80歳の女性。77歳頃から物忘れが目立ち始め、今では歩行時のつまずきやすさ、書字の震えがある。日によって程度は異なるものの、自宅のテレビや窓、棚のガラス戸など、光沢のあるところに知らない人が映って見えるようになった。「テレビに知らない人の顔が見える」「変なおじいさんが裸でいる」などと家族に訴え、ガラス戸に向かって怒鳴る様子もみられた。家族と物忘れ外来を受診した。PETでは頭頂葉から後頭葉の一部に糖代謝の低下が認められた。作業療法士から家族へのアドバイスとして適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第56回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この事例は、高齢発症の物忘れ、歩行時のつまずき、書字の震え、そして特徴的な幻視の訴え(光沢のある場所に人が見える)およびPET検査所見(頭頂葉から後頭葉の糖代謝低下)から、レビー小体型認知症が強く疑われます。レビー小体型認知症の幻視に対しては、本人が見ている内容を否定せず、その訴えや感情を受け止める「受容と共感」の姿勢が最も適切な家族へのアドバイスとなります。幻視は本人にとっての現実であり、否定すると不信感や興奮を高めてしまうためです。その後、注意をそらす、環境を調整するといった介入を行います。
選択肢ごとの解説
- 1. 部屋を薄暗くすると、かえって幻視を誘発したり、状況を把握しにくくさせたりして、本人の不安や混乱を増大させる可能性があります。レビー小体型認知症の幻視は、明暗のコントラストや光沢のあるものに誘発されやすいため、適度な明るさを保ち、環境を整えることが重要です。正しくは:部屋の照明を適切に保ち、日中の活動中は明るくする。選びやすい理由:幻視は夜間や暗い場所で起こりやすいという一般的なイメージから、暗くすれば落ち着くと思うかもしれない。混同注意:認知症全般における睡眠環境の調整(暗くして入眠を促すなど)と混同しやすい。
- 2. テレビの音量を大きくしても、幻視に対する直接的な効果はありません。むしろ、大きな音は聴覚的な刺激となり、本人の不安や興奮をさらに高めてしまう可能性があります。幻視への対応としては、視覚環境の調整が優先されます。正しくは:幻視の誘因となるものを減らすなど、視覚環境を調整する。選びやすい理由:他の刺激で幻視から注意をそらそうとする意図で選びたくなるかもしれない。混同注意:他の認知症における聴覚刺激による注意転換と混同しやすい。
- 3. この事例の女性は歩行時のつまずきやすさや書字の震えが見られますが、これが直ちに車椅子使用の適応とはなりません。ADL能力や身体機能の低下を過度に捉え、早期に車椅子を導入すると、残存能力の低下を招き、活動性がさらに制限される可能性があります。まずは歩行補助具の検討や環境調整など、残存能力を活かす支援を優先すべきです。正しくは:歩行能力の評価を行い、必要に応じて歩行補助具の活用や環境整備を検討する。選びやすい理由:転倒リスクを懸念して、安全確保のために車椅子を勧めたくなるかもしれない。混同注意:重度の歩行障害がある場合の移動手段と混同しやすい。
- 4. 認知症患者が幻視を訴えている際に、その内容を「幻覚だ」「存在しない」と頭ごなしに否定することは、本人の混乱や不信感を強め、関係性を悪化させる原因となります。幻視は本人にとっては現実であるため、否定することでさらに興奮を誘発する可能性が高いです。正しくは:本人の見えている世界を一旦受け止め、安心感を与えながら、注意を他のものにそらす工夫をする。選びやすい理由:現実と非現実の区別をつけるため、正しい情報を伝えるべきだと考えるかもしれない。混同注意:精神疾患における妄想への対応(否認しないが肯定もしない)と混同しやすいが、認知症の幻視ではより共感的な対応が求められる。
- 5. 正解。レビー小体型認知症患者に見られる幻視は、本人にとっては現実として認識されています。そのため、幻視の内容を頭ごなしに否定するのではなく、まずは本人の訴えや感情を受け止め、共感を示すことが重要です。これにより、本人は安心感を覚え、興奮を鎮めることにつながります。その上で、視線をずらしたり、話題を変えたりして注意をそらす介入が有効です。
国試ポイント
レビー小体型認知症の臨床的特徴と、それに基づく幻視への対応(特に家族への指導内容)が問われています。単に幻視の症状を知っているだけでなく、患者とその家族への具体的な支援方法を理解しているかが評価されます。
混同注意
認知症のタイプ(アルツハイマー型、血管性など)ごとの特徴と対応、特にレビー小体型認知症の幻視、パーキンソン症状、日内変動などの症状群は混同しやすい。また、幻覚・妄想に対する精神科的アプローチと、認知症患者への対応の違いも混同の元となる。
次に同じ論点が出たら
次に類似した問題が出た場合は、まず提示された症状がどのタイプの認知症を示唆しているか(特にレビー小体型認知症の特徴を捉える)を判断する。次に、その認知症に特有の症状(幻視、BPSDなど)に対して、患者本人と家族にどのような働きかけが適切か、特に「否定しない」「受容する」という基本原則を適用できるかを判断する。
関連知識
レビー小体型認知症の三大主症状(認知機能変動、幻視、パーキンソン症状)とその対応。認知症患者の行動・心理症状(BPSD)への非薬物的介入。認知症患者へのコミュニケーション原則(バリデーション療法、ユマニチュードなど)。環境調整の重要性。