28歳の女性。産後うつ病。育児休暇中である。元来、何事にも手を抜けない性格。出産から4か月経過したころから、子どもの成長が気になり始め、夫に不安をぶつけるようになった。次第に「母親失格」と言ってはふさぎ込むようになったため、夫に連れられて精神科を受診し入院となった。1か月半後、個別的作業療法が開始となったが、手芸中に「私は怠け者」とつぶやく様子がみられた。この患者に対する作業療法士の対応として適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第53回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
患者は完璧主義な性格から自己否定感が強く、「私はなんて怠け者なんだろう」と漏らす背景には、自身の現状に対する不安や焦燥感があります。このような状況下では、まずは患者の感情を受け止め、共感を示すことで安心感を提供し、治療関係を構築することが重要です。これにより、患者は自分の感情を安心して表現できるようになり、次の段階の治療へと進む土台が築かれます。
選択肢ごとの解説
- 1. 日記は自己省察を促す活動ですが、この時点の患者は自己否定感が強く、日記をつけることでさらに自己を責める方向に進むリスクがあります。まず感情の受容が優先されます。正しくは:患者の自己否定感が軽減され、感情の整理がある程度できるようになった段階で、自己理解を深めるための手段として検討する。選びやすい理由:自己省察を促すことで問題解決につながるように見えるため、早急な介入と捉えられやすい。混同注意:感情の表現を促す活動と、自己をさらに追い詰める活動との区別。治療の適切な段階の見極め。
- 2. 育児の振り返りは、患者の不安の要因に直接関わる可能性がありますが、現状では自己否定感が強く、振り返ることでさらに自分を責める可能性が高いです。まずは感情の安定が優先されます。正しくは:患者が自身の感情をある程度整理でき、客観的に状況を捉えられるようになった段階で、育児に関する具体的な問題解決やストレス対処法について検討する。選びやすい理由:産後うつ病であり、育児が関連しているため、育児の振り返りが治療に直接つながると考えがち。混同注意:問題の根源への介入と、現在の感情状態への介入の優先順位。
- 3. 正解。「私はなんて怠け者なんだろう」という患者の言葉には、完璧主義な性格ゆえの自己評価の低さや、思うように活動できないことへの焦燥感が込められています。この不安な感情に共感を示すことで、患者は理解されていると感じ、安心感を得られます。これにより、作業療法士との信頼関係が深まり、自身の感情を安全に表現できるようになるため、今後の治療の基盤となります。選びやすい理由:患者の感情に寄り添うことが、精神科治療の基本であるため。混同注意:同情と共感の区別。
- 4. 家族の協力は重要ですが、この時点の患者は自己否定感が強く、家族の介入について話し合うことで、自分だけができないという劣等感や負担感を増してしまう可能性があります。まずは患者自身の内的な安定が必要です。正しくは:患者の自己否定感が軽減し、自身の状態を受け入れられるようになった段階で、家族面談などを通して具体的な育児支援について話し合う。選びやすい理由:患者をサポートするために家族の協力は不可欠であるため、早期に介入すべきと考える。混同注意:患者自身の問題解決能力を育む支援と、外部資源の導入のタイミング。
- 5. 自己否定的な考え方について話し合うことは、認知行動療法の要素であり、長期的な治療目標として適切ですが、この時点では「私はなんて怠け者なんだろう」という感情が表面化しており、まずはその感情を受け止めることが優先されます。時期尚早な介入は、患者の抵抗や自己開示の妨げになる可能性があります。正しくは:患者の不安な感情が十分に受け止められ、治療者との信頼関係が構築された上で、患者の性格特性や思考パターンが自己否定につながっていることを本人と共に理解し、建設的な思考へ導くための話し合いを行う。選びやすい理由:患者の根本的な問題である完璧主義な性格や自己否定的な思考パターンを改善しようと考えるため。混同注意:短期的な感情の受容と、長期的な認知の修正という治療段階の見極め。
国試ポイント
精神科作業療法における患者の感情への対応、特に自己否定的な感情を持つ患者への共感的アプローチの重要性。
混同注意
単なる同情ではなく、患者の感情の背景にある思いや苦悩を理解しようとする姿勢が共感です。問題解決を急ぐ対応とは異なります。
次に同じ論点が出たら
患者が自己否定的な発言や不安を訴えている場合、まずはその感情に焦点を当てた共感的な対応が適切であるか。
関連知識
精神科リハビリテーションにおいては、患者中心のケアが基本であり、ラポール形成が治療の第一歩となる。共感はラポール形成の重要な要素である。認知行動療法においても、自動思考の修正を行う前に、患者の感情を十分に傾聴し受け止めることが推奨される。