51歳の男性。仕事中に3mの高さから転落し、外傷性脳損傷を生じ入院した。受傷2週後から作業療法を開始した。3か月が経過し運動麻痺はみられなかったが、日付がわからない、1日のスケジュールを理解できない、感情のコントロールが難しい、複雑な作業は混乱してしまうなどの状態が続いた。作業療法で適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者様は、外傷性脳損傷後の高次脳機能障害により、時間認識、スケジュール理解、感情コントロール、複雑な作業への対処に困難を抱えています。このような状況では、外部からの刺激が多いと容易に混乱し、注意が散漫になりやすいため、静かで刺激の少ない環境で集中できる状態を作ることが非常に重要です。他の選択肢は、患者様の現在の状態を悪化させたり、効果が期待できない介入方法であるため不適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。外傷性脳損傷後の高次脳機能障害では、注意機能の低下、易疲労性、刺激への過敏性が見られることが多いため、集中を促し混乱を避けるために静かで刺激の少ない環境での実施が適切です。
- 2. 高次脳機能障害の患者様は、新しい情報の獲得や処理に困難を抱えることが多いため、毎日新規課題を導入することは混乱を招き、学習効果を低下させる可能性があります。正しくは:難易度を段階的に上げつつ、反復して行うことで定着を図れるよう、同じ課題を繰り返し練習する機会を設けるべきです。選びやすい理由:変化のある刺激が良いと考えるかもしれませんが、この状況では逆効果です。混同注意:認知症のリハビリテーションなどでも、混乱を避けるために慣れた環境や課題を用いることが多いです。新しい刺激を与えることと、無理なく少しずつ難易度を上げることを混同しやすいです。
- 3. 複数の担当者が入れ替わることは、高次脳機能障害を持つ患者様にとって混乱の原因となりやすく、一貫したアプローチが難しくなるため不適切です。正しくは:一貫性のある支援を提供するため、通常は特定の担当者が継続して関わることが望ましいです。ただし、チームアプローチとして情報共有は密に行うべきです。選びやすい理由:多職種連携や情報共有の観点から複数の専門家が関わるのは良いことだと感じるかもしれませんが、担当者が頻繁に変わることは避けるべきです。混同注意:多職種連携(複数の専門職が連携すること)と、一人の患者に複数の担当セラピストが頻繁に入れ替わりながらつくこと(一貫性の欠如を招く可能性)を混同しやすいです。
- 4. 感情のコントロール困難や病識の低下がある場合、一方的な注意の繰り返しは患者様の自尊心を傷つけたり、反発を招いたりする可能性があり、効果的ではありません。むしろ、代替行動の提示や環境調整が必要です。正しくは:不適切な言動の背景にある原因(感情コントロールの問題、欲求、混乱など)を理解し、その原因に対する支援や、適切な行動を促すための環境調整やポジティブな声かけを検討すべきです。必要に応じて、不適切な行動が起きにくいような環境設定や、行動修正のための具体的な介入計画を立てる必要があります。選びやすい理由:一般的に、問題行動には注意が必要だと考えがちですが、高次脳機能障害の特性を理解した対応が求められます。混同注意:一般的な社会常識でのしつけや指導と、脳損傷による機能障害に対する専門的な介入を混同しやすいです。病態理解に基づかない注意は効果が薄いだけでなく、患者との信頼関係を損ねる可能性があります。
- 5. 問題文から、日付の認識困難、スケジュール理解の困難、感情コントロールの問題、複雑な作業での混乱が見られるため、集団での活動は刺激が過多となりやすく、さらなる混乱や感情の不安定さを引き起こす可能性が高いです。まずは個別の介入で落ち着いた環境での機能回復を図るべきです。正しくは:感情コントロールや状況理解が安定し、ある程度の適応能力が見られるようになってから、段階的に集団活動を導入することを検討すべきです。導入する際も、少人数で構造化された簡単な活動から始めるのが望ましいです。選びやすい理由:レクリエーションは気分転換や社会性向上のために有用であると感じやすいですが、この段階の患者さんには時期尚早です。混同注意:集団での活動が社会性やQOL向上に繋がるという一般的な認識と、高次脳機能障害の重症度に応じた介入段階を混同しやすいです。早期に集団活動を行うことのメリットとデメリットを状況に応じて判断する必要があります。
国試ポイント
外傷性脳損傷後の高次脳機能障害、特に注意障害や遂行機能障害、感情コントロールの問題を持つ患者に対する作業療法の基本的なアプローチと環境設定の重要性を問う問題です。患者の現在の症状を正確に把握し、その特性に合わせた個別的な対応を選択できるかが鍵となります。
混同注意
高次脳機能障害の様々な症状(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、感情障害など)が混在している場合に、どの症状に対してどのような介入が優先されるべきか、また不適切な介入がもたらすリスクを混同しやすいです。特に、刺激の多寡が与える影響について誤解が生じやすいポイントです。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出題された場合、まず患者の現在の高次脳機能障害の具体的な症状(例:注意障害、遂行機能障害、記憶障害、感情障害)と重症度を把握します。次に、それらの症状が悪化する要因(例:多すぎる刺激、疲労、複雑な指示)と、改善に繋がる要因(例:構造化された環境、簡単な指示、反復練習)を考慮し、最も適した介入選択肢を選びます。
関連知識
高次脳機能障害の症状と評価(RBMT、BADS、FABなど)、認知リハビリテーションの原則(段階性、個別性、反復性、環境調整)、感情調整と行動管理、注意機能への介入方法(環境調整、タスク調整、注意訓練など)。