62歳の女性。5か月前に左半身の脱力のため救急車で搬入され、右視床出血と診断された。現在、Brunnstrom法ステージは上肢Ⅳ、手指Ⅲ、下肢Ⅲであり、座位では右に重心が偏移し、頸部は右に回旋していた。図のような検査所見を呈している。作業療法プログラムで最も適切なのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この患者は右視床出血による左半側空間無視が強く疑われる状況です。頸部が右に回旋しているのは、無視側である左への注意が困難なためと考えられます。そのため、首を左に回旋させることで、意識的に左空間への探索を促し、無視の改善を図ることが最も適切な介入です。塗り絵のような集中を要する課題と組み合わせることで、左側への注意を持続させやすくなります。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者は右視床出血による左半身麻痺と、右重心偏移、頸部右回旋という所見から、左半側空間無視や半側身体失認の可能性があるため、無視側(左側)への意識を促す必要があります。正しくは:左側から声かけを行い、無視側への注意を促します。選びやすい理由:重心が右に偏っているため、右側からの刺激によって修正を図ろうと考えるかもしれませんが、空間無視の状況では無視側への働きかけが重要です。混同注意:麻痺側と無視側が一致する場合としない場合があること、そしてどちらにアプローチすべきかの判断を混同しやすいです。
- 2. 左から右への輪移動は、右空間無視がある場合、無視側から非無視側への動きであり、意識を無視側から遠ざける可能性があります。正しくは:座位で右から左へ輪移動を行い、無視側である左への注意を促すようにします。または、左への体重移動を意識させます。選びやすい理由:一般的な重心移動の練習としては適切に見えるため。しかし、空間無視の病態を考慮しないと不適切です。混同注意:重心移動訓練と空間無視へのアプローチを混同しやすいです。空間無視の患者では、無視側への意識を促すような方向での移動が推奨されます。
- 3. 正解。患者は右視床出血による左半側空間無視(および半側身体失認の可能性)があり、頸部は右に回旋しているため、意図的に首を左に回旋させることで、無視空間(左側)への探索を促し、注意を向けることができます。塗り絵という集中を要する課題と組み合わせることで、より効果的に左側への注意を促すことが期待できます。正しくは:正解のため修正不要。
- 4. ADL訓練は、視覚認知の改善を待つことなく、早期から並行して実施することが重要です。ADL訓練自体が認知機能の向上に寄与することもあります。また、認知機能が完全に改善するのを待つと、活動参加の機会を逃し、意欲低下につながる可能性があります。正しくは:ADL訓練は、視覚認知の改善と並行して早期から開始し、必要に応じて環境調整や介助を行う。選びやすい理由:ADL訓練にはある程度の認知機能が必要と考えるかもしれませんが、それは早期からの介入を妨げる理由にはなりません。混同注意:認知機能の障害がある場合のADL訓練の開始時期と、活動と参加の重要性を混同しやすいです。
- 5. 左半側空間無視がある場合、左側に壁を配置すると、無視側への刺激がさらに遮断され、無視の程度を悪化させる可能性があります。正しくは:机上課題では、無視側である左側に十分なスペースを設け、そこに興味を引く物品を置くなどして、左側への注意を促すような環境設定を行います。または、非無視側(右側)に壁を配置します。選びやすい理由:集中力を高めるために壁際に座らせるという一般的な配慮と混同しやすいです。しかし、空間無視の患者には逆効果です。混同注意:一般的な環境設定の原則と、半側空間無視患者に特有の環境設定の原則を混同しやすいです。
国試ポイント
脳卒中後の半側空間無視(特に視床病変によるもの)の病態理解と、それに対する具体的な作業療法介入の知識が問われています。重心の偏移や頸部回旋といった身体所見から空間無視を推察し、適切な介入法を選択できるかが重要です。特に、無視側へのアプローチが基本的な原則となります。
混同注意
半側空間無視と半盲(hemianopsia)の違い、およびそれぞれの介入方法。また、単に麻痺側を刺激することと、無視側への注意を促すことの違いを混同しやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の患者が出た場合、まず『左右どちらに空間無視があるか』を身体所見や検査所見から判断し、次に『その無視側に対してどのような刺激や環境設定が有効か』を問う選択肢に注目して判断します。特に、無視を『助長する』介入は誤りとなります。
関連知識
半側空間無視の評価(線分二等分試験、抹消試験、模写など)、介入方法(視覚探索訓練、頸部回旋、プリズム順応、肢節性運動、振動刺激、ミラーセラピーなど)、病巣部位と症状の関係(頭頂葉、前頭葉、視床などの役割)。重心移動訓練、ADLにおける環境設定の原則。