80歳の女性。右利き。脳梗塞急性期の頭部MRI拡散強調像(別冊No. 3)を別に示す。この患者の症状で考えられるのはどれか。

選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第54回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢・図は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整え、図は冊子から切り出しています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
頭部MRI拡散強調像では、左脳の脳室外側(おそらく被殻または内包後脚周辺)に高信号域を認める。これは急性期脳梗塞を示唆する。脳の病変と身体症状は、大脳皮質や脳幹における神経経路の交差により、原則として左右逆転して現れる(対側支配)。左大脳の運動野や錐体路が障害されると、右半身の運動麻痺(右片麻痺)が生じる。したがって、左脳の梗塞は右片麻痺を引き起こす可能性が高い。
選択肢ごとの解説
- 1. 失行は、運動麻痺がないにもかかわらず、意図した運動ができない状態を指す。通常、優位半球(多くは左半球)の頭頂葉、特に縁上回や角回の損傷、またはそれらと前頭葉を結ぶ経路の損傷によって生じることが多い。本画像からは、梗塞部位が必ずしもこれらの部位に一致するとは限らず、また運動麻痺がないとは断定できないため、失行を第一に考えるのは適切ではない。正しくは:広範な左頭頂葉損傷、または優位半球の補足運動野や前頭葉の損傷が示唆される場合に、運動麻痺がない状態であれば失行を考慮する。選びやすい理由:左半球の病変は高次脳機能障害を引き起こす可能性があるため、失行を連想しやすい。特に、運動麻痺を伴わない病変の場合には有力な選択肢となる。混同注意:失語、失認、運動麻痺
- 2. 失語は、言語機能の障害であり、優位半球(右利きの場合、ほとんどは左半球)の言語野(ブローカ野、ウェルニッケ野など)の損傷によって生じる。画像で確認できる梗塞は左脳であるが、言語野自体が直接的に大きく障害されているとは画像所見だけでは断定しにくい。確かに左脳の梗塞であるため失語が生じる可能性はあるが、病変部位が基底核近傍に見えるため、運動麻痺の方がより直接的かつ確実な症状として考えられる。問題文では「考えられる症状として適切なのはどれか」とされており、最も確実性の高い症状を選択する必要がある。正しくは:左半球のブローカ野(左下前頭回)やウェルニッケ野(左上側頭回後部)に広範な高信号域が認められる場合に、失語を第一に考慮する。選びやすい理由:右利きの患者で左脳の梗塞であるため、失語も高次脳機能障害として発生する可能性があり、連想しやすい。混同注意:構音障害、失行、高次脳機能障害全般
- 3. 体幹失調は、小脳の虫部や脳幹の病変によって生じることが多い。画像は大脳半球の梗塞を示しており、小脳や脳幹に明らかな病変は認められないため、体幹失調は考えにくい。正しくは:小脳虫部や脳幹の梗塞が画像で認められる場合に体幹失調を考慮する。選びやすい理由:脳梗塞による運動機能障害として一括りに考える際に、運動失調も症状の一つとして思い浮かぶことがある。混同注意:四肢失調、運動麻痺
- 4. 正解。画像(頭部MRI拡散強調像)では、左大脳半球の脳室外側、おそらく内包後脚や基底核近傍に明瞭な高信号域が認められる。これは急性期の脳梗塞を示唆する。大脳の運動野から下降する錐体路は、延髄で交叉し、対側の身体を支配する。内包後脚には錐体路が集中して走行しているため、この部位の左側病変は、右半身の運動機能に重篤な障害、すなわち右片麻痺を引き起こす可能性が極めて高い。問題文は右利きの女性とあるが、これは失語の有無を判断する上で重要な情報になり得るものの、運動麻痺の対側支配の原則を覆すものではない。よって、右片麻痺が最も適切な症状である。正しくは:正答のため修正不要。選びやすい理由:病変部位と神経経路の知識が直接的に結びつくため、正しい選択肢として選びやすい。混同注意:左片麻痺(脳梗塞が右半球にある場合)
- 5. 感覚障害も運動麻痺と同様に、大脳病変の場合は対側に出現する。画像に示された左大脳半球の梗塞であれば、感覚障害も右半身に生じるはずである。したがって、「左半身の感覚障害」は病変部位と一致しないため誤りである。内包後脚には感覚線維も走行しているため、右半身の感覚障害が生じる可能性は高い。正しくは:左大脳半球の梗塞であれば、「右半身の感覚障害」が生じる。または右大脳半球の梗塞であれば「左半身の感覚障害」が生じる。選びやすい理由:脳梗塞で感覚障害が生じることを知っていると、一見正しいように思える。しかし、病変部位と症状の左右の対応関係を正確に理解していないと間違えやすい。混同注意:右半身の感覚障害、左片麻痺
国試ポイント
脳画像診断(MRI拡散強調像)と神経解剖学に基づいた症状の推測能力が問われている。急性期脳梗塞の画像所見と、脳病変部位と症状の関係性(特に運動麻痺の対側支配)を理解しているかが重要である。
混同注意
脳梗塞の部位と症状の対応関係は複雑であり、特に皮質病変では失語や失行、半側空間無視など高次脳機能障害を伴うことがあるため、運動麻痺のみに限定して考えるべきではないが、本問は最も典型的な症状を選択させる意図がある。また、感覚障害も対側に生じるため、運動麻痺と混同しないように注意が必要である。
次に同じ論点が出たら
同様の問題が出題された場合、まずMRIの種類(T1、T2、FLAIR、拡散強調像など)を確認し、それが示す病態(急性期梗塞、陳旧性梗塞、出血など)を特定する。次に、病変部位を正確に同定し、その部位が支配する身体機能(運動、感覚、言語、高次脳機能など)を神経解剖学的知識に基づいて推測する。特に、運動・感覚機能については対側支配の原則を適用する。
関連知識
脳梗塞急性期には拡散強調像(DWI)で高信号を呈し、ADCマップでは低信号を呈する。これは細胞性浮腫による水の拡散制限を反映している。右利きの患者の言語野は通常左半球にあるため、左半球の広範な病変では失語も生じうる。内包後脚には皮質脊髄路(運動線維)と視床皮質路(感覚線維)が走行しており、この部位の障害は対側の片麻痺や感覚障害を引き起こす。