20歳の男性。幼少期は一人遊びが多かった。小学校から高校までは成績は概ね良かったものの、一方的発言が多い、融通が利かないなどによって集団になじめず、いじめを受けることも多かった。大学に入ると、講義科目は問題ないが、演習科目のグループワークで相手に配慮した発言がうまくできず、メンバーから避けられることが多くなった。大学2年生になると、過去のいじめ体験を思い出してパニックになることが増え、自宅の自室に引きこもる状態となったため、母親に連れられて精神科を受診し、外来で作業療法が開始された。この患者の作業療法で適切でないのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
本症例の患者は、筋道だった発言が目立つものの、柔軟性に欠ける傾向があり、他者への配慮が欠けた発言が多発するなど、自閉スペクトラム症(ASD)の特性が示唆されます。ASDの特性として、口頭指示のみでは全体像を把握しにくい、言語以外の視覚的な情報処理に優れるという特徴があります。そのため、作業工程を言語だけで詳細に伝えることは、患者にとって理解しにくく、混乱を招く可能性があります。視覚的な情報と組み合わせた指示の方が、より適切に活動に取り組むことができます。
選択肢ごとの解説
- 1. ASD患者は、予測できない状況や不明確な指示に不安を感じやすいため、活動における規則や約束事を明確に提示することは、安心して活動に取り組むために適切です。選びやすい理由:明確なルール設定は、多くの患者にとって有効な支援であるため、一般的な作業療法の原則と合致すると考えやすいです。混同注意:一般的な患者への指示伝達方法。
- 2. 本症例の患者は、学業成績が良好であり、筋道だった発言が目立つことから、特定の関心事に対しては集中力や能力を発揮しやすいと考えられます。本人の関心や興味のある活動を取り入れることは、モチベーション向上や成功体験の獲得に繋がり、引きこもりからの脱却や社会参加を促進するために適切です。選びやすい理由:患者の興味を引く活動の導入は、ADHDやうつ病など、他の精神疾患患者への作業療法においても有効なため、幅広い患者層に適用できると考えて選びやすいです。混同注意:活動の選択における一般的な原則。
- 3. 正解。自閉スペクトラム症の特性を持つ患者は、口頭での情報処理よりも視覚的な情報処理に優れていることが多く、作業工程を言語だけで詳細に伝えることは、かえって理解を妨げ、混乱を招く可能性があります。視覚的な手順書やモデルを示すなど、言語情報と視覚情報を組み合わせた提示がより効果的です。したがって、適切でないといえます。正しくは:作業工程は、言語だけでなく、視覚的な情報(写真、絵、図、実演など)を併用して伝える。選びやすい理由:健常者や他の精神疾患の患者に対しては、言語による詳細な説明が理解を深める上で有効なことが多いため、一般的なコミュニケーション方法として選択しがちです。混同注意:一般的な患者への指示伝達方法や、言語理解能力が高い患者への説明方法。
- 4. 過去のいじめ経験やグループワークでのトラブル、引きこもりといった経緯から、自身の特性や社会との関わり方について理解を深めることが重要です。心理教育プログラムは、疾病や特性に関する知識を提供し、自己理解を促進し、対処スキルを習得するために有効であり、適切です。選びやすい理由:心理教育は、多くの精神疾患患者に対する治療プログラムの一部として広く行われているため、一般的な介入として選びやすいです。混同注意:薬物療法や他の精神療法。
- 5. 本症例の患者は集団に馴染めず、他者への配慮が欠けた発言が原因でメンバーから避けられるなどの経験があり、集団への参加に苦手意識や不安を抱えていると考えられます。まずは、並行して同じ活動を行う場(例:同じ部屋で個別の作業を行う、他の参加者がいる中で黙々と作業を行う)を利用することで、集団に慣れるための準備段階として、あるいは、他者との緩やかな繋がりを経験するための機会として適切です。選びやすい理由:集団活動は多くの精神科作業療法で推奨されるため、その導入段階として理解しやすいです。また、いきなりグループワークを行わず、並行して行う活動の場から始めるという配慮が妥当と判断しやすいです。混同注意:本格的なグループワークや集団療法。
国試ポイント
自閉スペクトラム症(ASD)患者への作業療法の介入原則と、特性に応じた具体的な支援方法。
混同注意
ASD患者への指示伝達は、言語的指示が全く効果がないわけではなく、言語理解能力に応じて適切に使い分ける必要がありますが、視覚的・構造化された情報の提示がより効果的である点を理解することが重要です。言語的指示が過度に詳細であると、かえって情報過多となり混乱を招く可能性があります。
次に同じ論点が出たら
同様の症例が出た場合、ASDが示唆される患者の特性(社会的コミュニケーションの困難、限定的・反復的な行動、感覚過敏など)を把握し、それらの特性に対する適切な介入、特に視覚的・構造化された支援が重視される点を判断基準とします。
関連知識
ASD患者に対する作業療法では、構造化された環境設定(TEACCHプログラムなど)、視覚的なスケジュールや手順の提示、ソーシャルスキルトレーニング(SST)、感覚統合療法などが効果的です。また、過剰な刺激の回避や安心できる環境の提供も重要です。