29歳の女性。歩行困難を主訴に整形外科外来を受診したが器質的問題が認められなかったため、紹介によって精神科外来を受診し入院することとなった。手足が震え、軽い麻痺のような脱力があり、自立歩行ができないため車椅子を使用している。立位保持や移乗に介助を必要とし、ADLはほぼ全介助である。この時点の患者に対する作業療法で適切なのはどれか。2つ選べ。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2・5番
解説
本症例は、器質的な問題がないにも関わらず歩行困難や脱力などの身体症状を訴え、ADLがほぼ全介助という状況にある。精神科入院初期の作業療法としては、まず患者の現状を受け止め、安心感を与えながら、身体症状への具体的な対処と、感情表出の機会を提供することが重要である。選択肢2の「自己表現の機会を増やす」ことは、患者の抱えるストレスや感情を安全に表出させることで精神的安定に寄与する。選択肢5の「身体機能に対する治療的な介入を行う」ことは、患者が訴える身体症状に対応し、現在の残存機能の維持・改善、ADLの自立度向上を目指すものであり、身体的側面から精神的な安定にも繋がる。1は入院初期には早すぎる。3は負担が大きすぎる。4は初期段階で依存を受け入れないのは不適切。
選択肢ごとの解説
- 1. 入院直後で身体症状が前面に出ている患者に対し、すぐに自己洞察を促すのは適切ではありません。まずは信頼関係の構築と、現在の身体症状への対応が優先されます。正しくは:信頼関係を構築し、患者の精神状態が安定してきた段階で、症状への理解を深めるために自己洞察を促すことを検討する。選びやすい理由:精神科入院のため、精神的な側面へのアプローチは重要だが、タイミングが早すぎる。混同注意:患者が自分の状態を理解することは重要だが、急性期の段階では負担が大きい。
- 2. 正解。精神科入院患者、特に身体症状を訴える患者にとって、言葉や非言語的な方法で感情や思いを表現する機会は重要です。これにより、ストレス軽減やコミュニケーションの円滑化が期待できます。正しくは:患者が安全な環境で自身の感情や考えを表現できるよう、様々なメディアや活動を提供する。選びやすい理由:身体的介入と比べて精神的な介入に見えるが、非言語的自己表現は身体機能が制限されていても実施可能。混同注意:言葉での表現が難しい場合でも、絵画や音楽、創作活動などで自己表現は可能である。
- 3. ADLがほぼ全介助の状態で、集団活動において役割を担うことは患者にとって大きな負担となり、失敗体験につながる可能性があります。まずは個別の支援や活動から始めるべきです。正しくは:まずは個別での関わりを通じて信頼関係を築き、患者の心身状態が安定し、集団での活動に参加できるようになった段階で、負担の少ない役割から始めることを検討する。選びやすい理由:集団活動は精神科作業療法の重要な要素だが、患者の現在の状態では時期尚早。混同注意:役割を持つことは自己肯定感につながるが、能力と状況に見合っている必要がある。
- 4. この段階の患者は、身体症状や精神的な不安定さから、一時的に他者への依存が高まることがあります。まずは患者の訴えを受け止め、安心感を提供することが重要です。自己中心的な依存と判断し拒絶することは、信頼関係の構築を妨げます。正しくは:患者の依存的な行動の背景にある不安やニーズを理解し、適切に受容しつつ、徐々に自立を促す支援を行う。選びやすい理由:依存を助長しないことは長期的な目標だが、急性期には受容が重要。混同注意:過度な依存は避けるべきだが、初期段階での拒絶は逆効果になる可能性がある。
- 5. 正解。器質的な問題は認められていないものの、患者は手足の震え、軽い麻痺のような脱力、自立歩行困難、ADLほぼ全介助といった身体症状を訴えています。これらの症状に対し、身体機能の維持・改善を目的とした治療的な介入(例:ROM訓練、筋力増強、バランス訓練、ADL練習など)は、精神的な側面にも良い影響を与える可能性があります。正しくは:患者の訴える身体症状に対し、可動域訓練、筋力維持、バランス練習、移乗・移動練習など、機能回復および代償手段の獲得を目指した介入を行う。選びやすい理由:精神科入院だが、身体症状があるため、作業療法士の専門性として身体機能への介入は重要。混同注意:器質的問題がないからといって身体的アプローチが不要なわけではなく、症状緩和や機能維持に繋がる。
国試ポイント
精神科領域における作業療法の初期介入、特に身体症状を伴う患者へのアプローチについて問う問題。精神科患者であっても身体症状に対する作業療法の重要性を理解しているか、また、患者の状態に応じた介入のタイミングを判断できるかがポイントとなる。
混同注意
精神科の患者だからといって精神的なアプローチのみに限定する考え方。身体症状がある場合は、精神科疾患であっても身体機能への作業療法介入が重要である。また、初期介入のタイミングの見極めも重要。
次に同じ論点が出たら
初期介入後、患者の症状の変化や心理状態の安定度に応じて、グループ活動への参加、自己洞察の促進、社会復帰に向けた支援など、段階的な介入計画を立案する。
関連知識
精神科作業療法の目的、精神科入院患者の心理的特徴、ADL評価と介入、身体機能訓練、表現療法。