65歳の男性。喫煙者。10年前から高血圧、高脂血症、糖尿病で内服治療をしている。4週前に外傷性第5胸髄損傷、完全対麻痺で入院。入院時の血糖は350mg/dL、HbA1cは8.0 %。入院後1週で離床訓練が開始された。この患者が上肢エルゴメーター運動を実施中に、急に動悸と左肩周囲の違和感を訴えた。直ちに運動を中止し安静にさせたところ症状は数分で消失した。症状消失後のバイタルサインに異常を認めなかった。この症状の原因として考えられるのはどれか。
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出典:厚生労働省ホームページ(第57回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この患者は、高齢、喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病という複数の冠動脈疾患の危険因子を持っています。運動中に動悸と左肩周囲の違和感が出現し、運動中止により数分で症状が消失したという経過は、労作によって誘発され、安静により改善する労作性狭心症の典型的なパターンです。脊髄損傷による自律神経系の影響を考慮しても、危険因子と症状の経過が労作性狭心症に最も合致します。
選択肢ごとの解説
- 1. 低血糖の典型的な症状は、発汗、振戦、意識障害などで、動悸や肩の不快感とは異なります。また、症状が数分で消失し、その後異常がないことから、急性の血糖値変動による症状とは考えにくいです。正しくは:低血糖であれば、意識レベルの変化や冷汗などが出現します。選びやすい理由:糖尿病患者であるため、血糖値の変動が原因である可能性を考えるかもしれませんが、具体的な症状が低血糖の典型と一致しません。混同注意:高血糖による症状(口渇、多尿など)や、他の代謝性疾患の症状。
- 2. 起立性低血圧は、体位変換時に血圧が急激に低下することで起こりますが、この患者は上肢エルゴメーター運動中であり、起立動作を伴っていません。また、症状が数分で消失し、安静で改善したことから、起立性低血圧とは考えにくいです。正しくは:起立性低血圧は、臥位から座位・立位への体位変換時に発生する血圧低下で、めまいや失神が主な症状です。選びやすい理由:脊髄損傷患者では自律神経系の障害により起立性低血圧が起こりやすいため、関連性を感じるかもしれませんが、状況が異なります。混同注意:体位変換に伴うめまいや失神、脳貧血。
- 3. 急性心筋梗塞の場合、胸痛や関連痛はより激しく持続的であり、数分で完全に消失することは稀です。症状が完全に消失し、バイタルサインに異常がないことから、急性心筋梗塞の可能性は低いです。また、重篤な状態が続くため、症状がすぐに消えることは考えにくいです。正しくは:急性心筋梗塞は、激しい胸痛が持続し、安静にしても改善せず、心電図変化や心筋逸脱酵素の上昇を伴います。選びやすい理由:動悸や肩の不快感は心臓に関連する症状であり、高齢、喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病といったリスク因子が多いことから、重篤な心臓病を疑うかもしれませんが、症状の持続時間と消失の速さが異なります。混同注意:狭心症と心筋梗塞の鑑別。狭心症は一過性、心筋梗塞は持続的で壊死を伴う。
- 4. 正解。患者は喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病といった動脈硬化の複数のリスク因子を持っています。上肢エルゴメーター運動という労作中に動悸と左肩周辺の不快感を訴え、運動中止後に数分で症状が消失したという経過は、典型的な労作性狭心症の症状と一致します。胸髄損傷により自律神経反射が鈍化している可能性はありますが、狭心症のリスク因子と症状の経過から最も考えられます。
- 5. 自律神経過反射は第6胸髄以上の損傷で起こりうる合併症で、発作性の高血圧、徐脈、頭痛、発汗などを伴います。本例は症状が運動中の動悸と左肩の違和感で、安静で数分で消失し、バイタルサインにも異常がないことから、労作性狭心症が考えられます。
国試ポイント
本問題は、冠動脈疾患の危険因子を持つ患者が運動中に訴える症状と、その症状が安静によって消失するという典型的な経過から、最も考えられる病態を判断する能力を問うものです。心疾患の病態生理、典型的な症状、および関連するリスク因子を正確に理解しているかが鍵となります。特に、脊髄損傷という他疾患の併存下での判断が求められます。
混同注意
急性心筋梗塞と労作性狭心症の鑑別(症状の持続時間と安静による改善の有無)、低血糖と心疾患症状の鑑別、自律神経過反射の典型的な症状と損傷部位。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出た場合、まず患者の基礎疾患とリスク因子を確認し、次に症状が出現した状況(労作時、安静時、体位変換時など)と症状の性質(持続時間、部位、随伴症状)を詳細に検討する。特に、症状が安静によって改善するかどうかが狭心症の判断において重要。
関連知識
冠動脈疾患の危険因子(加齢、喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病)、労作性狭心症の症状(労作時胸痛、放散痛、安静で改善)、急性心筋梗塞の症状(持続する激しい胸痛、安静で改善しない)、低血糖の症状、起立性低血圧の症状、自律神経過反射の病態と症状(脊髄損傷レベルT6以上で好発)。