55歳の女性。乳癌。ステージⅣ。今回、両下肢の脱力を認めて受診した。腰椎と肋骨の多発病的骨折と診断された。L2以下の不全対麻痺を認め、放射線治療終了後に作業療法開始となった。ベッド上生活で食事以外には介助を要していた。Performance Statusは4である。患者は「足が動かないが、家族と暮らしたい」、家族は「できれば家につれて帰りたい」と希望した。この患者への作業療法について適切なのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第57回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は3番
解説
この患者さんは、乳癌の骨転移による病的骨折と不全対麻痺があり、Performance Status 4という非常に身体機能が低下した状態です。しかし、患者さんと家族は自宅退院を強く希望しています。このような状況で作業療法士がまず検討すべきは、患者さんの安全を確保しつつ、自宅での生活を可能にするための環境調整であり、その中心となるのが福祉用具の導入検討です。福祉用具は、残存能力を最大限に活用し、介助量の軽減、ADLの自立度向上、そして安全な生活を送るために不可欠です。
選択肢ごとの解説
- 1. 退院のタイミングは、患者さんの病状や予後、自宅環境、利用可能な社会資源などを総合的に判断し、医師や看護師、PSWなど多職種が連携して決定する事項です。作業療法士単独で決定するものではありません。正しくは:退院の時期は、医師や看護師、医療ソーシャルワーカーなどの多職種と連携し、患者さんと家族の意向も踏まえて決定する。選びやすい理由:作業療法士は退院支援に関わるため、退院時期の決定にも深く関与すると誤解されがちですが、決定権は他の職種(主に医師)にあります。混同注意:退院支援の役割と退院時期決定の役割を混同しやすいです。
- 2. 患者さんはL2以下の不全対麻痺であり、残存機能の維持・向上や、代償動作の獲得のために下肢機能訓練は重要です。また、下肢の病的骨折があるため、その状態を考慮しつつ安全に配慮した訓練が必要です。完全に訓練を行わないという選択は適切ではありません。正しくは:下肢の機能訓練は、骨折の状態を考慮しつつ、残存機能の維持・向上や代償動作の獲得のために実施する。選びやすい理由:病的骨折があるため、下肢に負荷をかける訓練は危険だと誤解し、訓練自体を避けるべきだと考えてしまうかもしれません。混同注意:病的骨折がある場合のリハビリテーションの禁忌事項と、適切な負荷での訓練の必要性を混同しやすいです。
- 3. 正解。患者さんは現在ベッド上生活で食事以外は全介助が必要な状況ですが、自宅退院を希望しています。安全かつ自立的な生活を支援するためには、移動や排泄、入浴などのADLをサポートする手すり、ポータブルトイレ、シャワーチェア、車椅子などの福祉用具の検討・導入が非常に重要です。骨折部位への負担軽減も考慮し、早期に検討すべきです。選びやすい理由:自宅生活への移行を目指す上で、福祉用具の導入は不可欠であり、具体的なADL支援に直結する最も適切な介入の一つです。混同注意:特にありません。最も直接的かつ具体的な支援策です。
- 4. 患者さんには多発性の病的骨折とL2以下の不全対麻痺があり、Performance Statusも4(介助を要し、日中の50%以上をベッドまたは椅子で過ごす)という重篤な状態です。このような状況で「積極的な離床」を図ることは、骨折部位への過度な負担や新たな骨折のリスクを高める可能性があり、適切ではありません。まずは全身状態の安定と疼痛管理、安全の確保が最優先です。正しくは:患者さんの状態を慎重に評価し、疼痛管理や安全を確保しながら、段階的に離床を進める。選びやすい理由:早期離床はADL向上や合併症予防に重要であるという一般的な原則から、積極的に離床を促すべきだと考えてしまいがちですが、この患者さんの場合は病的骨折という特殊な病態を考慮する必要があります。混同注意:一般的な早期離床の重要性と、病的骨折などリスクが高い場合の慎重なアプローチを混同しやすいです。
- 5. 患者さんは腰椎の病的骨折を複数抱えており、脊椎の安定性が低下している可能性があります。ADL訓練中にコルセットを装着することで、腰椎への負担を軽減し、脊椎の安定性を保ち、新たな骨折や神経症状の悪化を防ぐことができます。特に体幹の不安定性が高い場合や、起居・移乗動作時には装着が推奨されます。正しくは:ADL訓練中も、腰椎の安定性を保ち、負担を軽減するためにコルセットを適切に装着する。選びやすい理由:コルセットは動きを制限するため、ADL訓練には不向きだと考えてしまうかもしれませんが、骨折部位の保護が優先されます。混同注意:体幹の自由な動きを阻害することと、脆弱な脊椎の保護の必要性を混同しやすいです。
国試ポイント
本問題は、進行癌による骨転移や対麻痺を伴う患者に対する作業療法の初期対応として、具体的な介入策の優先順位を問うものです。特に、患者の身体状況(病的骨折、対麻痺、PS4)と、患者・家族の希望(自宅退院)を考慮した上で、最も安全かつ効果的なアプローチを選択できるかがポイントとなります。多職種連携やリスク管理の視点も重要です。
混同注意
病的骨折がある場合の積極的なリハビリテーションの可否、および自宅退院支援における優先順位。
次に同じ論点が出たら
同様の患者のケースでは、まず患者の身体状況(病状、疼痛、リスク)を正確に把握し、その上で患者・家族の意向と生活環境を考慮し、安全確保を最優先とした具体的な介入策(環境調整、福祉用具、介護指導など)を検討できるかを確認する。
関連知識
癌のリハビリテーション、Performance Status (PS) の評価と解釈、脊椎の病的骨折の管理、対麻痺患者のADL支援、福祉用具選定の原則、多職種連携の重要性。