72歳の男性。Parkinson病でHoehn & Yahrの重症度分類ステージⅢ。60歳代前半に発症し、投薬治療で経過観察されていたが、小刻み歩行やすくみ足が出現し、1日複数回転倒するようになってきている。特に方向転換を必要とする箇所での転倒が多い。自宅の見取り図を示す。転倒防止のための対応で誤っているのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
パーキンソン病患者は、病状の進行によりバランス能力が低下し、小刻み歩行やすぐみ足、方向転換時の不安定性が顕著になります。特に、動き始める時や方向転換の際に重心が移動しにくく、転倒リスクが高まります。キャスター付きの椅子は、座ったり立ち上がったりする際に椅子が不安定に動くため、バランスを崩しやすく、転倒のリスクを非常に高めます。そのため、パーキンソン病患者の転倒予防には、安定した固定式の椅子を使用することが原則です。他の選択肢は、いずれもパーキンソン病患者の動作特性や転倒リスクを考慮した上で、安全性を高める有効な住宅改修や環境整備の手段となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。パーキンソン病患者、特に方向転換での転倒が多いケースでは、キャスター付きの椅子は座ろうとした際や立ち上がろうとした際に椅子が不意に動いてしまい、バランスを崩して転倒するリスクを著しく高めます。安定した椅子を使用すべきです。正しくは:リビングでは、安定していて動きにくい、肘掛け付きの椅子を使用する。選びやすい理由:一見すると移動が楽になるように思えるため、患者の身体的な負担を減らすという視点から選んでしまう可能性があります。混同注意:車椅子や歩行器のような移動補助具と混同し、安易に移動を助けるものだと考えてしまうことがあります。
- 2. パーキンソン病患者は方向転換が苦手であり、開き戸は前方に体を倒したり、後ずさりしたり、横に体をずらしたりと、扉の開閉に複雑な動作や方向転換を必要とします。引き戸であれば、これらの動作が少なく、体の向きを変える必要もないため、安全性が高まります。正しくは:この選択肢は正しい対応です。選びやすい理由:特になし。引き戸への改修は一般的な住宅改修の選択肢として認識されやすいです。混同注意:開き戸と引き戸のそれぞれの利点・欠点を混同することは少ないですが、トイレ空間の広さによっては引き戸が設置できないケースも考慮が必要です。
- 3. 浴室は濡れていて滑りやすく、浴槽への出入りはバランスを崩しやすい動作です。洗い場から浴槽をまたぐ際に縦手すりがあれば、体を支えながら安全に動作を行うことができ、転倒防止に有効です。正しくは:この選択肢は正しい対応です。選びやすい理由:特になし。浴室の手すり設置は常識的な安全対策です。混同注意:手すりの種類(縦・横)や設置位置に関する知識が不確かな場合、最適な設置方法を誤解する可能性がありますが、転倒予防策としては適切です。
- 4. 浴槽の縁をまたぐ動作は、高低差があり、バランスを崩しやすいため転倒リスクが高いです。浴槽内に踏み台を設置することで、高低差を少なくし、安定した姿勢で浴槽をまたぎやすくなるため、転倒防止に効果的です。正しくは:この選択肢は正しい対応です。選びやすい理由:特になし。浴槽内での立ち上がり・座り込み動作の補助として有効です。混同注意:浴槽外の踏み台と混同する可能性がありますが、どちらも高低差を埋めることで転倒リスクを減らす目的は同じです。
- 5. パーキンソン病患者の小刻み歩行やすぐみ足、方向転換時の転倒が多いという特徴に対して、床に目印(視覚キュー)を設置することは、歩行のリズムを取り戻し、歩行を促す効果があることが知られています(視覚性誘発効果)。これにより、歩行がスムーズになり転倒リスクを軽減できます。正しくは:この選択肢は正しい対応です。選びやすい理由:特になし。視覚キューはパーキンソン病に対する有効なリハビリテーション介入の一つとして広く知られています。混同注意:視覚キューが全ての人に効果があるわけではないという点や、テープが段差になるリスクと混同する可能性がありますが、本件においては有効な対策と考えられます。
国試ポイント
パーキンソン病患者の病態(特にHoehn&YahrステージⅢでの歩行障害やバランス障害)を理解し、その特性に合わせた住環境整備や福祉用具選択の知識が問われています。特に、転倒予防の観点から、どのような物品が危険か、どのような改修が有効かを具体的に判断する能力が求められます。視覚性誘発効果など、パーキンソン病に特有のリハビリテーションアプローチについても理解しておく必要があります。
混同注意
移動の『しやすさ』と『安全性』の混同が起こりやすいです。キャスター付きの椅子は一見移動が楽そうに見えますが、パーキンソン病患者にとってはかえって危険です。また、パーキンソン病のステージによって必要な対策が異なることを考慮する必要があります。本問ではステージⅢであり、より安全性を重視した対策が求められます。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず患者の疾患とその重症度を正確に把握し、そこから生じる具体的な問題点(例:小刻み歩行、すくみ足、方向転換時の不安定性)を特定する。次に、各選択肢がその問題点に対して『どのような影響を与えるか』を安全性と機能性の両面から詳細に検討する。特に、一見便利そうに見えるものが実は危険である、というひっかけに注意し、具体的な動作をイメージして評価する。
関連知識
パーキンソン病のHoehn&Yahrの重症度分類、FOG(すくみ足)のメカニズムと対策(視覚キュー、聴覚キュー)、方向転換時の転倒リスク、住宅改修の原則(手すりの設置、段差解消、扉の変更)、浴室やトイレでの転倒予防策、福祉用具の適切な選択。