25歳の男性。頸髄完全損傷、Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類でC6A。ベッド・車椅子間の移乗動作の自立を目指して天井走行型リフトを使用した訓練を行うことになった。吊り具の写真(別冊No. 2)を別に示す。選択する吊り具として正しいのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
Zancolli C6Aの患者は、胸部の安定性が低いため、移乗動作の自立を目指す上で胸部を適切に支持することが重要です。このハーネス型は胸部を確実に保持し、体幹の不安定さを補いながらも、下肢を比較的自由に動かせるため、残存機能を使った訓練に適しています。これにより、患者は自分の力で足を操作したり、体重移動を学習したりすることが可能になり、移乗動作の自立に向けた訓練を効果的に行うことができます。
選択肢ごとの解説
- 1. C6Aの患者は、胸部の固定性が低く、完全なシート型では座位バランスの保持が難しく、安定した姿勢を保つことができません。また、リフト使用時の姿勢調整も困難です。正しくは:このタイプのシートは、主に体幹・座位バランスが著しく不安定な重度の麻痺患者や、姿勢を完全に委ねて移乗する際に用いられます。C6A患者の場合、残存機能の活用を妨げる可能性があります。選びやすい理由:一見、全身をしっかり支えて安全そうに見えますが、残存機能を生かして移乗動作の自立を目指す場合には不適切です。混同注意:重度麻痺の患者に用いるシートと、残存機能がある患者に用いるシートの区別。
- 2. 股下から臀部のみを支えるタイプでは、C6Aの患者は体幹の安定性が低いため、適切な支持が得られず、リフト移動中に体が前傾したり左右に傾いたりして、非常に不安定な状態になります。転落のリスクも高まります。正しくは:このタイプは、体幹の支持がほとんどないため、体幹機能が良好な患者や、部分的な介助で済む場合に限られます。選びやすい理由:コンパクトで取り回しが良さそうに見えますが、C6A患者に必要な体幹支持が全くありません。混同注意:体幹支持の必要性と、スリングシートの支持範囲の選択。
- 3. このタイプは比較的広範囲を支持しますが、C6Aの患者は腹筋や体幹伸筋の機能が低下しているため、肩関節を支えるだけでは、リフトアップ時に体が屈曲しやすく、不安定になります。特に前方への傾きに対して十分な支持がありません。正しくは:このシートは、ある程度の体幹機能がある患者や、背もたれがある座位で安定する患者に適しています。C6A患者では、吊り上げ時に体幹の不安定性が残ります。選びやすい理由:背部と臀部を広く支えるため、安定感がありそうに見えますが、吊り上げ時の体幹の前傾防止には不十分です。混同注意:広範囲な支持が必ずしも適切な体幹コントロールを意味するわけではない点。
- 4. このタイプの吊り具は、主に下肢装具装着者や、下肢を動かして移乗する際に使用されることが多く、C6A患者のような脊髄損傷者には適していません。体幹支持が不十分であり、リフト移動時の安定性に欠けます。正しくは:下肢の機能がある程度残存し、能動的に下肢をコントロールできる患者や、特定の手技で下肢の動きを確保したい場合に検討されます。C6A患者では体幹と下肢の支持が両方とも不足します。選びやすい理由:分離しているため、装着しやすく感じるかもしれませんが、体幹の安定性確保には全く寄与しません。混同注意:特定の疾患や状態に特化した吊り具の選択。
- 5. 正解。Zancolli C6Aの患者は、三角筋と上腕二頭筋が機能しており、肩甲骨の挙上や肘の屈曲は可能です。しかし、体幹の固定性や腹筋群の機能が低下しているため、胸部の支持が重要になります。この胸部と大腿部を個別に支持するハーネス型は、胸部をしっかりと固定することで体幹の安定性を保ちつつ、下肢をフリーにできるため、座位での股関節・膝関節の屈曲・伸展、足底接地など、残存機能を利用した移乗動作の訓練に適しています。また、患者自身が部分的に操作できる余地も残します。
国試ポイント
脊髄損傷患者の残存機能(Zancolli分類)を理解し、その機能レベルに合わせた福祉用具(リフト用吊り具)の適切な選択ができるかどうかが問われています。特に、単に移乗させるだけでなく、『移乗動作の自立を目指す訓練』という目的を考慮した選択眼が求められます。
混同注意
全身を包み込むような安定性を重視したシート型と、残存機能の活用を促すハーネス型との区別。シートが広ければ広いほど良いと誤解しやすい。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合は、まず患者の残存機能(特に体幹機能と上肢機能)を明確にし、次に移乗動作の『目的』(全介助での移乗か、自立に向けた訓練か)を考慮して、最適な吊り具の支持範囲と機能を選択すること。
関連知識
Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類(C6Aの特徴)、脊髄損傷レベル別の残存機能、福祉用具(リフトおよび各種スリング・ハーネス)の特性と適応、移乗動作のメカニズムと訓練方法。