25歳の女性。交通事故による外傷性脳損傷(右前頭葉)。職場復帰を希望している。WAIS-Ⅲでは言語性IQが76、動作性IQが106、全検査IQが89。RBMTが19点、TMT-Aが81秒、TMT-Bが90秒、BADSが104点、FIMが120点。対人交流は良好である。2か月後の事務職への職場復帰を目的とした練習として適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この患者は右前頭葉損傷により、WAIS-IIIの言語性IQが76と低く、RBMTも19点と記憶にも課題があることが示唆されます。一方で、動作性IQは106と比較的保たれており、BADSも104点(遂行機能は比較的良好な部類)、TMT-A/Bも軽度遅延の範囲です。事務職への職場復帰を目指すにあたり、現在の認知機能レベルに合った、成功体験を積みやすい課題を選択することが重要です。 「書類の整理整頓」は、主に視覚空間認知、簡単な分類、注意の維持、指示の理解を必要とする作業であり、患者の保たれている動作性IQや比較的良好な遂行機能が活かせる可能性が高いです。言語性認知や記憶への負担が他の選択肢に比べて少なく、段階的に難易度を上げていくことが可能です。他の選択肢は、高度な言語性認知機能、記憶力、論理的思考、計画性などを強く要求するため、現時点では難易度が高すぎると判断されます。
選択肢ごとの解説
- 1. 電話応対は、聴覚的情報処理、短期記憶、会話内容の理解と応答、状況判断など、高い言語性認知機能と複合的な注意力を要求します。患者の言語性IQは76と低く、RBMTも19点と記憶に課題があるため、現段階でこの練習は難易度が高すぎます。正しくは:電話応対は、より基礎的な認知機能(特に言語理解、記憶)が改善されてから段階的に導入すべきです。まずは、より構造化された、言語負荷の少ない課題から始めます。選びやすい理由:事務職では電話応対が必須であるため、復帰を見据えると重要な課題だと感じやすいですが、現在の認知機能レベルを考慮する必要があります。混同注意:患者の現状の認知機能レベルと、目標となる職務内容の難易度設定のバランス。
- 2. 企画書の作成は、論理的思考、情報収集・分析、文章構成能力、創造性、長期的な計画性など、高度な遂行機能や言語性認知機能を必要とします。患者の言語性IQは76と低く、現時点ではこの課題は非常に困難です。正しくは:企画書作成のような高度な課題は、より基本的な認知機能が十分に改善し、段階的な訓練を経てから検討すべきです。まずは、より構造的で単純な作業から始めます。選びやすい理由:事務職の重要な業務の一つであり、職場復帰を見据えると取り組むべきだと考えがちです。混同注意:遂行機能の一部としての計画性や問題解決能力と、言語性認知能力の関わり。
- 3. 正解。書類の整理整頓は、視覚空間認知、注意の維持、簡単な分類能力、段取り、指示の理解といった能力が主に求められます。患者は動作性IQが106と高く、BADSも104点(遂行機能は比較的良好)、TMT-A/Bは軽度遅延だが、整理整頓であれば、指示に基づいて段階的に取り組むことが可能です。言語性IQの低さや記憶の課題があっても、比較的取り組みやすい課題です。
- 4. 会議内容の要約報告は、聴覚的情報の理解、重要な情報の選択と抽出、短期記憶と長期記憶の活用、論理的な文章構成、表現力など、高度な言語性認知機能と複合的な遂行機能を要求します。患者の言語性IQは76と低く、RBMTも19点(記憶に課題)であるため、現段階でこの課題は非常に難易度が高いです。正しくは:会議の要約報告は、言語理解能力と記憶力が十分に改善し、より基礎的な報告書作成などが可能になってから段階的に行うべきです。選びやすい理由:事務職にとって会議の議事録作成や報告は重要な業務であるため、復帰に向けた練習として適切だと考えやすいです。混同注意:言語理解、記憶、遂行機能の複合的な要求度。
- 5. 金銭の出納処理は、正確な計算能力、細かな注意の持続、金銭管理の知識、ミスの発見と修正など、高い集中力と数値処理能力、遂行機能を必要とします。患者の認知機能プロファイルから、言語性IQの低さが関連する可能性があります(計算の指示理解など)。また、TMT-A/Bの軽度遅延から注意の課題も示唆され、正確性が強く求められるこの課題は現時点ではリスクが高いと考えられます。正しくは:金銭の出納処理は、より基礎的な計算能力、注意持続力、正確性が確立されてから、段階的に導入すべきです。選びやすい理由:事務職において金銭管理は重要な業務であり、必要なスキルだと考えがちです。混同注意:計算能力と関連する認知機能(特に言語理解、注意、遂行機能)の複合的な要求度。
国試ポイント
脳損傷患者の残存機能と障害特性を理解し、具体的な評価結果から、職場復帰に向けた適切な訓練課題を選択できるかどうかが問われる問題です。特に、WAIS-IIIの言語性IQと動作性IQの乖離、RBMT(記憶)、TMT(注意・遂行機能)、BADS(遂行機能)といった各評価尺度が示す意味を正確に把握し、現実的な課題設定ができる応用力が求められます。
混同注意
各認知機能評価バッテリーの結果が具体的に何を示しているのか、またそれがどのような作業と関連するのかの理解不足。特に、言語性IQの低さと動作性IQの高さというアンバランスなプロファイルから、得意・不得意な作業を判断する点が重要です。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の問題が出た際には、まず患者の主な障害特性(特に高い機能と低い機能の差)を評価バッテリーの結果から正確に読み取ることが重要です。次に、提示された各練習課題が、どの認知機能を主に要求するのかを分析し、患者の機能プロファイルと照合して、最も負担が少なく、成功しやすい課題を選択する視点を持つこと。
関連知識
WAIS-IIIの各指標の意味(言語理解、知覚統合、作動記憶、処理速度)とその臨床的意義。RBMT、TMT、BADS、FIMといった主要な高次脳機能評価およびADL評価の解釈。前頭葉損傷による高次脳機能障害の主な症状(遂行機能障害、記憶障害、注意障害など)。職場復帰支援における段階的なアプローチと、能力に応じた課題設定の原則。