80歳の男性。体重70 kg。介護者は腰痛のある70歳の妻で体重39 kg。誤嚥性肺炎による1か月の入院後、下肢の廃用性の筋力低下をきたしている。端座位保持は可能であるが、立ち上がりは手すりを把持しても殿部が挙上できずに全介助である。立位は手すりを把持して保持できるが、足踏み動作は困難である。車椅子への移乗介助に使用する福祉用具の写真(別冊No. 4 ①〜⑤)を別に示す。 妻の腰痛を助長しないことを優先して選択する用具として適切なのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
別冊No. 4の写真は、①スライディングボード、②突っ張り棒型縦手すり、③移乗用介助ベルト、④ベッド柵(移動バー)、⑤介助グローブです。この男性は端座位を保持できる一方、立ち上がりは全介助で足踏みも困難です。介護者の妻は体重39 kgで腰痛があるため、立ち上がらせたり持ち上げたりせず、座ったまま殿部を滑らせて車椅子へ移れるスライディングボードが、妻の腰の負担を最も少なくできます(公式正答1)。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。①スライディングボードは、座位のまま殿部を滑らせて移乗でき、持ち上げる動作が不要なため、介護者の腰痛を助長しにくい用具です。
- 2. ②突っ張り棒型縦手すりは、立ち上がりや立位保持を本人が行うための用具です。立ち上がりが全介助のこの男性では、介護者の負担は軽くなりません。正しくは:スライディングボードは、ある程度の残存能力があり、水平移動が主な場合に介護負担を軽減する。選びやすい理由:移乗介助用具であるため、候補として考えやすい。混同注意:患者がある程度の自己介助能力を持つ場合の移乗用具と、全介助に近い状態での移乗用具の区別。
- 3. ③移乗用介助ベルトは介助者がつかみやすくなる用具ですが、立ち上がらせて回る介助が必要で、腰痛のある体重39 kgの妻には負担が大きくなります。正しくは:移乗用シートは、主としてベッド上での体位変換や、介護者が持ち上げる際に摩擦を減らす補助として機能する。選びやすい理由:介助量を減らす補助具であるため、有効な選択肢に見えるかもしれない。混同注意:シート状の用具が万能だと誤解すること。水平移動と上下方向の移動における負担軽減効果の違い。
- 4. ④ベッド柵(移動バー)は本人がつかまって立ち上がる・向きを変えるための用具で、全介助の立ち上がりでは介護者の負担軽減になりません。正しくは:トランスファーボードは、立ち上がりが可能で、移乗時の方向転換をスムーズにする際に使用される。選びやすい理由:移乗の補助具であるため、利用価値があるように見える。混同注意:方向転換の補助具と、垂直方向の介助や持ち上げを軽減する用具の区別。
- 5. ⑤介助グローブはベッド上で体の下に手を差し込むときなどに使う用具で、車椅子への移乗介助の負担軽減には適しません。正しくは:より強力なリフトが望ましい。または、立ち上がり補助具であれば、立ち上がり困難なケースには適さない。選びやすい理由:リフトの一種であるため、正しい選択肢に見えるかもしれない。混同注意:様々な種類のリフトの機能や適応の区別。簡易型と本格的なものの違い。
国試ポイント
この問題は、被介護者の身体状況と介護者の身体状況、そして介護者の腰痛予防という特定の条件を考慮した上で、最も適切な移乗介助用具を選択する能力を問うものです。特に、重度な介助を要する被介護者と身体的な負担が大きい介護者の組み合わせにおいて、リフトの適用が重要であることを理解しているかがポイントとなります。
混同注意
スライディングボードや移乗用シートといった他の移乗補助具も候補として挙がりますが、それらは患者にある程度の残存能力がある場合や、介助者が十分な体力を持っている場合に有効であることが多いです。全介助に近い状況で、介護者の負担軽減が最優先される場合は、リフトが最も適しています。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出題された場合、まず被介護者の介助量(特に垂直方向の介助の必要性)と、介護者の身体状況(体力、腰痛の有無、体重差)を明確に把握します。これらの要素から、介護者の身体的負担を最小限に抑えられる用具は何かという視点で判断します。
関連知識
移乗介助用具の種類とそれぞれの特徴、適用。介護者の身体力学的な負担と腰痛予防の知識。被介護者の残存能力と介助量の評価。ノーリフトポリシーの概念と福祉用具の活用。