21歳の女性。衝動的に食器を割ったり、自身の手首を切ったりするなどの行為が続いたため精神科病院へ入院となった。夜になると両親に電話し、自分を見捨てるのではないかと脅迫的に責めたてた。また主治医を罵倒し、椅子を投げつけるなどの暴力を振るった後すぐに「先生はすばらしいお医者さんですからどうか治してください」と泣きながら懇願することもあった。この患者の作業療法を行う上で適切でないのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
境界性パーソナリティ障害の患者は、退行や試し行為、操作的な行動を示すことが多く、作業療法士は強烈な感情を抱きやすいです。患者の感情的な苦痛は受容するべきですが、問題行動や不適切な言動を『すべて』受け入れることは、患者の依存を助長し、適切な境界線を学ぶ機会を奪い、治療構造を不安定にするリスクがあります。作業療法士は共感的に接しつつも、治療目標に沿った明確な限界設定と一貫した態度を保つことが求められます。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。境界性パーソナリティ障害の患者は退行的な言動を示すことがありますが、それを『すべて』受け入れることは、患者の依存を助長したり、治療関係において作業療法士が疲弊したりするリスクがあります。特に不適切な行動や言動まで無条件に受け入れると、患者の境界設定能力を育む機会を失い、治療目標達成を阻害する可能性があります。正しくは:患者の退行的な言動に対しては、共感的に耳を傾けつつも、治療目標達成に有害な行動や言動には適切な境界線を設定し、建設的な方向へ導く必要があります。感情的な苦痛は受容しつつ、不適切な行動は許容しない姿勢が重要です。選びやすい理由:患者を受け入れる姿勢はセラピストにとって重要であるため、一見正しい選択肢に見えます。特に精神科領域では受容が基本姿勢とされています。混同注意:『受容』と『許容』の混同。患者の感情や苦痛の訴えは受容しますが、不適切な行動や治療に有害な言動まで許容するわけではありません。
- 2. 多職種連携は精神科治療において不可欠です。作業療法はチーム医療の一環であり、他の治療状況を把握することで、患者の全体像を理解し、治療方針の一貫性を保ち、作業療法の内容をより効果的に調整できます。これは適切な対応です。選びやすい理由:特になし。これは一般的な医療連携の基本であり、正しい選択肢として判断しやすいです。
- 3. 境界性パーソナリティ障害の患者は、セラピストに強い感情を抱かせることが多いため、作業療法士が自身の感情(逆転移)を自覚し、客観的に分析することは、治療関係を健全に保ち、適切な対応を取る上で極めて重要です。これは適切な対応です。選びやすい理由:特になし。精神科領域、特にパーソナリティ障害の患者を担当する際には、セルフモニタリングは必須のスキルです。
- 4. 患者の衝動的な行動(自傷、他害、問題行動など)がもたらす現実的な結果やリスクを具体的に伝え、患者自身にその影響を認識させることは、行動変容を促す上で重要な治療的介入です。ただし、感情的に責めるのではなく、事実に基づいて冷静に伝える必要があります。これは適切な対応です。選びやすい理由:伝え方によっては患者を傷つける可能性があるため、一見不適切に見えるかもしれませんが、適切なタイミングと方法で行えば重要な介入となります。ここは『適切でない』ものを探す問題であるため注意が必要です。
- 5. 境界性パーソナリティ障害の患者にとって、明確な境界設定と一貫したルールは、治療関係の安定と自己統制能力の向上に不可欠です。セッションの時間、場所、内容、キャンセル規定などを明確に定めることは、治療構造を確立し、患者が安心して取り組める環境を作る上で非常に重要です。これは適切な対応です。選びやすい理由:特になし。ルール設定は境界性パーソナリティ障害の治療において、基本中の基本です。
国試ポイント
境界性パーソナリティ障害患者に対する作業療法士の適切な対応、特に『受容』と『限界設定』の理解が問われています。単なる共感的な態度だけでなく、治療的な視点からどのような介入が適切か、また不適切かを見極める能力が重要です。
混同注意
『患者の感情を受容すること』と『不適切な行動や言動を無条件に許容すること』の混同。患者の苦痛や感情は受け止めますが、それによって生じる問題行動までは容認しません。また、共感と迎合の区別も重要です。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず疾患特性(この場合は境界性パーソナリティ障害)を把握し、それに伴う患者の行動特性(退行、衝動性、操作性など)を理解することが重要です。次に、提示された選択肢が『治療目標に沿っているか』『患者の自立や成長を促すか』『治療構造を安定させるか』という視点で評価します。特に『すべて』『常に』のような極端な表現が含まれる選択肢は、不適切な場合が多いです。
関連知識
境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)、精神科における治療原則(多職種連携、一貫性、構造化、限界設定、逆転移の管理)、セルフモニタリングの重要性、作業療法の治療的活用(自己肯定感の向上、現実検討能力、対処スキルの獲得)。