26歳の女性。幼少期は手がかからず、人見知りはなかった。小学校では友人とのおしゃべりが苦手で、一人で読書をすることを好んだ。中学校では、場の雰囲気に合わせて対応できず、孤立しがちで、一時不登校となった。成績は優秀で理系の大学院を修了後、大手企業に就職した。しかし、上司に接客態度を注意され、同僚とも馴染めず、1か月で退職した。急な退職を心配した両親に付き添われ精神科を受診した。この患者の生活歴から最も考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この患者の幼少期から成人期に至るまでの生活歴は、一貫して対人関係や社会的なコミュニケーションにおける困難を示しています。具体的には、友人との会話の苦手さ、孤立しがちな傾向、場の雰囲気に合わせた対応の困難さ、職場での人間関係の不適応などです。また、特定の分野(理系)での高い学業成績は、特定の興味への集中力や知的能力の高さを示唆しており、これも自閉症スペクトラム障害の特性と合致します。これらの特徴は、自閉症スペクトラム障害の診断基準である「社会的コミュニケーションおよび相互作用における持続的な欠陥」と「限定された反復的な行動、興味、活動」に該当するため、最も考えられる疾患は自閉症スペクトラム障害です。
選択肢ごとの解説
- 1. うつ病は気分障害であり、気分の落ち込みや意欲の低下、睡眠・食欲の変化などが主な症状です。この患者の状況では、幼少期からの社会的な困難さやコミュニケーションの問題が持続している点が強調されており、気分変動を中心としたうつ病の典型的な経過とは異なります。正しくは:この患者の生活歴は、幼少期からの社会性やコミュニケーションの困難さに一貫性があるため、うつ病よりも発達障害の可能性が高いです。選びやすい理由:学業不振や不登校、退職といった出来事は、うつ病の症状として現れることもあるため、選択肢として考慮されやすいかもしれません。混同注意:不登校や職業上の困難が、単なる気分障害の結果であると誤解されやすいです。しかし、本件ではそれらが社会性の困難から派生している点が重要です。
- 2. 正解。この患者の幼少期からの「友人との会話が苦手」「一人で読書を好む」「場の雰囲気に合わせて対応できず、孤立しがち」「上司に接客態度を注意される、同僚となじめない」といった特徴は、対人関係や社会的なコミュニケーションにおける持続的な困難を示しています。また、理系大学院を修了するほどの高い学業成績は、特定の興味分野への没頭や高い知的能力を持つ自閉症スペクトラム障害の人によく見られる傾向です。これらの情報は、自閉症スペクトラム障害の中核的な診断基準と一致します。
- 3. 双極性障害は、気分が高揚する躁状態と気分が落ち込むうつ状態を繰り返す精神疾患です。この患者の生活歴には、躁状態や軽躁状態を示唆するような気分の波、活動性の亢進、睡眠時間の減少などの記述は一切なく、幼少期からの社会性の困難さが一貫して示されているため、双極性障害とは考えにくいです。正しくは:双極性障害の診断には、躁病エピソードや軽躁病エピソードの存在が不可欠です。本ケースでは、そのような記述がありません。選びやすい理由:「急な退職」という行動が、気分の不安定さからくるものだと短絡的に解釈される可能性はあります。混同注意:特定の行動の変化が、気分障害によるものか、発達特性によるものかを見分けることが重要です。
- 4. 統合失調症は、幻覚、妄想、思考のまとまりのなさ、意欲の低下などの精神症状を特徴とします。一般的に発症は青年期から成人期早期が多く、幼少期からの社会性の困難が持続するというよりは、思春期以降に精神病症状が出現し、それが社会機能に影響を及ぼすことが多いです。本患者の生活歴には、幻覚や妄想、思考障害といった精神病性症状の記述はありません。正しくは:統合失調症の診断には、精神病性症状の存在が必須です。本ケースでは、そのような症状の記述はありません。選びやすい理由:不登校や引きこもり、社会適応の困難さは、統合失調症の陰性症状とも共通する部分があるため、混同される可能性があります。混同注意:社会的な引きこもりや困難が、精神病性疾患によるものか、発達特性によるものかを見極める必要があります。
- 5. パニック障害は、突然の強い不安発作(パニック発作)を特徴とする不安症の一つです。動悸、息切れ、めまいなどの身体症状を伴い、「また発作が起こるのではないか」という予期不安が生じ、特定の場所や状況を避けるようになることがあります。この患者の生活歴には、パニック発作を示唆する記述は全くなく、中心的な問題は幼少期からの社会的なコミュニケーションの困難さにあります。正しくは:パニック障害の診断には、反復するパニック発作の既往が必須です。本ケースでは、そのような記述がありません。選びやすい理由:「急な退職」という状況が、何らかの強い不安によるものだと推測される可能性はあります。混同注意:特定のストレス反応が、発達特性によるものか、特定の不安症によるものかを見分けることが重要です。
国試ポイント
本問題は、与えられた患者の生活歴(幼少期からの発達歴、学業、対人関係、職業歴など)から、最も適切な精神疾患を鑑別する能力を問うものです。特に、自閉症スペクトラム障害の核となる特徴である、社会性・コミュニケーションの困難さが、年齢とともにどのように変化し、多様な場面で現れるかを理解しているかがポイントとなります。他の精神疾患との鑑別として、症状の持続性や一貫性、中核症状の違いを正確に把握している必要があります。
混同注意
うつ病、統合失調症、社交不安症など。不登校や職場不適応といった二次的な問題は、これらの疾患でも見られますが、幼少期からの持続的な社会コミュニケーションの困難さ、特定の興味への没頭といった自閉症スペクトラム障害の根本的な特性を見落とさないことが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、患者の「幼少期からの発達歴」に注目し、「対人関係・社会性」「コミュニケーション」「興味・活動のパターン」における持続的な困難や特異な傾向が示されているかをまず確認します。そして、それが年齢とともにどのように変化・影響しているかを追跡し、他の精神疾患の主要症状(気分変動、精神病症状、不安発作など)と鑑別します。特に、知的能力と社会性のギャップも重要な判断材料となります。
関連知識
自閉症スペクトラム障害の診断基準(DSM-5またはICD-11)、年齢ごとの特徴的な症状、知的能力と社会性のアンバランス、感覚過敏・鈍麻などの併存症状、二次障害(不安症、うつ病など)の発症メカニズム、作業療法におけるアセスメントと介入(社会スキル訓練、環境調整、感覚統合療法など)。