57歳の男性。筋萎縮性側索硬化症と診断されて3年が経過。四肢や体幹に運動麻痺を生じてベッド上の生活となりADLは全介助。さらに球麻痺症状を認め、安静時も呼吸困難を自覚する。この患者がコミュニケーション機器を使用する際の入力手段として適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行期では、全身の随意筋が麻痺し、球麻痺による構音障害や嚥下障害、呼吸困難を伴います。しかし、一般的に外眼筋はALSによる病変の影響を受けにくく、病気の末期まで機能が保たれることが多いとされています。そのため、他の身体部位の随意運動がほぼ失われた状態でも、視線入力装置(アイトラッキングシステム)を使用することで、外眼筋の動きによってコミュニケーションをとることが可能になります。設問の患者は重度の運動麻痺と呼吸困難、球麻痺を呈しているため、外眼筋を用いた入力が最も適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. 球麻痺症状により舌の運動機能も低下している可能性が高く、安定した入力手段としては不適切です。正しくは:この段階では舌の機能が保たれているとは限りません。球麻痺が進行している場合、舌の随意運動は困難になります。選びやすい理由:ALSの初期段階では舌の動きが保たれることもありますが、本症例では球麻痺が進行しており、適切ではありません。混同注意:他の随意運動が著しく制限されている初期の段階で舌の運動が比較的保たれているケースと混同しやすいですが、本症例は進行期です。
- 2. 四肢に運動麻痺が生じているため、手指の随意運動による入力は困難です。正しくは:四肢の運動麻痺が進行しているため、手指の使用は不可能です。選びやすい理由:一般的なコミュニケーション機器の入力方法ですが、ALSの進行期では運動麻痺により使用できません。混同注意:健常者や運動麻痺が軽度な場合の入力方法と混同する可能性があります。
- 3. 球麻痺症状により口唇の運動機能も低下している可能性が高く、安定した入力手段としては不適切です。正しくは:球麻痺の進行に伴い、口唇の随意運動も困難になります。選びやすい理由:舌と同様に、初期段階ではある程度の動きが保たれることもありますが、本症例では球麻痺が進行しているため難しいでしょう。混同注意:ALSの初期症状や、嚥下障害が主な症状の場合の口唇の機能と混同しやすいです。
- 4. 安静時にも呼吸困難を自覚している状況であり、呼気を利用した入力は患者に大きな負担をかけ、安定した操作が困難です。正しくは:呼吸機能が低下しているため、呼気を利用することは推奨されません。患者の呼吸状態を悪化させるリスクがあります。選びやすい理由:他の運動機能が失われた場合の一つの代替手段ですが、呼吸困難があるため、現実的ではありません。混同注意:比較的呼吸機能が保たれているALS患者で、簡易的なスイッチとして呼気を用いるケースと混同しやすいです。
- 5. 正解。ALSでは病状が進行し、全身の随意筋が麻痺しても、外眼筋(眼球を動かす筋肉)は比較的最後まで機能が保たれることが多いとされています。そのため、眼球運動を利用した視線入力(アイトラッキング)は、他の身体部位の麻痺が重度な患者にとって有効なコミュニケーション手段となります。正しくは:ALSの進行期において、外眼筋は最後まで機能が保たれる傾向があるため、視線入力によるコミュニケーションが最も適しています。選びやすい理由:他の身体機能がほぼ失われている状況では、残存するわずかな機能に注目することが重要であり、外眼筋はその代表例です。混同注意:ALSの病態生理学的な特徴を理解していないと、どの筋肉が最後まで保たれるか判断が難しいかもしれません。
国試ポイント
ALS患者の進行度と残存機能に応じたコミュニケーション手段の選択に関する知識が問われています。特に、ALSの病態生理学的特徴として、外眼筋が比較的最後まで保たれることを理解しているかが重要です。
混同注意
ALSの進行段階を考慮せず、一般的なコミュニケーション方法(手指、口唇)や、病状が比較的軽度な段階で用いられる方法(舌、呼気)と混同しやすいです。患者の具体的な症状から、どの部位の機能が残存しているかを正確に判断する能力が求められます。
次に同じ論点が出たら
今後、ALS患者のコミュニケーションに関する問題が出題された場合、患者の病状の進行度(早期、中期、進行期)と、それぞれの時期で残存している可能性のある身体機能(手指、構音、呼吸、眼球運動など)を詳細に把握し、それに適した支援技術を選択できるかが判断の鍵となります。
関連知識
ALSの病期分類、球麻痺症状、コミュニケーション支援機器の種類と特徴(アイトラッキング、意思伝達装置)、残存機能の評価と活用。