54歳の女性。左母指ばね指の術後、経過は良好であったが、術後3か月ころから些細な動作で母指にビリビリするような疼痛が出現した。術後5か月目に自宅近くの病院を受診し、CRPS〈複合性局所疼痛症候群〉と診断され、投薬治療と外来作業療法が開始となった。開始時の左母指痛はNRS〈numerical rating scale〉で安静時1、動作時6。左上肢機能は総握りでは指尖手掌間距離が2〜3cm、肩・肘関節のROMに軽度制限を認め、手指のMMTは段階3、握力2kgで、日常生活では左手をほとんど使用していない状態であった。実施する作業療法で誤っているのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
CRPS(複合性局所疼痛症候群)を含む慢性疼痛の作業療法では、痛みの完全除去は現実的な目標ではありません。目標は、痛みを管理しながら日常生活動作能力を向上させ、生活の質(QOL)を高めることに置かれます。痛みの完全除去を目標にすると、患者は常に痛みに意識を向け、達成できない目標に苦しむことになり、心理的負担が増大し、治療の妨げとなる可能性があります。
選択肢ごとの解説
- 1. CRPSの治療において、痛みを悪化させない動作の学習は非常に重要です。患者が安心して日常生活を送るために必要なアプローチです。正しくは:正しい選択肢であり、修正の必要はありません。選びやすい理由:痛みを避けることは大切だが、それが治療目標の全てではない、と誤解する可能性がある。混同注意:痛み刺激からの完全な回避と混同されることがあるが、痛みを理解し、コントロールしながら活動量を増やすことが重要。
- 2. 正解。CRPSを含む慢性疼痛の治療では、痛みの完全除去は非現実的な目標であり、かえって患者の不安や絶望感を増大させる可能性があります。治療目標は、痛みの管理能力を高め、痛みがあっても生活の質を向上させることに置かれます。正しくは:痛みの完全除去ではなく、痛みの管理、機能改善、日常生活への参加、QOL向上を目標とします。選びやすい理由:患者さんが「痛みをなくしたい」と訴えるため、その思いに応えることが良いことだと感じやすい。しかし、現実的な目標設定が重要。混同注意:急性期の痛み治療と混同しやすい。慢性疼痛では「痛みの完全除去」ではなく「痛みのコントロール・管理」が重要となる。
- 3. CRPSでは知覚過敏がしばしば見られます。段階的に様々な質感の物品に触れることで、知覚の過敏さを脱感作し、感覚の再教育を促すことは有効なアプローチです。正しくは:正しい選択肢であり、修正の必要はありません。選びやすい理由:知覚過敏があるため、刺激を避けるべきだと誤解する可能性がある。しかし、適切な段階的刺激は治療に必要。混同注意:痛み刺激を避けるべきだという一般的な考え方と混同しやすい。CRPSの脱感作療法では、意図的に刺激に慣らすことが重要。
- 4. CRPSの運動療法では、患者自身が痛みをコントロールしながら行える自動運動から開始し、徐々に負荷を上げていくのが原則です。他動運動は痛みを誘発しやすく、病態を悪化させるリスクがあります。正しくは:正しい選択肢であり、修正の必要はありません。選びやすい理由:ROM制限があるため、受動運動で可動域を確保したいという思いから、受動運動を選択しがち。混同注意:関節可動域訓練の基本原則と混同しやすい。CRPSにおいては患者のコントロールが重要で、自動運動が優先される。
- 5. 作業療法では、患者の日常生活における困りごとや活動の状況を把握することが、個別性の高い治療計画を立案する上で不可欠です。CRPSにおいても、痛みが生活に与える影響を理解するために重要です。正しくは:正しい選択肢であり、修正の必要はありません。選びやすい理由:治療内容に直接関係ないように思えるかもしれないが、作業療法の評価の基本である。混同注意:診断や身体機能評価といった医学的な側面と混同しやすいが、作業療法では生活状況の評価が特に重要。
国試ポイント
CRPS(複合性局所疼痛症候群)患者に対する作業療法における、適切な治療目標設定と介入方法を問う問題です。特に慢性疼痛の特性を理解しているかが鍵となります。急性期疼痛と慢性疼痛の治療目標の違い、そして作業療法士の役割が問われます。
混同注意
急性期の痛み治療と慢性期の痛み治療の目標の違い。急性期では痛みの除去が主要な目標となることが多いが、慢性期では痛みの管理と生活機能の向上が主眼となる。
次に同じ論点が出たら
CRPSや慢性疼痛の問題が出題された場合、 1. 痛みの管理と機能改善のバランスを重視しているか。 2. 患者中心の目標設定がされているか。 3. 段階的な介入になっているか。 4. 心理社会的側面への配慮があるか。 5. 痛みの「除去」ではなく「コントロール」を目指しているか。 これらの点を中心に選択肢を判断する。
関連知識
CRPSの病態生理(神経障害性疼痛、炎症、自律神経機能不全、心理社会的要因)、疼痛評価尺度(NRS, VAS)、運動療法(ミラーセラピー、段階的運動イメージ、自動運動)、感覚再教育(脱感作、識別訓練)、心理社会的アプローチ、ADL/IADLへの介入。