78歳の女性。右利き。脳梗塞による左片麻痺で入院中。Brunnstrom法ステージは上肢Ⅴ、手指Ⅵ、下肢Ⅴ。歯がなく、きざみ食をスプーンで全量自力摂取しているが、次から次へと食べ物を口に運ぶ。改訂水飲みテスト〈MWST〉は5点、反復唾液嚥下テスト〈RSST〉は4回/30秒であった。この患者への対応で正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
本患者は『次から次へと食べ物を口に運ぶ』早食い傾向が問題点として挙げられています。このような場合、一口量を減らし、食事のペースを調整することが重要です。小さいスプーンを使用させることで、一度に口に運ぶ量が少なくなり、結果として食事のペースを遅らせることができます。これにより、誤嚥のリスクを軽減し、より安全な摂食を促すことが期待されます。他の選択肢は、本症例の主たる問題点である早食いに対して直接的な解決策とはなりません。
選択肢ごとの解説
- 1. 摂食嚥下に問題のない患者の対面に座らせることは、患者が早食いであることを考慮すると、むしろ患者のペースを速めてしまう可能性があり、適切な対応とは言えません。早食いの患者には、落ち着いて食べられる環境を提供する必要があります。正しくは:患者の早食いを助長しない、落ち着いた環境で食事させるべきです。場合によっては、食事のペースを制御するような声かけや、介護者の見守りが必要です。選びやすい理由:食事中の社会的交流が嚥下を促進するという考えから、一見良いように思えるかもしれませんが、本症例では『次から次へと食べ物を口に運ぶ』という早食いの問題が焦点です。混同注意:『食事中の環境調整』と『早食いの是正』という2つの視点が混同される可能性があります。
- 2. 耳下腺マッサージは唾液分泌の促進を目的としますが、本症例の患者は『次から次へと食べ物を口に運ぶ』という早食いの問題が主であり、唾液分泌の低下に関する具体的な情報はありません。そのため、早食いに対する直接的な対応とは言えません。正しくは:早食いを是正するための具体的な介入(例:一口ごとの声かけ、食器の調整、食事介助)を検討すべきです。選びやすい理由:嚥下障害の患者に対する一般的な口腔ケアや摂食嚥下訓練の一つとして耳下腺マッサージが挙げられるため、誤って選んでしまう可能性があります。混同注意:一般的な嚥下障害の介入と、本症例の特定の問題(早食い)への介入が混同される可能性があります。
- 3. とろみをつけるのは、嚥下機能の低下により水分や固形物が誤嚥しやすい場合に行われますが、本症例の患者は『きざみ食をスプーンで全量自力摂取』しており、嚥下機能に関する具体的な問題(MWSTとRSSTの結果が不明なため)よりも『次から次へと食べ物を口に運ぶ』という早食いの問題が提示されています。やみくもにとろみをつけることは、食事の満足度を下げたり、必要以上の制限を加えたりする可能性があります。正しくは:早食いに対する介入を優先すべきであり、嚥下機能の詳細な評価(MWSTとRSSTの結果)に基づいて、必要であればとろみ調整を検討すべきです。選びやすい理由:嚥下障害の患者にはとろみ食が一般的であるという知識から、選択肢として魅力的です。しかし、本症例の主たる問題点とは一致しません。混同注意:一般的な嚥下障害の食事調整と、本症例の早食いという特定の問題に対する介入が混同される可能性があります。
- 4. 正解。患者が『次から次へと食べ物を口に運ぶ』早食い傾向にあるため、小さいスプーンを使用させることで、一口に運ぶ量が減り、結果的に食事のペースを遅らせることができます。これにより、誤嚥のリスクを減らし、落ち着いて食事をする助けとなります。正しくは:正しい選択肢です。この介入により、一口量を減らし、咀嚼・嚥下の準備時間を確保できます。選びやすい理由:この選択肢は、早食いという問題に直接的に介入する具体的な方法であり、理にかなっています。混同注意:他の選択肢が一般的な嚥下障害の対応であるため、それらと比較して患者の個別性に合わせた対応であると判断しやすいです。
- 5. 左片麻痺の患者の場合、左空間無視や半側空間無視がある可能性を考慮すると、麻痺側に皿を置くことは、食事の認識を困難にしたり、摂取漏れを引き起こしたりするリスクがあります。特に早食いの患者には、安全かつ効率的に食べられるよう、健全な視野に皿を配置することが重要です。正しくは:基本的に、健側(右側)の視野に皿を配置し、必要に応じて患者の注意を麻痺側にも向ける促しを行います。空間無視がある場合は、さらに専門的な対応が必要です。選びやすい理由:麻痺側への注意を促すことで、リハビリテーションの一環になるという考えから、誤って選択する可能性があります。混同注意:リハビリテーションの視点(麻痺側へのアプローチ)と、安全な摂食環境の確保という視点が混同される可能性があります。
国試ポイント
本問題は、嚥下障害の一般的な知識だけでなく、患者の具体的な行動(早食い)に焦点を当て、その問題行動に対する適切な介入方法を選択できるかどうかが問われています。特定の行動問題に対して、生活場面での具体的な工夫を提案できる実践的な知識が求められます。特に、Brunnstromステージが上肢・手指・下肢すべてV~VIと比較的良好であること、きざみ食を自力摂取できていることから、嚥下機能そのものよりも摂食行動の調整に重点が置かれることを読み解く必要があります。
混同注意
一般的な嚥下障害の対応(とろみ、口腔ケア、麻痺側へのアプローチ)と、具体的な問題行動(早食い)への個別的な対応が混同されやすいです。MWSTやRSSTのスコアが示されていないため、嚥下機能の重症度が不明瞭であり、一般的な嚥下食の調整を選択しやすくなります。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず患者の『最も顕著な問題行動や症状』を特定し、その問題に直接的かつ効果的にアプローチできる選択肢はどれかを見極めることが重要です。また、提示された情報(Brunnstromステージ、食事形態など)から、どの段階の嚥下機能に問題があるのか(あるいは問題がないのか)を推測し、それに見合った介入を選ぶ必要があります。今回は『次から次へと食べ物を口に運ぶ』という行動が最も重要でした。
関連知識
摂食嚥下障害の評価(MWST、RSST、FOISなど)、摂食嚥下障害の種類と症状(口腔期、咽頭期)、食事環境調整の原則、自助具の活用、片麻痺患者の食事における注意点(半側空間無視、麻痺側介助)。早食いに対する介入としては、食器の工夫(仕切りのある皿、滑り止めマット)、一口ごとの声かけ、介助方法の調整なども挙げられます。