前頭側頭型認知症の初期症状の違い。
- 4. 正解。本事例の症状は、物の名前が思い出せない(呼称困難)、言いたいことが言葉にならない(語義失語)、誰に対しても馴れ馴れしくなる、TPOをわきまえないといった人格変化であり、これらは意味性認知症(意味性痴呆)の典型的な症状です。意味性認知症では、左優位の側頭葉前部(特に下側頭回や側頭極)の萎縮が特徴的に見られます。WAIS-IIIでの言語性IQと動作性IQの大きな乖離(言語性IQの著しい低下)もこれを裏付けています。選びやすい理由:患者の主訴が物忘れであるため、アルツハイマー病と混同しやすいが、症状の詳細を見ると意味性認知症であることがわかる。混同注意:アルツハイマー病(エピソード記憶障害が主)と意味性認知症(意味記憶障害・語義失語が主)の鑑別。
- 5. 後頭葉は主に視覚情報の処理を担っており、その萎縮は皮質盲や視覚失認、視野欠損など視覚関連の障害を引き起こします。本事例の語義失語や人格変化とは直接的な関連がありません。正しくは:後頭葉の萎縮は、皮質盲や視覚失認など視覚関連の障害に関連します。選びやすい理由:認知症全般の知識があると、特定の症状との関連が薄いことを判断できる。混同注意:脳の各葉の機能に関する基本的な知識。
国試ポイント
意味性認知症の臨床像と、それに伴う脳の萎縮部位を正確に理解しているかが問われています。特に、語義失語、呼称困難、人格変化、そしてWAIS-IIIの言語性・動作性IQの乖離といったキーワードから疾患を特定し、その病態生理と脳の解剖学的関連を結びつける能力が必要です。
混同注意
アルツハイマー病(特に初期の記憶障害)と意味性認知症の鑑別。アルツハイマー病はエピソード記憶障害が中心であるのに対し、意味性認知症は意味記憶障害(語義失語、呼称困難など)が中心です。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出題された場合、症状の具体的な内容(記憶障害の種類、失語の有無、行動の変化)、神経心理検査の結果(特にWAIS-IIIのサブテスト結果)、画像所見の特徴(萎縮部位だけでなく、脳血流の変化なども)を詳細に確認し、特定の認知症疾患の診断基準と照らし合わせる必要があります。
関連知識
前頭側頭型認知症のサブタイプ(行動型FTD、意味性認知症、進行性非流暢性失語)、WAIS-IIIのIQプロファイルによる病態推測、脳の各葉の機能、失語症の種類と病巣、Pick病。