35歳の男性。強迫性障害。中学生のころから洗浄強迫と確認癖があり、高校へ進学したが不登校が続き退学した。アルバイトに短期間従事したことがあるが未就労である。症状悪化のため半年前から精神科病院に入院し、家庭復帰を目的として作業療法を開始した。作業療法開始2か月目に「完全な作品ができない」と訴え、症状が増悪してきた。作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
強迫性障害の患者は完璧主義が強く、「完全でない」という認知が症状の悪化につながりやすい特徴があります。作業療法では、患者が不完全な部分に固執するのを避け、できた部分や努力した点に焦点を当てることで、自己肯定感を高め、達成感を得られるように支援することが非常に重要です。これは、認知行動療法の原則にも通じるアプローチであり、強迫的な思考パターンを修正する第一歩となります。
選択肢ごとの解説
- 1. 強迫性障害の患者が「完全な作品ができない」と訴えるのは、完璧主義という症状の表れです。この訴えに対し安易に作業種目を変更することは、強迫的なこだわりを強化し、不快な状況からの逃避行動を助長する可能性があります。問題の本質である完璧主義に向き合わず、症状の克服を妨げてしまう恐れがあります。正しくは:作業種目の変更は、患者の能力レベルや興味に合わない場合、または作業の難易度が不適切である場合に検討するべきです。しかし、今回のケースでは完璧主義という症状自体が問題なので、その症状に直接働きかけるアプローチが優先されます。選びやすい理由:患者の不満を解消しようと、一時的に楽な方法を選んでしまいがちですが、根本的な解決にはつながりません。混同注意:作業の難易度や興味関心が合わないことと、強迫的な完璧主義を混同している可能性があります。
- 2. 患者が症状の悪化を訴えている状況で、治療の機会である作業療法を中止することは、症状改善への機会を失わせ、患者を孤立させることにつながります。精神科リハビリテーションにおいては、患者が困難に直面した時こそ、治療的介入を継続し、適切なサポートを提供することが重要です。正しくは:症状が悪化しても、まずは治療目標と治療計画を再評価し、介入方法を調整しながら作業療法を継続することが望ましいです。必要であれば、他の専門職(医師や看護師など)と連携して、多角的なサポートを提供します。選びやすい理由:患者の苦痛が大きいと感じ、一時的に負担を軽減してあげたいという気持ちから選んでしまうかもしれません。混同注意:症状悪化が治療の失敗であると誤解し、治療を中断することが患者のためになると考えてしまうことがあります。
- 3. 患者の訴えを傾聴することは非常に重要ですが、強迫性障害の患者が「完全な作品ができない」と訴え、症状が増悪している状況では、単に経過を見るだけでは不十分です。この訴えは、完璧主義という強迫症状の明確な現れであり、能動的な治療的介入が求められます。受容的な態度だけでなく、症状に対する具体的な働きかけが必要です。正しくは:傾聴に加えて、患者の出来ている部分に注意を向けさせたり、目標設定を再検討したりするなど、具体的な治療的介入を行うべきです。選びやすい理由:患者に寄り添う姿勢としては正しいように思え、精神科OTの基本である傾聴が選択肢として魅力的であるため。混同注意:傾聴の重要性と、具体的な治療的介入の必要性を混同しています。特に強迫性障害の症状に対する受動的な対応と能動的な対応の区別が曖昧になっている可能性があります。
- 4. 担当療法士の交代は、患者と療法士間の信頼関係が著しく損なわれた場合や、治療方針に対する深刻な不一致がある場合に検討される手段です。今回のケースでは、患者が「完全な作品ができない」と訴えているのは強迫症状の現れであり、療法士との関係性に直接的な問題があるという記述はありません。安易な交代は、むしろ患者の治療に対する不安を増大させる可能性があります。正しくは:まずは担当療法士自身が問題解決のために介入し、必要であればスーパーバイザーやチームと相談しながら対応を検討します。選びやすい理由:患者の症状悪化や不満の原因が、療法士との相性にあるかもしれないと考えてしまうためです。混同注意:患者の症状悪化が、人間関係の問題であると早計に判断してしまうことがあります。
- 5. 正解。強迫性障害の患者は完璧主義の傾向が強く、わずかな不完全さも許容できないために「完全な作品ができない」と訴え、それが症状の悪化につながることがよくあります。このような状況では、できていない部分や不完全な点に固執する患者の注意を、すでに達成された部分や肯定的な側面に意図的に向けることが重要です。これは、認知行動療法的アプローチ(ポジティブな側面への焦点化、認知の再構成)の一環であり、完璧主義からの脱却を促し、達成感を育むことで、患者の自己肯定感を高め、症状の緩和に繋がります。
国試ポイント
精神科作業療法における強迫性障害患者への具体的な対応能力が問われています。特に、患者の訴えの背景にある症状(完璧主義)を正確に理解し、それに対してどのような治療的働きかけを行うべきか、その優先順位を判断する力が求められます。感情的な寄り添いだけでなく、症状に特化した行動変容を促すアプローチが適切かどうかを問う問題形式が多い傾向にあります。
混同注意
患者の訴えを「不満」と捉えて安易に環境(作業種目や担当者)を変更することと、症状に基づいた治療的介入を混同しやすいです。また、傾聴することの重要性は理解しつつも、強迫症状に対する受動的な傾聴と、積極的な認知・行動修正アプローチとの区別が曖昧になりがちです。
次に同じ論点が出たら
同様のケースが出題された場合、まず患者の診断名と現在の症状(特に精神病理)を正確に把握することが重要です。次に、その症状が作業活動にどのように影響しているかを分析し、治療目的(今回は家庭復帰)と照らし合わせて、最も効果的かつ症状に直接働きかける介入は何かを検討します。安易な環境調整や治療の中断ではなく、症状への働きかけを優先する選択肢を選ぶようにします。
関連知識
強迫性障害の症状特性(完璧主義、不完全感、洗浄強迫、確認強迫など)、強迫性障害の治療における認知行動療法の基本原則(曝露反応妨害法、認知再構成法など)、精神科作業療法における治療的関係の構築と目標設定、ポジティブな側面への焦点化(ストレングスベースアプローチ)。