61歳の男性。BMI 27.5。前頭葉および側頭葉に著明な萎縮を認めて入院加療中。発語は発症前より減少しているが、エピソード記憶や手続き記憶は比較的残存している。自分の昼食を食べ終えた後も他人の食事や配膳車の残飯を勝手に取って食べる行為があり、取り戻そうとすると激しく怒り出す。午後の集団体操プログラムではすぐに立ち去ろうとする一方、カラオケには興味を示し、集中して数曲を歌う。食行動に対する作業療法士の対応で最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この患者は前頭葉・側頭葉の萎縮があり、発語の減少、行動抑制の障害(他人の食事を勝手に食べる、怒り出す)、興味の偏り(体操は拒否、カラオケは集中)がみられます。特に昼食後の不適切な食行動が問題となっています。作業療法士の対応としては、患者の残存機能(エピソード記憶や手続き記憶が比較的保たれている)と興味関心(カラオケへの高い関心)を活用し、問題行動が生じる前に、本人が積極的に参加できる活動へ誘導することが重要です。選択肢4は、患者が興味を示すカラオケを食後すぐに導入することで、不適切な食行動を予防し、ポジティブな活動に導くことができるため、最も適切な対応と言えます。これは認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する環境調整と行動転換の原則に基づいています。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者は前頭葉・側頭葉の萎縮があり、他人の食事を勝手に食べる行為や、制止に対して怒る行動が見られます。これは行動抑制の障害や欲求のコントロール困難が背景にあると考えられ、現状で減量の必要性を言葉で説明しても理解し、行動変容につなげることは極めて困難です。正しくは:行動抑制の障害や欲求のコントロール困難に対して、環境調整や別の行動への転換を促すなど、具体的な介入を検討します。選びやすい理由:BMI27.5という情報から、減量が必要だと判断しがちですが、認知症の中核症状や行動・心理症状(BPSD)が優先すべき問題です。混同注意:認知機能が保たれている一般的な状況での減量指導と、認知症患者における行動の問題への対応を混同しやすいです。
- 2. 他の患者に状況を説明し理解を求めることは、環境調整の一環として重要ですが、患者本人の不適切な食行動を直接的に解決する対応ではありません。他者の食事を勝手に食べる行為は、他の患者とのトラブルの原因となり、安全面や倫理面からも放置できません。根本的な解決策が必要です。正しくは:他の患者への配慮も重要ですが、患者自身の行動変容を促すための直接的な介入を優先し、並行して他の患者への説明も行います。選びやすい理由:多職種連携や、他者への説明・理解促進は支援において重要な要素であるため、選びやすいですが、本人の行動そのものへの介入ではありません。混同注意:他者への理解促進という間接的な介入と、問題行動の直接的な解決策を混同しやすいです。
- 3. 患者は午後の集団体操プログラムにはすぐに立ち去ろうとする、つまり参加意欲が低いと明記されています。興味のない活動にすぐに誘導しても、協力が得られにくく、拒否や抵抗につながる可能性が高いです。食後の不適切な行動を防止するためであっても、患者の興味や嗜好に合わない活動は効果的ではありません。正しくは:患者が興味を示す活動を食後に導入することで、不適切な行動の防止とポジティブな行動の促進を図ります。選びやすい理由:食後の不適切な行動を防止するために、すぐに別の活動に移行させるという発想は適切ですが、活動内容の選択が誤りです。混同注意:問題行動の直後に別活動へ移行させるという行動療法の原則は正しいものの、その活動内容の患者への適合性を考慮しない点を混同しやすいです。
- 4. 正解。患者はカラオケに興味を示し、集中して数曲を歌うことができると明記されています。昼食後に他人の食事を食べるという不適切な行動が見られるため、その行動が生じる前に、本人が高い関心を持つカラオケに誘導することで、不適切な行動の発生を予防し、ポジティブな活動へ転換させることができます。これは患者の興味・関心に基づいた環境調整と行動転換であり、行動・心理症状(BPSD)への適切な対応策です。正しくは:この対応は患者の興味関心に基づき、問題行動の予防と活動への参加意促という両面で有効なため、最も適切です。選びやすい理由:特になし。患者の情報を総合的に判断すれば、最も適切な選択肢です。混同注意:特になし。他の選択肢と比較して、患者の特性と問題行動への解決策が合致しています。
- 5. 患者は前頭葉・側頭葉の萎縮があり、発語減少、エピソード記憶は比較的残存しているものの、行動抑制の障害や欲求のコントロール困難が示唆されます。口頭で注意しても、その場で一時的に止めることはあっても、記憶として定着させ、今後の行動変容につなげることは困難であり、むしろ「取り戻そうとすると激しく怒り出す」という情報から、抵抗や怒りの感情を誘発する可能性があります。正しくは:言葉による注意よりも、環境調整や行動の転換を促す具体的な支援が必要です。選びやすい理由:一般的なマナーやルール違反に対しては、簡潔な言葉で注意を促すことが有効であるため、選びやすいです。しかし、認知症患者の行動・心理症状には適していません。混同注意:認知機能が保たれている人への一般的な指導と、認知症患者のBPSDに対する対応を混同しやすいです。
国試ポイント
認知症患者の行動・心理症状(BPSD)に対する作業療法介入において、患者の残存能力、興味・関心、および環境調整の重要性を理解しているかを問う問題です。特に、問題行動を抑制するのではなく、予防し、より適切な行動へ転換させる視点が重要となります。
混同注意
認知症患者への対応として、「ダメ」と直接言葉で伝えたり、興味のない活動へ強制したりすることと、残存能力や興味を活用した個別対応の違い。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出題された場合、患者の認知機能レベル、残存能力、行動・心理症状の具体的な内容、興味・関心、および現在の環境要因を総合的に評価し、問題行動の予防とQOL向上に繋がる個別化された介入を判断します。
関連知識
前頭側頭型認知症の臨床症状(脱抑制、食行動異常、常同行動など)、BPSDに対する非薬物療法(環境調整、行動転換、個別化した活動提供)、認知症のリハビリテーションにおける興味・関心の活用。