20代の男性。頸髄損傷完全麻痺(Zancolliの四肢麻痺上肢機能分類C6B2)。仰臥位から長座位へ垂直方向の起き上がり動作獲得のために練習を行っている。図に示す肢位で肩甲帯を左右に振り重心を移動することを繰り返す。正常以上の関節可動域拡大を目的とした関節運動はどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
頸髄損傷C6B2の患者は、三角筋と上腕二頭筋の一部が機能するため、肩関節の屈曲・伸展、肘関節の屈曲がある程度可能です。仰臥位から長座位への起き上がり動作、特に垂直方向の起き上がりでは、上肢を後方について体幹を支え、肩甲帯を左右に振ることで重心を移動させます。この際、上肢を後方に引き、体を持ち上げるために肩関節の水平伸展(肩関節を外転90°位で後方に引く動き)の可動域が非常に重要となります。特に、麻痺がある状況では、健常者よりもこの可動域を拡大することで、代償的な動作や効率的な重心移動が可能になり、起き上がり動作の獲得に繋がります。この運動は、上肢の支持基盤を広げ、安定した姿勢で体幹を移動させるために不可欠です。
選択肢ごとの解説
- 1. 頸部の伸展は起き上がり動作において姿勢制御に重要ですが、この特定の起き上がり練習における主要な可動域拡大の目的ではありません。肩甲帯を左右に振る動きは主に体幹と上肢の協調運動を促します。正しくは:頸部の伸展は脊髄損傷の種類やレベルによっては代償動作として使われることがありますが、直接的に『正常以上の関節可動域拡大』を目的とする運動ではありません。選びやすい理由:起き上がり動作全般に必要な要素であるため、一見正解のように感じられるかもしれません。混同注意:他の代償動作や一般的な体幹運動と混同しやすいです。
- 2. 肩甲骨の外転は、前方へのリーチ動作や体幹の安定化に寄与しますが、この仰臥位から長座位への起き上がりで肩甲帯を振る動作において、特に『正常以上の関節可動域拡大』を主目的とする運動ではありません。正しくは:肩甲骨の外転は腕を前に伸ばす際に必要な動きですが、側方への重心移動を伴う起き上がりでは、より肩甲骨の挙上・下制、内転・外転のバランスが重要になります。選びやすい理由:肩甲帯の動きに関わるため、正しい選択肢のように感じられる可能性があります。混同注意:肩甲骨の他の動き(挙上、下制、内転)や、腕のリーチ動作と混同しやすいです。
- 3. 正解。頸髄損傷C6レベルの患者が、起き上がり時に肩甲帯を左右に振って重心移動を行う際、体幹を支えながら重心を移動させるには、肩関節の水平伸展(特に背部での支持)の可動域が重要になります。これは体幹を安定させ、腕を後方に引くことでテコの原理を利用して起き上がる動作に関連しており、通常の生活動作ではあまり行わない、正常以上の可動域が求められる場合があります。選びやすい理由:この肢位での水平伸展は、通常の生活で意識しない動きであり、その重要性を見落としがちです。
- 4. 肩関節の内旋は、起き上がり動作における体幹の支持や重心移動に直接的に『正常以上の可動域拡大』を目的とする運動ではありません。むしろ、上肢を床に接地して体重を支える際には、安定した肢位が求められます。正しくは:肩関節の内旋が強く働くと、手掌を床につける際の安定性が損なわれる可能性があります。選びやすい理由:肩関節の基本的な動きの一つであるため、選んでしまう可能性があります。混同注意:肩関節の他の回転運動(外旋)や、腕のリーチ動作と混同しやすいです。
- 5. 肩関節の外旋は、特定のリーチ動作や手のひらを上に向ける動作で重要ですが、この起き上がり動作で肩甲帯を振って重心移動を行う際に『正常以上の可動域拡大』を直接目的とする運動ではありません。むしろ、床に手をついて支える際には内旋位に近い方が安定することもあります。正しくは:肩関節の外旋が過度だと、床に手をついて体重を支える際に不安定になることがあります。選びやすい理由:肩関節の動きの一つであり、選択肢として魅力的かもしれません。混同注意:肩関節の内旋や、手の位置調整の動きと混同しやすいです。
国試ポイント
頸髄損傷患者の残存機能と、それを利用した代償動作、およびその動作獲得のために必要な関節可動域の知識が問われています。Zancolli分類C6B2の機能レベルを理解し、その患者がどのような動作で苦労し、どのような介入が必要かを具体的にイメージできるかが重要です。特に、障害に応じた特殊な可動域拡大の必要性を理解しているかがポイントとなります。
混同注意
頸髄損傷患者の起き上がり動作に必要な要素は多岐にわたるため、頸部や肩甲骨の他の動き、あるいは一般的な肩関節の屈曲・伸展などと混同しやすいです。しかし、この問題は『正常以上の可動域拡大を目的とした関節運動』という条件に絞られており、その点で他の選択肢とは区別されます。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の問題が出題された場合は、まず患者の損傷レベルと残存機能を正確に把握すること。次に、提示された動作(この場合は起き上がり)において、具体的にどの関節運動が最も重要で、かつ『正常以上の可動域拡大』という特殊な条件に合致するかを検討する。特に、麻痺患者の代償動作を効率化するために必要な可動域に注目すると良いでしょう。
関連知識
頸髄損傷のZancolli分類、各レベルの残存機能とADL、脊髄損傷患者の起き上がり動作における代償動作、関節可動域訓練の目的と方法、肩甲帯の機能解剖。