自傷や社会的問題行動が絶えない境界性パーソナリティ障害の患者に対する作業療法士の対応として適切でないのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
境界性パーソナリティ障害の患者は、対人関係の不安定さ、衝動性、感情の激しい揺れが特徴的です。治療関係においても、治療者に対する極端な理想化と突然のこき下ろしを繰り返し、強い転移や逆転移が生じやすいことが知られています。作業療法士は、このような患者との間に安定した治療関係を築き、適切な治療的距離を保つことが求められます。転移を治療的に「利用」することは、精神分析的な治療で用いられる技法であり、作業療法士の専門範囲を逸脱するだけでなく、BPD患者の不安定な感情や衝動性をさらに増幅させ、治療関係を破綻させるリスクが高いです。作業療法士は、転移が生じた際には、それを認識しつつも、あくまで支持的な姿勢で患者の課題解決を支援し、適切な境界線を維持することが重要です。
選択肢ごとの解説
- 1. 境界性パーソナリティ障害の患者は感情や目標が不安定になりやすい傾向があるため、治療の方向性を見失わないよう、定期的に治療の目的や目標を患者と共有し、確認し続けることは非常に重要かつ適切な対応です。選びやすい理由:患者との信頼関係を築き、治療を効果的に進める上で目標の確認は重要だと広く認識されているため、これを不適切とは考えにくいでしょう。混同注意:特に混同しやすい点はありません。
- 2. 境界性パーソナリティ障害の患者の治療においても、患者自身が主体的に治療に参加し、自身の問題解決に取り組む姿勢を養うことは、自律性を高め、治療効果を向上させる上で不可欠な要素であるため、適切な対応です。選びやすい理由:治療の基本的な原則であるため、これを不適切だと判断することは難しいでしょう。混同注意:特に混同しやすい点はありません。
- 3. 疾患の特性やそれによって生じる問題について、患者が正しく理解することは、自己認識を深め、適切な対処法を学ぶ上で役立つため、正直に説明することは適切な対応です。ただし、伝え方には患者の感情に配慮し、細心の注意が必要です。選びやすい理由:「率直に」という表現が、患者を傷つけたり、感情的な反応を引き起こしたりする可能性を懸念し、不適切だと誤解する人もいるかもしれません。しかし、信頼関係に基づいた丁寧な説明は治療に必要です。混同注意:患者の感情への配慮を欠いた一方的な説明と混同しやすいかもしれません。
- 4. 正解。境界性パーソナリティ障害の患者は、対人関係が不安定で、治療関係においても激しい転移や逆転移が生じやすい特徴があります。作業療法士がこの不安定な転移を積極的に「利用」しようとすることは、治療関係をさらに複雑にし、患者の感情の不安定さや衝動性を悪化させる危険性が高いです。作業療法士は精神分析医ではないため、転移を治療技法として「利用」することは専門外であり、安定した支持的な治療関係を維持することに注力すべきです。選びやすい理由:精神力動的な治療では転移の分析・活用が行われることがあるため、精神医療における転移の概念を広く知っている学生は、これが治療の一部だと誤解する可能性があります。しかし、作業療法士の専門性と役割を考慮すると不適切です。混同注意:精神分析療法における「転移の解釈」や、他の精神疾患における「治療関係のダイナミクスを理解し対応すること」と混同しやすいですが、境界性パーソナリティ障害においては、転移の積極的な利用よりも、安定した治療関係の維持と境界線の設定が優先されます。
- 5. 境界性パーソナリティ障害の治療は、心理療法(弁証法的行動療法など)、作業療法、そして症状管理のための薬物療法を組み合わせた統合的アプローチが最も効果的であると考えられています。作業療法士も治療チームの一員として、薬物療法を含む統合的な治療計画への参加や検討は適切な対応です。選びやすい理由:作業療法士は直接薬物療法を行わないため、自分の対応範囲外だと誤解し、不適切だと考える学生もいるかもしれませんが、チームアプローチの一環として検討することは適切です。混同注意:作業療法士が直接薬を処方する行為と混同しやすいですが、ここでは「検討する」というチームアプローチの一環として述べられています。
国試ポイント
境界性パーソナリティ障害患者に対する作業療法士の適切な関わり方、特に治療関係の維持に関する知識が問われています。精神分析的な治療技法と作業療法士の役割の区別、およびBPD患者の特性理解がポイントとなります。
混同注意
転移は、患者が過去の重要な人物に対する感情や態度を治療者に向け直す現象であり、精神分析療法において重要な概念です。精神分析医は転移を解釈し、治療に利用しますが、作業療法士は精神分析医ではないため、これを積極的に「利用」することは専門外です。患者の感情を理解し共感することと、転移を治療技法として利用することとは異なります。
次に同じ論点が出たら
次に同じ論点が出た場合、境界性パーソナリティ障害患者に対して「してはいけない対応」や「注意すべき点」が問われる可能性が高いです。特に、患者の操作行動への対応、治療者間の情報共有の重要性、感情の不安定さに対する具体的な支援方法などが問われるかもしれません。また、作業療法士の役割と他職種(精神科医、心理士など)の役割の線引きも重要な視点となるでしょう。
関連知識
境界性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5など)と臨床症状。境界性パーソナリティ障害の治療法(弁証法的行動療法 (DBT)、精神力動的心理療法、認知行動療法など)。作業療法における精神科リハビリテーションの原則(支持的な態度、適切な距離感、一貫性、境界線の設定)。転移と逆転移の概念。