58歳の男性。両手の母指と示指で紙をつまみ、左右に引っ張ったときの写真(別冊No. 3)を別に示す。考えられる末梢神経障害はどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
画像は、母指と示指によるピンチ力低下を示唆しており、紙を強く挟めずに滑り落ちそうな状態(フロマン徴候陽性)を示しています。フロマン徴候は、母指内転筋の筋力低下を代償するために母指IP関節が過屈曲する現象で、尺骨神経麻痺の典型的な所見です。したがって、尺骨神経が障害される肘部管症候群が最も考えられます。ただし、画像は右手の所見を示しているように見えますが、選択肢が「左肘部管症候群」を正答としており、この点については問題文と選択肢の整合性に注意が必要です。しかし、問題の指示に従い、公式正答の位置を維持するため、この選択肢を正とします。
選択肢ごとの解説
- 1. Guyon管症候群は尺骨神経麻痺であり、小指と環指の尺側半分にしびれや筋力低下が生じます。この症候群では母指と示指のつまみ動作には直接的な影響は出にくいです。正しくは:小指と環指の尺側半分にしびれや筋力低下が見られる場合に疑われます。選びやすい理由:手関節周辺の神経障害という点で選択肢として挙がりやすいかもしれませんが、症状の部位が異なります。混同注意:手根管症候群と混同しやすいですが、侵される神経と症状の分布が異なります。
- 2. 後骨間神経は橈骨神経の運動枝であり、主に手関節や手指の伸筋群を支配します。母指と示指のつまみ動作(主に屈筋や対立筋)の異常とは直接関連しません。正しくは:手関節や手指の伸展障害が見られる場合に疑われます。選びやすい理由:腕から手にかけての神経障害という点で選びそうになりますが、支配領域と症状が一致しません。混同注意:橈骨神経麻痺と混同しやすいですが、後骨間神経は運動枝のみで感覚障害は通常伴いません。
- 3. 前骨間神経は正中神経の運動枝であり、母指と示指をそれぞれ屈曲させる深指屈筋の示指側と長母指屈筋を支配します。麻痺すると母指と示指でOKサインが作れないなど、つまみ動作に影響が出ますが、画像では右手のピンチ力が低下しており、左ではありません。正しくは:画像が左手であれば正答となる可能性があります。選びやすい理由:症状としてはピンチ力の低下を引き起こしますが、画像では右手の症状を示唆しているため、左右が異なります。混同注意:正中神経麻痺と混同しやすいですが、前骨間神経は運動枝のみで感覚障害は伴いません。また、正中神経麻痺全体の症状とは異なります。
- 4. 手根管症候群は正中神経の圧迫により、母指・示指・中指と環指の橈側半分の感覚障害や、母指球筋の萎縮・筋力低下(母指対立運動の障害)を引き起こします。画像で示されているのは、右手母指と示指でのつまみ動作(ピンチ力)の低下であり、これは主に尺骨神経が支配する母指内転筋の筋力低下を示唆しています。手根管症候群の典型的な症状とは異なります。正しくは:正中神経の支配領域(母指、示指、中指、環指の橈側半分)に感覚障害や、母指対立運動の障害が見られる場合に疑われます。選びやすい理由:母指と示指が関わるため、手根管症候群を連想しやすいですが、つまみ動作のどの筋が問題になっているかを詳細に見ると異なります。混同注意:尺骨神経麻痺と混同しやすいですが、支配神経が異なります。
- 5. 正解。肘部管症候群は尺骨神経が肘部で圧迫されることで生じます。尺骨神経は、母指内転筋や骨間筋(特に第一背側骨間筋)を支配しており、これらの筋は母指と示指でのつまみ動作(ピンチ力)に大きく関与します。画像では、右手の母指と示指で紙をつまんだときに紙がずり落ちそうな、または完全に保持できていない様子がうかがえます(Fronment徴候陽性を示唆)。これは尺骨神経麻痺、特に母指内転筋の筋力低下の典型的な所見であり、問題文で『両手の母指と示指で紙をつまみ、左右に引っ張ったときの写真』とあることから、右手のピンチ力の低下が顕著なため、左の肘部管症候群ではなく「右」の肘部管症候群が疑われるべきですが、選択肢が「左」となっています。しかし、与えられた選択肢と公式正答の組み合わせを維持するという指示に基づき、この選択肢が正答とされます。本来は「右手」の症状であるなら「右肘部管症候群」が正答となります。正しくは:(もし画像が左手の症状を示唆していれば)左肘部管症候群が正しい。しかし、画像が右手の症状を示唆しているため、問題文と選択肢の整合性に注意が必要。
国試ポイント
画像所見から末梢神経障害を特定する能力が問われています。特に、各神経の支配筋とそれによって生じる特徴的な症状(フロマン徴候、猿手、鷲手など)を理解しているかが重要です。また、左右の身体部位と神経障害部位の関連を正確に判断する能力も求められます。
混同注意
正中神経麻痺(特に高位麻痺でのつまみ動作障害)と尺骨神経麻痺が混同されやすいです。それぞれの支配筋と特徴的な徴候を正確に区別することが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の問題が出た場合、まず画像で示されている異常が『どの手指』の『どのような動き』に生じているかを特定します。次に、その動きを支配する『どの筋』が機能不全に陥っているかを考え、最後にその筋を支配する『どの末梢神経』が障害されているのかを導き出します。特に、フロマン徴候や猿手、下垂手といった特徴的な臨床徴候の画像提示には注意が必要です。また、左右の部位の指定にも注意を払う必要があります。
関連知識
・尺骨神経麻痺:フロマン徴候(母指内転筋麻痺)、ウェルニッケ・マン手(鷲手)、小指球筋・骨間筋萎縮、小指・環指尺側の感覚障害。 ・正中神経麻痺:猿手(母指対立運動障害、母指球筋萎縮)、ボトルネックサイン、母指・示指・中指・環指橈側の感覚障害。 ・橈骨神経麻痺:下垂手(手関節・手指伸展障害)、感覚障害は通常軽い。 ・前骨間神経麻痺:OKサイン不能(深指屈筋示指、長母指屈筋麻痺)、感覚障害なし。 ・Guyon管症候群:尺骨神経麻痺の一部で、手関節部での圧迫。症状は肘部管症候群と同様だが、肘より近位の筋症状は通常ない。