28歳の男性。右利き。交通事故による右前頭葉背外側部の頭部外傷のため入院した。作業療法が開始され、4か月が経過した。四肢に運動麻痺や感覚障害を認めず、歩行は自立している。日中はボーッとして過ごすことが多いが、促されると日課を行う。話しかければ日常会話は問題なく成立するが、自発話は乏しい。この患者の高次脳機能評価として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者は右前頭葉背外側部損傷後の状態で、「日中はボーッとして過ごすことが多いが、促されると日課を行う」「自発話は乏しい」といった症状が見られます。これらは意欲の低下、自発性の欠如、行動の計画や開始の困難といった遂行機能障害の典型的な特徴です。BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)は、このような遂行機能の側面を多角的に評価するために開発された検査であり、本ケースに最も適しています。他の選択肢は、失語症、失行症、視知覚障害、半側空間無視といった特定の高次脳機能障害を評価するものであり、現在の患者の症状には直接合致しません。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。患者の症状は、日中ぼんやり過ごす、促されれば日課を行う、自発話が乏しいといったもので、これらは前頭葉機能、特に遂行機能の障害を示唆しています。BADSは、この遂行機能を評価するためのバッテリーであり、最も適切です。
- 2. SLTAは失語症の有無やタイプ、重症度を評価する検査です。この患者は「話しかければ日常会話は問題なく成立する」とあり、失語症の兆候は強くありません。正しくは:失語症状(例:錯語、語想起困難、理解力低下など)が顕著な場合に適切です。選びやすい理由:「自発話が乏しい」という記載から言語機能の低下を疑うかもしれませんが、これは発語の意欲や計画性の問題(前頭葉症状)である可能性が高いです。混同注意:失語症と前頭葉性の発話開始困難(アパシー)の区別。
- 3. SPTAは失行症を評価する検査です。この患者の症状からは失行が示唆されていません。運動麻痺がないため、純粋な動作の障害を評価するものではありません。正しくは:目的のある運動ができない、道具の使い方が分からないなどの失行症状が疑われる場合に適切です。選びやすい理由:「日課を行える」という記載は動作能力の指標ですが、失行を評価する直接的な症状はありません。混同注意:運動麻痺と失行の区別。
- 4. VPTAは視空間認知や視覚性の失認などを評価する検査です。この患者の症状からは視知覚の障害は示唆されていません。正しくは:物体失認、相貌失認、地誌的見当識障害など、視覚情報処理に問題がある場合に適切です。選びやすい理由:前頭葉損傷でも視覚関連の注意障害が生じる可能性はありますが、VPTAはより基礎的な視知覚を評価します。混同注意:注意障害と視知覚障害の区別。
- 5. CBSは半側空間無視の行動評価尺度です。この患者は右前頭葉損傷ですが、半側空間無視の症状は記載されていません。正しくは:食事中の残飯、身だしなみの偏り、車椅子操作時の衝突など、具体的な無視症状が観察される場合に適切です。選びやすい理由:高次脳機能障害全般を評価するスケールのように聞こえるかもしれませんが、特定の症状に特化しています。混同注意:一般的な高次脳機能障害と半側空間無視の区別。
国試ポイント
前頭葉損傷による遂行機能障害の典型的な症状を理解し、その評価に適した検査を選択できるか問われています。各高次脳機能検査の目的と評価対象となる症状を正確に把握していることが重要です。
混同注意
前頭葉性のアパシーや自発性低下と、失語症による発話困難を混同しやすい。また、各種検査が評価する高次脳機能の種類(例:遂行機能、言語機能、動作機能、視知覚機能、無視)を正確に区別する必要があります。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出題された場合、患者の症状記述から「どの脳領域の機能障害が強く疑われるか」をまず特定し、その上で「その機能障害を最も的確に評価できる検査はどれか」という流れで判断します。特に前頭葉症状の場合は、遂行機能、注意機能、社会認知機能、自発性などに着目します。
関連知識
前頭葉の機能(計画立案、問題解決、意思決定、注意、抑制、情動制御など)、遂行機能障害の症状(衝動性、固執、無気力、段取りの悪さなど)。BADSのサブテスト内容(例:目標指向行動、課題設定と計画、反応抑制など)。他の主要な高次脳機能検査(WAIS、WMS-R、FAB、MMSE、HDS-Rなど)の概要と適用範囲。