60歳の男性。会社員。直腸癌の術後で人工肛門を造設した。現在、抗がん剤治療中で倦怠感と下肢筋力低下があるが、病棟内での歩行は見守りレベルで可能。人工肛門のパウチ交換手順のトレーニングを始めた。入院前と同じ部署への復帰を希望している。この患者に対する作業療法の初期対応で最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第61回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この患者は抗がん剤治療中であり、倦怠感と下肢筋力低下があるため、身体的負担を最小限に抑えつつ活動を維持することが求められます。活動と休息のバランスを考慮したプログラムは、患者の現在の体調に合わせたエネルギー管理を可能にし、治療の継続やQOLの維持に直結します。他の選択肢は、患者の現状に合わない高負荷の介入、不適切な食事指導、作業療法士の役割の軽視、または時期尚早な介入であり、初期対応としては適切ではありません。
選択肢ごとの解説
- 1. 抗がん剤治療中の患者は倦怠感や筋力低下があり、高負荷の運動は状態を悪化させる可能性があります。初期段階では、むしろ活動と休息のバランスを重視すべきです。正しくは:患者の現在の身体状態(倦怠感、筋力低下)を考慮し、低負荷から中等度の運動で、活動能力の維持・向上を目指すべきです。活動と休息のバランスを考慮することが重要です。選びやすい理由:復職希望があるため、体力向上を目指したいと考えるかもしれませんが、現状の身体機能(倦怠感、筋力低下)を無視した高負荷は適切ではありません。混同注意:一般的なリハビリテーションでの体力向上と混同しやすいですが、がん患者、特に抗がん剤治療中の患者では、状態に合わせた慎重なアプローチが求められます。
- 2. 食事摂取量の制限に関する情報が提示されておらず、抗がん剤治療中の患者にとって栄養状態の維持は非常に重要です。摂取量を減らすことは、倦怠感や筋力低下を悪化させる可能性があります。正しくは:患者の栄養状態を評価し、必要であれば医師や管理栄養士と連携して適切な栄養指導を行うべきです。選びやすい理由:がん患者の食事療法として、誤った知識から選択肢として浮上するかもしれませんが、具体的な指示なしに摂取量を大幅に減らすことは有害です。混同注意:特定の病態(例:肥満、腎臓病など)における食事制限と混同する可能性がありますが、このケースでは該当しません。
- 3. 人工肛門の自己管理は、食事、排泄、整容、入浴などの日常生活動作(ADL)や、社会参加、復職にも影響する重要な側面です。作業療法士は、患者が自己管理を日常生活に組み込み、社会生活を送る上で必要な能力を評価し、指導する役割を担います。看護師との連携は重要ですが、全て任せるのは適切ではありません。正しくは:看護師と連携しつつ、作業療法士の視点から、人工肛門の自己管理が日常生活動作や社会生活に与える影響を評価し、患者が無理なく自己管理できるよう個別に応じた指導や環境調整を行うべきです。選びやすい理由:看護師が人工肛門のケアの専門家であるという認識から、全て任せて良いと考えてしまうかもしれませんが、ADLや生活への統合は作業療法士の専門分野です。混同注意:多職種連携における職務分担と、排泄ケア全般における看護師の主要な役割と混同しやすいです。
- 4. 患者は現在、抗がん剤治療中で倦怠感や筋力低下があり、病棟内での歩行が見守りレベルです。この段階で、直ちに職場環境の現地評価を行うのは時期尚早であり、まずは患者の体調管理と基本的な身体機能の回復を優先すべきです。正しくは:復職は目標として意識しつつも、まずは患者の体調安定と基本的な日常生活動作能力の向上、人工肛門の自己管理能力の確立を支援します。その上で、体調が安定し、機能が回復してきた段階で、職場への情報収集や現地評価の計画を立てるのが適切です。選びやすい理由:患者が復職を希望しているため、その目標達成のために現地評価が有効だと考えてしまうかもしれませんが、「初期対応」としては時期尚早です。混同注意:復職支援の重要性と、具体的な介入のタイミングや優先順位と混同しやすいです。
- 5. 正解。抗がん剤治療中の患者は倦怠感や筋力低下を抱えているため、活動量を無理なく調整し、十分な休息を確保することが非常に重要です。これにより、身体的負担を軽減し、治療の継続や日常生活の維持をサポートできます。これは、患者の現状に即した最も適切な初期対応です。
国試ポイント
がん患者の作業療法における初期評価と介入の優先順位、特に抗がん剤治療に伴う症状(倦怠感、筋力低下)への対応と、活動と休息のバランスを考慮したエネルギー保存技術の適用能力が問われています。また、多職種連携における作業療法士の役割、患者のニーズに基づいた目標設定と段階的な介入計画の重要性も評価のポイントです。
混同注意
一般的なリハビリテーションにおける積極的な機能訓練と、がんリハビリテーションにおける症状管理やエネルギー保存の優先順位が混同されやすいです。また、多職種(看護師、医師、管理栄養士など)の専門性と作業療法士の役割分担について、どこまでが作業療法士の介入範囲であるかという点も混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、患者の病期、治療段階、具体的な症状(特に倦怠感や疼痛)、予後、そして患者の訴える希望や目標を総合的に判断し、「最も適切な初期対応」が現在の身体状態や治療状況に合致しているかを見極めることが重要です。特に、身体への負担が大きい治療中である場合は、症状緩和とQOL維持を優先する選択肢に注目します。
関連知識
がんリハビリテーションの原則、抗がん剤治療の副作用(特に倦怠感、末梢神経障害、筋力低下など)、エネルギー保存(energy conservation)の技術、ADL/IADLへの人工肛門管理の統合、多職種連携、段階的な復職支援。