82歳の女性。右利き。手関節脱臼骨折後、手関節掌屈0°、前腕回外10°の可動域制限がある。それ以外の上肢の関節可動域や筋力は保たれている。歯がなく、義歯を装着していない為にきざみ食を箸で食べているが、肩関節外転の代償運動が出現している。「こぼれやすく、口に届きにくい。右手で楽に食べたい」との訴えがある。食事用自助具(別冊No. 1 ①〜⑤)を別に示す。 適切なのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この患者は手関節の掌屈と前腕の回外に可動域制限があり、肩関節の外転という代償運動を用いて食事をしている状況です。提示された自助具④は、柄が湾曲または角度調整可能なスプーンであり、手関節の可動域制限があってもスプーンの皿が水平を保ちやすく、口元への運搬が容易になります。これにより、代償動作の軽減や食べこぼしの防止が期待でき、患者の訴えに最も直接的に対応できるため適切です。
選択肢ごとの解説
- 1. これはグリップが太いスプーンで、把持が困難な場合に有効ですが、本症例の主訴は手関節の可動域制限によるリーチ困難と代償運動であり、把持力低下ではありません。正しくは:把持力低下がある場合に検討する自助具です。選びやすい理由:一般的な自助具であるため、なんとなく選びたくなるかもしれません。混同注意:他の自助具の機能と混同する可能性があります。
- 2. これは柄の長いスプーンで、リーチが困難な場合に役立ちますが、本症例の主訴は手関節の可動域制限による口元への運びづらさや代償運動であり、単なるリーチ不足ではありません。手関節の掌屈制限と回外制限があるため、柄が長いだけでは根本的な解決になりにくいです。正しくは:肩関節や肘関節の屈曲・伸展制限が大きく、単純に口元への距離が届かない場合に検討する自助具です。選びやすい理由:リーチ困難という訴えから、柄が長いものが有効だと誤解しやすいです。混同注意:手関節の可動域制限と肩関節・肘関節の可動域制限によるリーチ困難を混同しやすいです。
- 3. これはユニバーサルカフ付きの自助具で、手指の巧緻性や把持力が低い場合に、手全体で支持して使用するためのものです。本症例では上肢の筋力は保たれており、手指の巧緻性低下や把持力低下が主訴ではないため、適切ではありません。正しくは:手指の変形や把持力低下があり、箸や通常のスプーンを保持できない場合に検討する自助具です。選びやすい理由:自助具という言葉から、何らかの機能低下に対応すると考え、選択肢として選びやすいかもしれません。混同注意:他の自助具の適応と混同しやすいです。
- 4. 正解。この自助具は、柄の部分に角度がついており、スプーンの皿が水平を保ちやすい構造になっています。手関節の掌屈・回外制限がある場合でも、手首を大きく動かさずに口元へ運びやすくなるため、代償運動を軽減し、食べこぼしを防ぐ効果が期待できます。患者さんの「こぼれやすい、口に届きにくい、右手で楽に食べたい」という訴えに最も合致しています。正しくは:患者さんの手関節の可動域制限(掌屈0°、回外10°)に対し、スプーンの角度が調整できることで食事動作が改善されます。選びやすい理由:一見するとシンプルなスプーンに見えますが、その角度が可動域制限に対応するポイントです。混同注意:単なる柄の太いスプーンや柄の長いスプーンと混同しやすいですが、ポイントは柄の『角度』にあります。
- 5. これは皿の縁が立ち上がった食器で、スプーンですくい上げやすいように工夫されたものです。片手での食事や視覚障害がある場合に有効ですが、本症例の主訴は手関節の可動域制限による口元への運びづらさや代償運動であり、皿からすくうこと自体が困難なわけではありません。正しくは:片手動作や視覚障害、またはスプーンでのすくい上げが苦手な場合に検討する自助具です。選びやすい理由:食べこぼしというキーワードから、食器の工夫も有効と考え、選びたくなるかもしれません。混同注意:食器の自助具と摂食動作の自助具を混同しやすいです。
国試ポイント
本問題は、身体機能の評価結果(関節可動域制限、代償運動、筋力維持)と患者の主観的な訴え(こぼれる、届きにくい、楽に食べたい)を正確に結びつけ、その問題点に対し最も適切な自助具を選択する能力を問うものです。個々の自助具の機能と適応症例を具体的に理解しているかどうかが重要です。
混同注意
手関節の可動域制限による口元への運びづらさと、単なるリーチ不足、あるいは把持力低下によるスプーンの操作困難を混同しやすい。それぞれの自助具が対応する具体的な機能障害を正確に把握する必要があります。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出題された場合、まず患者の身体機能の具体的な制限部位と程度を把握し、それがどのような動作困難につながっているかを分析します。次に、患者の主訴がどの動作の問題に対応しているかを確認します。最後に、各自助具の特性(何のための自助具か)を照らし合わせ、最も直接的に問題解決に寄与するものを選びます。代償動作が出ている場合は、その原因となる制限に対応する自助具を選ぶ視点も重要です。
関連知識
食事用自助具には、柄を太くしたもの(把持力低下対応)、柄を長くしたもの(リーチ不足対応)、皿の角度を調整できるもの(関節可動域制限対応)、ユニバーサルカフ(手指機能全般低下対応)、すくいやすい食器(片手動作、すくい上げ困難対応)など多岐にわたります。それぞれの自助具がどのような機能障害を持つ人にとって有効なのかを理解しておくことが重要です。