72歳の男性。在宅酸素療法中。呼吸困難が増悪したため入院し、作業療法が開始された。開始時の胸部CT(別冊No. 3)を別に示す。mMRCはGrade 4であり、酸素流量は安静時3 L/分、労作時5 L/分であった。 この患者の日常生活指導で最も優先されるのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第59回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
この患者はmMRC Grade 4と重度の呼吸困難を抱え、労作時には多量の酸素を必要とします。日常生活動作(ADL)を遂行する上で、無計画に活動するとすぐに呼吸困難が増悪し、活動が中断されるリスクが高いです。そのため、ADLを小さな単位に分け、各動作の間に十分な休憩を挟むことで、全体の酸素需要を分散させ、呼吸筋の疲労を軽減し、呼吸困難を管理しながら活動を継続できるように指導することが最も優先されます。これは、呼吸リハビリテーションにおけるエネルギー保存の原則(Energy Conservation Techniques)に基づいた基本的な指導です。
選択肢ごとの解説
- 1. 口すぼめ呼吸は呼吸困難感の軽減に有効な呼吸法の一つですが、労作時の呼吸困難が顕著なこの患者において、日常生活活動全体の効率化と酸素消費量軽減の指導に比べると、優先順位は相対的に低くなります。あくまで呼吸困難症状への対処法であり、ADLの遂行方法そのものではありません。正しくは:呼吸困難感を軽減するために、口すぼめ呼吸を指導することは有効な介入の一つであるが、ADL遂行そのものの工夫の方が優先される場合がある。選びやすい理由:呼吸困難への直接的な対処法として正しい選択肢に見えるため。COPD患者によく指導される内容であるため。混同注意:呼吸困難時の対処法と、ADL遂行時のエネルギー消費軽減策との優先順位を混同しやすい。
- 2. 着替えを素早く行うことは、動作中の酸素消費量を増大させ、呼吸困難を悪化させる原因となります。呼吸器疾患患者では、動作をゆっくりと行い、必要に応じて休憩を挟むことが重要です。正しくは:更衣動作は、呼吸に合わせてゆっくりと行い、必要に応じて途中で休憩を挟む。選びやすい理由:効率性を追求する一般的な感覚から、早く終わらせるべきだと誤解しがち。混同注意:動作の効率性と、身体への負担軽減の概念を混同しやすい。健常者の常識と、呼吸器疾患患者のADL指導を混同しやすい。
- 3. 呼吸困難時に深呼吸をすると、かえって呼吸筋の疲労を招き、呼吸困難感を増強させる可能性があります。特にCOPDなど閉塞性肺疾患では、息を吸い込むことよりも、ゆっくりと長く吐き出すことが重要とされます。正しくは:呼吸困難時には、リラックスして口すぼめ呼吸などでゆっくりと息を吐き出すことに集中するよう促す。選びやすい理由:一般的なリラックス法として深呼吸が知られているため、呼吸が苦しい時に役立つと誤解しがち。混同注意:健常者におけるストレス軽減のための深呼吸と、呼吸器疾患患者における呼吸困難時の対処法を混同しやすい。
- 4. 立ち上がり動作は一時的に酸素消費量が増大するため、立ち上がってすぐに移動を開始すると、呼吸困難が悪化するリスクがあります。立ち上がった後、数秒間静止して呼吸を整えてから移動を開始する「準備動作」が推奨されます。正しくは:立ち上がった後、数秒間静止して呼吸を落ち着けてから移動を開始する。選びやすい理由:日常動作をスムーズに行いたいという意図から、連続的な動きが推奨されると誤解しがち。混同注意:動作の連続性と、動作間の休憩・準備の必要性を混同しやすい。
- 5. 正解。mMRC Grade 4という重度の呼吸困難と、労作時酸素5L/分という高い必要量から、この患者は日常生活活動(ADL)において著しい呼吸困難と酸素消費量の増大を伴うと考えられます。動作を小刻みに区切り、間に休息を入れることで、酸素消費量を分散させ、呼吸筋の疲労を軽減し、呼吸困難感を管理しながらADLを遂行することが可能になります。これは、呼吸器疾患患者のADL指導における最も基本的な原則であり、優先されるべき事項です。正しくは:正答のため修正不要。選びやすい理由:他の選択肢も一見すると良さそうに見えるため、より優先されるべき基本的な考え方を見落とす可能性がある。混同注意:具体的な呼吸法や個別の動作指導と、ADL遂行全体のエネルギー管理という包括的な視点を混同しやすい。
国試ポイント
呼吸器疾患患者、特にCOPDなどで呼吸困難が著しい症例に対する日常生活指導の優先順位を問う問題です。個別の呼吸法や動作指導も重要ですが、ADL全体を効率的かつ安全に行うための包括的なエネルギー管理の考え方が問われます。mMRCスケールや酸素流量といった情報から、患者の病態を正確に把握し、最も適切な介入を選択する能力が求められます。
混同注意
個別の呼吸法(口すぼめ呼吸など)や、動作時の具体的な工夫(ゆっくり動く、立ち上がり方など)と、ADL全体のリズムと休憩の取り方という、より包括的な指導内容との優先順位を混同しやすい。呼吸困難への直接的な対処と、ADL遂行そのものの工夫との違いを理解することが重要です。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出題された場合、患者の呼吸困難の程度や活動能力、生活背景を把握し、ADL遂行における全体的なエネルギー消費の管理(動作の分割、休憩の挿入、準備動作)が最も優先される指導であるかを判断する。個別の呼吸法指導や特定の動作指導は、その後の段階や症状に応じて追加されるものと捉える。
関連知識
mMRCスケール(Modified Medical Research Council Dyspnea Scale)の理解、呼吸リハビリテーションにおけるエネルギー保存の原則(Energy Conservation Techniques)、呼吸困難時のADL指導の具体的内容(動作中の休憩、準備動作、環境調整など)、疾患特異的な呼吸法(口すぼめ呼吸、腹式呼吸)。