66歳の女性。歌が好きでカラオケをよく楽しんでいたが、1年前から言葉数が少なくなり夫が心配して精神科を初めて受診した。MMSEは正常範囲内であった。MRIでは前頭葉優位の限局性脳萎縮があり、SPECTでは両側の前頭葉から側頭葉に血流低下が認められた。現在は定年退職した夫と2人暮らしをしており、家事は夫が行っている。デイケアに週1回通所しており、好きだった塗り絵や和紙工芸などの作業活動に参加するが、落ち着きがなく途中で立ち去ろうとする行動が頻回にみられる。作業活動の持続を促す対応として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
前頭側頭型認知症の患者は、注意の持続性や転換性に困難を抱えることが多く、活動中に気が散りやすかったり、他の刺激に注意が向きやすかったりします。この患者の場合、「落ち着きがなく途中で立ち去ろうとする行動が頻回にみられる」とあるため、注意が散漫になった際に、具体的な作業道具や材料を視覚的に示し、同時に言葉で働きかけることで、再び作業へと関心を向けさせ、注意を持続させるための有効な介入となります。これは、環境調整と行動誘導の基本的な技法であり、認知症患者への作業療法において重要な対応です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。前頭側頭型認知症の患者は注意の転換性や持続性に困難を抱えることが多いです。作業に集中できなくなったり、他の刺激に気が散ったりした際に、対象物(道具や材料)を視覚的に示し、具体的な言葉で声かけを行うことで、再び作業へと注意を引き戻し、活動への持続を促すことができます。これは環境調整と行動誘導の基本的な介入方法です。
- 2. 顔見知りのメンバーがいることは安心感につながる可能性はありますが、直接的に作業への注意持続を促す対応ではありません。問題は活動中の落ち着きのなさや離席行動であり、人間関係の質よりも作業環境や声かけによる誘導が優先されます。また、前頭側頭型認知症では、むしろ社会性の低下や脱抑制により、顔見知りとの関わり方が問題となる場合もあります。正しくは:この対応は直接的な解決策にはなりにくい。人との交流が問題行動の原因でなければ、環境を変えても効果は期待できない。選びやすい理由:社交的な場に慣れ親しんだ人が多い方が落ち着くのではないか、という一般論から選びやすい。混同注意:レビー小体型認知症など、幻視や妄想が強く不安感が強い場合に人間関係が影響しやすいケースと混同するかもしれない。
- 3. 前頭側頭型認知症の場合、理解力や抑制機能が低下しているため、命令口調で制止しても効果が薄く、むしろ反発を招いたり、混乱や感情的な反応を引き起こしたりする可能性があります。指示的な対応よりも、行動を促すような肯定的な関わりが重要です。また、脱抑制や常同行動が見られる場合、明確な指示だけでは行動変容は難しいです。正しくは:行動を制限するのではなく、なぜ立ち去ろうとするのか背景を探り、作業への興味を引く工夫や、環境調整を行うべき。選びやすい理由:「はっきり伝える」ことで問題行動が収まるのではないか、という直感的な考えから選びやすい。混同注意:注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子供への教育的介入や、単純なルール違反に対しての対応と混同する可能性がある。認知症患者への対応は、病状による理解力や行動制御の低下を考慮する必要がある。
- 4. 前頭側頭型認知症では、新しい学習や変化への適応が難しい場合があります。慣れない活動は混乱や不安を招き、むしろ落ち着きのなさや離席行動を悪化させる可能性があります。本人が「好きだった塗り絵や和紙工芸」に参加していることから、慣れ親しんだ活動の環境や方法を調整する方が適切です。正しくは:すでに好きで慣れ親しんだ活動(塗り絵や和紙工芸)を継続し、その活動内容や環境を工夫する方が良い。選びやすい理由:新しい刺激で気分転換になるのではないか、というポジティブな側面を期待して選びやすい。混同注意:うつ病など、意欲の低下に対して新しい活動を導入することで気分転換を促すケースと混同する可能性がある。認知症患者は変化に弱い。
- 5. セラピストの変更は、問題の根本的な解決にはなりません。患者の症状が、特定の人との相性によるものとは限りませんし、むしろ慣れたセラピストとの関係性を維持する方が、患者にとって安心感があり、安定した対応が期待できます。問題の本質は認知機能の低下による行動障害であり、セラピストの交代で解決する可能性は低いです。正しくは:セラピストの変更ではなく、現在のセラピストが認知症の特性を理解し、適切な対応方法を学ぶことが重要。選びやすい理由:現在の状況が改善しないのは担当者との相性が悪いのではないか、と推測して選びやすい。混同注意:治療関係が著しくうまくいっていない場合や、信頼関係が構築できない場合の対応と混同する。本事例ではそのような記述はない。
国試ポイント
前頭側頭型認知症の特性を理解し、行動障害に対する具体的な作業療法介入を問う問題。特に、注意持続の困難や脱抑制に対する環境調整と声かけの重要性がポイントです。
混同注意
認知症のタイプによって見られる行動特性や対応が異なること。特に、前頭側頭型認知症の脱抑制や常同行動、注意障害への対応と、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症への対応を混同しないように注意が必要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、前頭側頭型認知症の特性(脱抑制、常同行動、注意障害)とそれに対する具体的な作業療法介入(環境調整、声かけ、活動の選択、構造化)を結びつけられるかが問われます。特に、患者の現在の状態や好みを考慮した個別のアプローチが重要です。
関連知識
前頭側頭型認知症(FTD)の主な症状(行動障害型FTD、意味性認知症)、注意機能の障害とその評価(TMT、Stroop testなど)、認知症に対する非薬物療法(作業療法、環境調整、行動アプローチ)。具体的な介入技法として、ブリーフィング、提示、ガイド、キューイングなど。