24歳の女性。高校生のころ、授業で教科書を音読する際に声が震えて読めなくなり、それ以降、人前で発表することに恐怖感を抱くようになった。就職後、会議のたびに動悸や手の震え、発汗が生じるようになり「変だと思われていないだろうか」、「声が出るだろうか」と強い不安を感じるようになった。最近になり「人の視線が怖い」、「会議に出席するのがつらい」と言うようになり、精神科を受診し外来作業療法が開始された。この患者の障害として適切なのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は1番
解説
この患者は、高校時代に人前での音読で声が震えた経験から、人前で発表することに恐怖感を抱くようになり、就職後も会議で同様の症状(動悸、手の震え、発汗)を呈し、『変だと思われていないか』『声が出るか』という強い不安を感じています。さらに『人の視線が怖い』『会議に出席するのがつらい』と、特定の社会的状況(人前での発表や会議)に対する強い恐怖とそれに伴う回避行動が見られます。これらの症状は、他人から注目される社会的状況で強い不安や恐怖を感じ、その状況を避けようとする『社交不安症(社交恐怖)』の診断基準に合致します。
選択肢ごとの解説
- 1. 正解。人前で話すことや発表すること、他人の視線を浴びることに対して強い不安や恐怖を感じ、身体症状(動悸、震え、発汗)を伴い、その状況を避けようとする行動が見られるため、社交不安症の典型的な症状と一致します。
- 2. 全般性不安症は特定の状況だけでなく、様々な日常的な出来事や活動について持続的な過剰な不安と心配を特徴とします。この事例では『人前で話すこと』という特定の社会的状況に特化した不安が中心です。正しくは:全般性不安症は、仕事、健康、学業など、特定のテーマに限定されず、広範な事柄に対して常に不安を感じている状態を指します。選びやすい理由:『強い不安』というキーワードから不安症全般を連想しやすいですが、特定の社会的状況に限定されている点が異なります。混同注意:特定の状況に限定された不安(社交不安症、パニック症)と、広範な状況での不安(全般性不安症)との区別。
- 3. パニック症は予期しないパニック発作が繰り返し起こり、それに伴う『また発作が起きるのではないか』という予期不安が特徴です。この事例では、特定の社会的状況(会議、人前での発表)での不安反応であり、予期しない発作とは異なります。正しくは:パニック症は、動悸や息切れ、めまいなどの身体症状を伴う激しい恐怖や不快感が突然現れるパニック発作が繰り返され、『また発作が起きるのではないか』という不安が続く状態です。選びやすい理由:動悸や手の震え、発汗といった身体症状があるため、パニック発作と混同しやすいですが、特定の状況での予期される不安反応です。混同注意:特定の状況で誘発される強い身体症状を伴う不安(社交不安症)と、予期せず突然発生するパニック発作(パニック症)との区別。
- 4. 強迫症は、不合理だと分かっていても頭から離れない思考(強迫観念)と、その不安を打ち消すために繰り返してしまう行動(強迫行為)が特徴です。この事例は、社会的状況に対する恐怖と回避であり、強迫観念や強迫行為は認められません。正しくは:強迫症は、汚染への恐怖から手を何度も洗う、戸締りを何度も確認するなど、特定の強迫観念と強迫行為が中心となる精神障害です。選びやすい理由:不安を感じやすい精神障害であるため、なんとなく選択肢として選びたくなるかもしれませんが、症状の中核が全く異なります。混同注意:単なる不安や心配と、強迫観念・強迫行為の区別。
- 5. 身体症状症は、特定の身体症状が存在し、それに対する過度な思考、感情、行動がある状態を指します。この事例では身体症状は不安の現れであり、身体症状そのものへの囚われが主ではありません。精神的な苦痛が身体症状として表現される点で似ていますが、中心は社会的状況への恐怖です。正しくは:身体症状症は、身体的な症状を強く訴え、医療的な説明を受けてもその症状に不安や恐怖を感じ続け、日常生活に支障をきたす状態です。症状の原因が心理的なものであるとは限りませんが、症状への囚われが特徴です。選びやすい理由:動悸、手の震え、発汗といった身体症状が見られるため、身体化障害(現在の身体症状症の一種)を連想しやすいかもしれませんが、これらは不安の二次的な症状であり、症状自体に囚われているわけではありません。混同注意:身体症状が主症状となる身体症状症と、不安が身体症状を伴う社交不安症との区別。
国試ポイント
精神疾患の診断基準に関する知識、特に不安障害群の鑑別が問われる問題です。具体的な症例を読み解き、各疾患の核となる症状を正確に理解しているかが試されます。身体症状だけに着目せず、どのような状況で、どのような思考パターンや行動(回避など)が見られるかから、適切な診断を選択する能力が必要です。
混同注意
パニック症(予期しない発作)、全般性不安症(広範な不安)、身体症状症(身体症状への囚われ)など、不安に関連する他の精神疾患との鑑別が難しいことがあります。特に身体症状(動悸、発汗など)は複数の不安障害で共通して見られるため、症状が誘発される『状況』と『中心となる恐怖・不安の内容』を正確に把握することが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の問題が出た場合、特定の状況で不安や恐怖が高まり、それを回避する行動が見られるか(社交不安症)、予期しない発作が繰り返され、また発作が起きるのではと不安になるか(パニック症)、様々なことに対して漠然とした不安が続くか(全般性不安症)、特定の思考や行為を繰り返すか(強迫症)といった、それぞれの疾患の中核症状と診断基準を正確に比較検討することが求められます。
関連知識
DSM-5やICD-11における不安症群の診断基準、各疾患の疫学、治療法(認知行動療法、薬物療法など)、作業療法の介入方法。特に不安階層表の作成や暴露療法などが社交不安症の作業療法では重要となります。