40歳の男性。20歳から飲酒を始め、就職後はストレスを解消するために自宅で習慣的に飲酒していた。その後、毎晩の飲酒量が増え、遅刻や無断欠勤をし、休みの日は朝から飲酒するようになった。連続飲酒状態になり、リビングで泥酔し尿便を失禁していた。心配した妻に連れられて精神科を受診し、そのまま入院となった。離脱症状が治まり、体調が比較的安定したところで主治医から作業療法の指示が出された。初回面接時には「自分は病気ではない」と話した。初期の対応で適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は2番
解説
アルコール依存症患者が「自分は病気ではない」と語る場合、病識がない状態です。この段階で重要なのは、患者自身の問題を認識させ、治療への動機付けを促すことです。心理教育は、疾患に関する客観的な情報を提供することで、患者が自身の状態を理解し、病識を獲得する上で非常に有効な介入となります。これにより、治療関係の構築と今後の治療プログラムへの参加につながる基盤が作られます。
選択肢ごとの解説
- 1. 初期段階で繰り返し禁酒指導を行うことは、患者の病識のなさや抵抗感を強め、治療関係の構築を妨げる可能性があります。まずは信頼関係を築き、患者自身の問題認識を促すことが重要です。正しくは:患者の言葉を傾聴し、信頼関係の構築に努める。飲酒しないよう指導する前に、飲酒がもたらした具体的な問題について患者自身が認識できるように働きかける。選びやすい理由:飲酒が問題であるため、直接的に飲酒をやめるよう指導するのが正しいように感じるかもしれませんが、病識のない患者には逆効果です。混同注意:直接的な行動変容指導と、問題認識を促す初期の介入との違い。
- 2. 正解。患者が「自分は病気ではない」と話しているため、まずはアルコール依存症がどのような疾患であるか、そして自身の飲酒行動がどのような状態にあるのかについて、心理教育を通じて客観的な情報を提供し、理解を促すことが極めて重要です。これにより、病識の獲得と治療への動機付けにつながります。選びやすい理由:患者の自己認識と医療者の認識のギャップを埋めるための基本的なアプローチであり、治療の初期段階で有効です。
- 3. AAは自助グループとして非常に有効ですが、患者がまだ自身の状態を病気と認識していない初期段階での紹介は時期尚早です。まずは個人での治療関係を確立し、病識を深めることが優先されます。正しくは:患者が自身の飲酒問題を認識し、治療への意欲が高まった段階で、治療プログラムの一部として、あるいは退院後の社会資源としてAAを紹介することを検討する。選びやすい理由:アルコール依存症治療においてAAは重要な役割を果たすため、有効な選択肢に見えるかもしれません。混同注意:治療の初期段階での介入と、治療後期や退院後に向けた社会資源の活用との違い。
- 4. 離脱症状が治まり体調が安定したとはいえ、アルコール依存症の患者は精神的な不安定さや病識の欠如があるため、高負荷な運動を初期から導入するのは適切ではありません。また、身体機能回復よりも、この段階では飲酒問題への認識と精神的な安定を図ることが優先されます。正しくは:身体機能の回復は重要ですが、まずは患者の精神状態や病識、意欲を評価し、無理のない範囲で、かつ飲酒問題と関連付けて意味のある活動(例:気分転換となる軽作業や運動、レクリエーションなど)を導入する。特に、身体機能が著しく低下している場合を除き、精神的側面へのアプローチを優先する。選びやすい理由:体調が安定したという記述から、身体活動の回復が次のステップであると誤解しやすい。また、一般的なリハビリテーションの視点からは運動は有効な選択肢に見えるかもしれません。混同注意:精神疾患における作業療法の優先順位(精神面か身体面か)と、身体リハビリテーションの考え方。
- 5. 患者が「自分は病気ではない」と病識がない段階で、問題を「受け入れるよう強く促す」と、患者は抵抗を感じ、治療者との信頼関係が損なわれる可能性があります。まずは傾聴し、患者の視点から問題を理解しようと努める姿勢が重要です。正しくは:患者の体験や感情に寄り添いながら、飲酒が生活に与えている具体的な影響について、患者自身が気づき、語れるような対話を心がける。直接的な「受け入れの強制」ではなく、「気づきの支援」を目指す。選びやすい理由:問題を受け入れることは治療の第一歩なので、それを促すことが正しいように感じますが、その「促し方」が重要です。特に病識がない場合は、対立を招きやすい表現です。混同注意:問題を受け入れることの重要性と、それを促す際の患者中心的なアプローチ、あるいは行動変容を促す際のスキル。
国試ポイント
アルコール依存症患者の病識がない状態での作業療法士の初期対応が問われています。特に、患者の抵抗感や否認を考慮した上で、治療関係を構築し、病識を促すためのアプローチがポイントです。直接的な指導や行動変容の強要ではなく、患者のペースに合わせた情報提供と理解の促進が求められます。
混同注意
直接的な行動抑制や問題指摘と、心理教育による理解促進との違い。また、治療の初期段階と、病識が確立された後の介入との違い。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、まず患者の病識の有無を確認し、病識がなければ、その獲得を促すための介入(心理教育、具体的な問題提示、自己認識を深める活動など)を優先的に検討します。直接的な指導や高負荷な活動は避けるべきです。
関連知識
アルコール依存症の否認のメカニズム、病識の獲得プロセス、心理教育の意義、アルコール依存症治療における作業療法の役割(入院初期の導入、離脱症状後の生活リズム調整、再発予防に向けた活動支援など)。