55歳の男性。中学校教員。元来、几帳面で真面目な性格。半年前から経験のないバレー部の顧問を任され、心労が重なっていた。2か月前から早朝覚醒、食欲低下が出現し、抑うつ気分を自覚していた。1か月前から「どうやって授業をすればよいか分からない。死んで生徒にお詫びをしたい」などと述べるようになった。妻に付き添われて精神科を受診後、入院となり、薬物療法が開始となった。入院2週後から作業療法が開始された。作業療法開始時の対応で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
うつ病の急性期にある患者は、心身ともに疲弊しており、意欲や集中力の低下、不眠、食欲不振といった身体症状を伴うことが一般的です。この時期の作業療法は、まず患者が安心して休養できる環境を整え、心身の負担を軽減し、回復の土台を築くことに重点を置きます。具体的な活動よりも、休息の重要性を説明し、疲労回復を促すことが最優先されます。患者の訴えに耳を傾けつつも、具体的な問題解決や過度な活動は避けるべきです。
選択肢ごとの解説
- 1. 精神疾患の薬物療法は、医師の指示に基づいて継続することが非常に重要です。自己判断での服薬中断は、症状の悪化や再燃のリスクを高めるため、不適切です。正しくは:気分が改善しても、自己判断で薬の服用を中止せず、医師に相談するよう伝える。選びやすい理由:気分が良くなったら薬は不要と感じがちですが、それは治療効果の現れであり、症状が安定するための継続が必要です。混同注意:患者の自己決定権の尊重と、治療継続の必要性の区別。
- 2. 正解。うつ病の急性期では、心身のエネルギーが著しく低下しており、早朝覚醒や食欲低下といった身体症状も伴っています。この段階では、何よりもまず十分な休息と安静を確保し、心身の回復を促すことが最も重要かつ適切な対応です。
- 3. 急性期のうつ病患者は、心身の疲労が激しく、集中力や意欲も低下しています。集団でのスポーツ活動は、過度な刺激や負担となり、かえって疲労を増悪させたり、失敗体験による自尊心の低下を招いたりする可能性があります。適切な活動ではありません。正しくは:患者の状態に合わせて、静かで負担の少ない個別活動から段階的に開始する。選びやすい理由:運動は気分転換やストレス解消に役立つと考えがちですが、それは症状が回復してきた後の段階での話です。混同注意:うつ病の回復期や維持期に行う活動と、急性期に行う活動の区別。
- 4. 患者は「どうやって授業をすればよいか分からない」と述べていますが、これはうつ病の症状による思考力・集中力の低下や悲観的な思考が背景にあると考えられます。急性期に具体的な問題解決を求めると、患者にさらなる精神的負担を与え、不安を増強させる可能性があります。まずは症状の安定を優先すべきです。正しくは:患者の苦痛に共感しつつ、現在の健康状態ではまだ具体的な問題解決は難しいことを伝え、今は心身の回復に専念する時期であることを理解してもらう。選びやすい理由:患者が悩んでいる内容を直接解決してあげたいという思いから、寄り添う行為として捉えがちですが、急性期には逆効果です。混同注意:患者の訴えに対する直接的な問題解決と、病状を考慮した段階的なアプローチの区別。
- 5. 作業療法士の役割は、患者の意思決定を支援することであり、特定の人生の大きな決断(早期退職など)を推奨することではありません。特にうつ病の急性期は判断能力が低下しているため、重大な決定を下すべき時期ではありません。正しくは:患者の将来に関する考えを傾聴し、回復の過程で患者自身が主体的に選択できるよう支援する。選びやすい理由:仕事がストレスの原因となっているため、その原因を取り除くことが最善策だと考えがちですが、退職は多くの生活変化を伴うため、回復期に慎重に検討すべきです。混同注意:ストレス原因の除去と、患者の主体的な意思決定支援の区別。
国試ポイント
うつ病患者の病期に応じた作業療法のアプローチ、特に急性期における基本的な対応と、作業療法士の役割・禁忌事項が問われています。患者の現在の状態(急性期、自殺念慮あり)を正確に把握し、適切な介入を選択できるかが重要です。
混同注意
うつ病回復期や維持期に適用される活動(例:運動、社会参加を促す活動、問題解決支援)と、急性期に適用される休息や安静を主体とした介入が混同されやすいです。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が問われた場合、患者が「どの病期にあるか(急性期、回復期、維持期)」、「どのような症状が強く出ているか(身体症状、精神症状、思考内容)」、「どのような活動レベルが適切か」をまず判断することが重要になります。
関連知識
うつ病の病期と症状の関連性、各病期における作業療法の目標と内容、薬物療法の重要性、自殺予防に関する知識、患者教育の原則。