53歳の男性。うつ病の診断で10年前に精神科通院治療を受けて寛解した。1か月前から抑うつ気分、食思不振、希死念慮があり、入院して抗うつ薬の投与を受けていた。1週前からパラレルの作業療法に参加していたが、本日から他患者に話しかけることが増え、複数の作業療法スタッフに携帯電話番号など個人情報を尋ねてまわるようになった。「食欲も出てきた」と大声を出している。この時点での作業療法士の対応として最も適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
うつ病患者が急に活発になり、多弁、多動、食欲亢進、また他者への過度な干渉や個人的な情報を求める行動は、躁病エピソード(躁転)への移行を強く示唆しています。作業療法士は、患者と接する中でこのような重要な変化に気づいた場合、速やかに医療チーム(担当医、病棟スタッフなど)に報告し、患者の状態評価と治療方針の見直しを促すことが、最も優先されるべき専門職としての対応です。
選択肢ごとの解説
- 1. 患者の状態が急激に変化しており、躁状態への移行の可能性が考えられます。このような不安定な状況で、安易に新たな活動(調理実習)を導入することは危険であり、適切な判断ではありません。正しくは:患者の精神状態の評価と、医療チーム全体での情報共有を最優先すべきです。選びやすい理由:食欲回復は良い兆候に見えるため、ポジティブな変化と捉えて活動を促したくなるかもしれませんが、他の行動の変化が異常なため、注意が必要です。混同注意:患者の主訴が改善したことと、病状が安定したことを混同しやすいです。精神科領域では、抑うつ症状の改善が必ずしも安定を意味せず、躁転の兆候である可能性も考慮する必要があります。
- 2. 急な出入り制限は、患者を刺激し、混乱や興奮を増大させる可能性があります。また、作業療法士の独断での制限は、患者の行動制限につながるため、医療チーム全体で検討し、医師の指示に基づくべきです。正しくは:まず医療チームに報告し、患者の状態を多角的に評価した上で、必要であれば共同で対応を検討すべきです。選びやすい理由:他の患者やスタッフへの影響を懸念し、すぐに状況を収束させたいと考えるかもしれませんが、性急な行動は逆効果になる場合があります。混同注意:問題行動への対処と、患者の安全管理を混同しやすいです。安全管理も重要ですが、患者の精神状態を悪化させない配慮が必要です。
- 3. 患者に個人的な連絡先を教えることは、医療従事者としての倫理規定に反する行為であり、公私混同にあたります。治療関係の逸脱を招き、患者の精神状態をさらに不安定にさせる可能性もあります。正しくは:患者との関係構築は、専門職としての適切な範囲内で行うべきであり、個人的な情報の共有は避けるべきです。選びやすい理由:患者が心を開いているように見えるため、親密な関係を築くことで治療効果を高めたいと考えるかもしれませんが、プロフェッショナルな境界線を守る必要があります。混同注意:良好な治療関係と、個人的な関係を混同しやすいです。信頼関係は、医療者としての専門性を維持しながら築くものです。
- 4. 正解。患者はうつ病で治療中でしたが、急に多弁、多動になり、食欲亢進、個人的な情報を求めるなどの行動が見られます。これらは躁状態への移行(躁転)を示唆する重要な兆候であり、速やかに医師や他の医療スタッフに情報共有し、精神状態の評価や治療方針の再検討を促すことが最も適切な対応です。作業療法士は、患者の行動を客観的に観察し、チーム医療の一員としてその情報を共有する責任があります。正しくは:この選択肢が最も適切です。選びやすい理由:他の選択肢は状況に不適切な対応であるため、この選択肢が最も医療チームとしての基本的な対応を示しており、選びやすいです。混同注意:患者の急激な状態変化を見逃し、単なる元気になったと誤解する可能性がありますが、精神科領域では注意深い観察と専門家への報告が不可欠です。
- 5. 患者の行動変化が躁転の兆候である可能性が高い状況で、それをポジティブにフィードバックすることは、患者の現在の病的な状態を助長したり、誤ったメッセージを与えたりするリスクがあります。適切な医療的介入を遅らせることにもつながりかねません。正しくは:患者の状態を客観的に観察し、医療チームに報告することが優先されるべきです。ポジティブフィードバックは、状態が安定し、適切な時に限定的に行うべきです。選びやすい理由:患者が元気になったように見えるため、その変化を肯定的に受け止めたくなるかもしれませんが、それが病的な状態であることを考慮する必要があります。混同注意:患者の意欲向上と、病的な多動・興奮を混同しやすいです。精神疾患における行動の変化は、慎重に評価する必要があります。
国試ポイント
精神科リハビリテーションにおける、患者の状態変化の早期発見と、チーム医療における情報共有の重要性が問われています。特に、うつ病患者の躁転兆候を見逃さない観察力と、適切なタイミングでの多職種連携がポイントとなります。
混同注意
患者の主観的な気分改善や活動性の向上を、病状の回復と安易に判断してしまうこと。躁転の兆候と、単なる元気になった状態との区別が曖昧になりやすい。
次に同じ論点が出たら
同様の論点が出た場合は、患者の急激な気分や行動の変化(特に抑うつから活動性への変化)が、単なる改善ではなく病態の変化(例:躁転)の兆候である可能性を疑い、まずチーム医療への報告・連携を最優先の行動として選択できるかを確認する。
関連知識
双極性障害(躁うつ病)の病態と症状、抗うつ薬治療中の躁転リスク、精神科におけるチーム医療の役割、医療従事者の倫理規定(境界線の設定)。