52歳の男性。アルコール依存症。警備会社に勤務。若いころから飲酒が習慣化していたが、最近、朝から酒を飲むようになった。同居する両親に対する暴力行為で警察の介入があり、2日後に入院した。入院後、振戦せん妄が出現し、5日目に消失した。落ち着きがみられるようになり、作業療法が処方された。この時期に優先すべき作業療法の目的はどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第58回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
この患者さんは、アルコール依存症であり、最近まで振戦せん妄という急性期症状が出ていました。現在は症状が落ち着き、作業療法が処方されたばかりの段階です。この時期のアルコール依存症患者は、長期にわたる飲酒や急性期症状の影響で、栄養状態の悪化、身体的疲労、睡眠障害などが顕著であることが多いため、まずは身体の基本的な状態を安定させ、基礎体力を回復させることが、その後の精神的・社会的介入の土台となります。他の選択肢は、いずれも中・長期的な目標であり、この段階で優先的に取り組むには時期尚早と判断されます。
選択肢ごとの解説
- 1. 家族関係の改善はアルコール依存症の治療において非常に重要ですが、振戦せん妄からの回復直後という急性期後の早期段階では、患者自身の心身の安定が最優先されます。感情のコントロールや思考の整理が十分にできない段階で、複雑な家族関係の問題に取り組むのは時期尚早です。正しくは:患者の心身状態が安定し、ある程度の認知機能や情動のコントロールが回復した後、中長期的な目標として家族療法や関係改善プログラムを導入します。選びやすい理由:暴力行為があったことや、アルコール依存症が家族全体に影響を及ぼす疾患であることから、家族関係の改善が重要だと感じるため、選択肢として魅力的です。混同注意:アルコール依存症治療における家族の巻き込みや家族療法の重要性。
- 2. 正解。振戦せん妄が消失したばかりのこの時期では、アルコール依存症による慢性的な栄養障害、睡眠不足、脱水、神経系の疲弊などにより、患者の身体的消耗は著しい状態にあることが多いです。まずは身体的な安定を図り、疲労回復、規則正しい生活リズムの確立、基本的な身体活動能力の向上を目指すことが、その後の精神的・社会的なリハビリテーションを進める上での最も重要な土台となります。
- 3. ストレス対処技能の獲得は、再飲酒防止にとって不可欠なスキルですが、振戦せん妄からの回復直後は、まだ集中力や学習能力が十分に戻っていない可能性があります。具体的な技能訓練を行うには、まずは心身の安定と基本的な認知機能の回復が先行する必要があります。正しくは:身体的安定と基本的な認知機能の回復が見られた後、心理教育やグループワークを通して、ストレスの原因特定や具体的な対処法(リラクセーション、アサーションなど)を段階的に学びます。選びやすい理由:アルコール依存症の根本的な問題解決に繋がるスキルであるため、重要性が高く感じられます。混同注意:アルコール依存症の治療における認知行動療法や再飲酒予防プログラムの重要性。
- 4. 他者との協調的な活動は社会性や対人関係スキルの改善に有効ですが、振戦せん妄後の不安定な時期では、集団活動への適応や他者との適切な交流が困難な場合があります。暴力行為の既往もあるため、まずは個別での情緒安定と自己コントロールの確立が優先されます。正しくは:個人の安定と回復が進み、自己コントロールがある程度可能になった段階で、グループ活動やレクリエーション活動などを導入し、段階的に他者との交流を促進します。選びやすい理由:暴力行為があったため、対人関係スキルの改善が喫緊の課題であると捉えやすいです。混同注意:精神科作業療法におけるグループ活動や集団療法の効果。
- 5. 職場復帰は社会復帰の重要な目標ですが、振戦せん妄からの回復直後という段階では、あまりにも時期尚早です。まずは心身の基本的な回復、生活リズムの確立、再飲酒予防に向けた基礎的な取り組みなど、多くの段階を踏む必要があります。正しくは:身体的・精神的安定が確立し、日常生活活動(ADL)や社会生活技能が一定程度身についた後、職業準備性評価や職業訓練に進みます。これは治療の最終段階に近い目標です。選びやすい理由:患者が警備会社に勤務しているという情報から、仕事への復帰を連想しやすいためです。混同注意:アルコール依存症の最終的な社会復帰目標としての職業リハビリテーション。
国試ポイント
アルコール依存症患者の急性期症状(振戦せん妄)からの回復直後という『治療段階』における作業療法の『優先順位』を問う問題です。身体的な安定が、より高次な精神的・社会的な介入の前提となるという基本的な治療原則を理解しているかが問われます。
混同注意
アルコール依存症の治療目標は多岐にわたるため、治療の各段階(急性期、回復期早期、回復期中期・後期、維持期など)において、何が優先されるべき目標なのかを混同しやすいです。特に、社会復帰や対人関係改善といった重要だが長期的な目標と、身体的・精神的安定という初期の土台作りとを区別することが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後、同様の論点で出題される場合、患者の治療経過の異なる段階(例:回復期中期で社会参加への意欲が見られる段階、退院を控えている段階など)が設定され、それぞれの段階で優先すべき作業療法の目的が問われる可能性があります。また、急性期症状の種類(うつ病、統合失調症など)が異なった場合でも、その疾患特性と治療段階に応じた優先順位を判断できるかが問われるでしょう。
関連知識
アルコール依存症の病態、振戦せん妄の症状と経過、精神科リハビリテーションにおける治療段階、ADL(日常生活活動)やIADL(手段的日常生活活動)の評価と介入、身体活動と精神的健康の関係性、栄養管理の重要性。