75歳の女性。自宅の浴室で転倒し右大腿骨頸部を骨折したため人工股関節置換術(後外側アプローチ)が施行された。担当医からは患側への全荷重が許可されている。この患者に対するADL指導で正しいのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第52回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は5番
解説
人工股関節置換術後のADL指導では、特に後外側アプローチの場合、股関節の屈曲90度以上、内転、内旋を避けることが脱臼予防の基本となります。選択肢1, 2, 3, 4は、いずれもこれらの禁忌肢位を引き起こしやすい動作や環境であるため不適切です。一方、選択肢5の「階段を降りるときは右足(患側)を先に下ろす」は、健側で身体を支えながら患側への負担を軽減しつつ安全に降りるための正しい指導です。これは『患側から降りる』という原則に基づいています。
選択肢ごとの解説
- 1. 股関節後方アプローチの場合、股関節の過屈曲、内転、内旋は脱臼のリスクを高めるため禁忌です。割り座は股関節の過屈曲、内転を強く伴う体位であり、術後の禁忌肢位に該当するため不適切です。正しくは:靴下を履く際は、足を組まないように注意し、足を外転位に保ちながら装具や自助具を用いる、またはベッドに座って膝を伸ばしたまま行うなど、股関節の過屈曲を避ける方法を指導します。選びやすい理由:一見すると安定した姿勢に見えるかもしれませんが、股関節への負担を考慮すると脱臼リスクが高いです。混同注意:股関節の安定性を確保するための指導と混同しやすいですが、特定のアプローチでは禁忌肢位が存在します。
- 2. 和式の畳生活は、立ち上がりや座る際に股関節の屈曲角度が大きくなりやすく、また内旋を伴う動作も発生しやすいため、股関節後方アプローチの脱臼リスクを高めます。特に床からの立ち上がり動作は股関節に大きな負担をかけます。正しくは:洋式の生活(椅子やベッドの使用)を推奨し、股関節の屈曲角度が90度を超えないように配慮した生活環境を整えることが適切です。選びやすい理由:日本文化に根差した生活様式であるため、勧めやすいと考えるかもしれませんが、術後のリスク管理を優先すべきです。混同注意:患者の慣れた生活様式を尊重することと、術後の身体的制約を考慮することのバランスで混同しやすいです。
- 3. しゃがむ動作は、股関節の過屈曲、内転、内旋を複合的に引き起こしやすく、特に股関節後方アプローチにおける脱臼リスクが非常に高いため禁忌です。正しくは:靴ひもを結ぶ際は、椅子に座って足を組まず、膝を伸ばしたまま行うか、長柄の靴べらや靴ひもを結ぶための自助具の使用を指導します。あるいは、立ったままバランスを取りながら片足を少し上げ、股関節の屈曲を最小限に抑える方法を検討します。選びやすい理由:靴ひもを結ぶ一般的な方法ですが、術後の患者には危険な動作です。混同注意:術前の健常者にとって自然な動作と、術後の脱臼リスクを考慮した動作の違いで混同しやすいです。
- 4. 座面が低い椅子は、立ち上がりや着座時に股関節の屈曲角度が90度を超えやすく、股関節後方アプローチにおける脱臼のリスクを高めます。また、立ち上がり動作がより困難になります。正しくは:座面が高い椅子(膝関節よりも股関節がやや高い位置になる程度の高さ、もしくは膝関節と股関節が同じくらいの高さで90度を超えないもの)や、肘掛け付きの椅子を使用するよう指導します。座椅子クッションなどで座面の高さを調整することも有効です。選びやすい理由:安定感を求めるという意味で低い椅子を連想するかもしれませんが、股関節の角度に注意が必要です。混同注意:安定性や転倒予防と、股関節の禁忌肢位予防の視点で混同しやすいです。
- 5. 正解。階段を降りる際、最初に患側(右足)を下ろすことで、健側(左足)に体重を乗せた状態で降りることができます。この動作により、患側の股関節への負担を最小限に抑えつつ、安定して階段を降りることが可能になります。これは一般的な下肢荷重動作の原則です(「健足で昇り、患足で降りる」)。選びやすい理由:患側を先に使うことに抵抗を感じるかもしれませんが、この場合は正しい動作です。混同注意:階段を昇る動作の原則と混同しやすいです。昇る際は健側から、降りる際は患側からです。
国試ポイント
人工股関節置換術後の脱臼予防のための禁忌肢位(股関節屈曲90度以上、内転、内旋)の理解と、実際のADL場面における具体的な応用、特に階段昇降における荷重原則が問われるポイントです。
混同注意
階段昇降時の「健足から昇り、患足から降りる」という原則は、逆を覚えてしまうと誤答につながります。また、各選択肢において、脱臼リスクを高める動作と、日常生活で一般的に行われる動作との区別が曖昧になりやすいです。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出た場合、まず人工股関節置換術の『アプローチ方法』を確認し、それに応じた『禁忌肢位』を明確にする。次に、提示されたADL動作がその禁忌肢位に該当するかどうかを一つずつ吟味する。特に階段昇降のような移動動作では、荷重を分散させる原則を適用する。
関連知識
人工股関節置換術の各アプローチ(前方、後方、側方)ごとの禁忌肢位、ADL指導時の自助具の活用、環境整備、転倒予防策、リハビリテーションプログラムの進行段階に応じた指導内容。