26歳の女性。通勤途中に2人が亡くなる交通事故を目撃した。数日後から睡眠障害、集中力の低下、現実感の変化などの症状が生じ、また、交通事故の起きた場所を避け、事故の夢を繰り返しみるようになった。これらの症状は3週後には消退した。考えられるのはどれか。
選択肢をタップすると答えと解説が表示されます
出典:厚生労働省ホームページ(第55回作業療法士国家試験の問題および正答)。公共データ利用規約(第1.0版)に基づき利用。問題文・選択肢は公式の問題冊子のとおり掲載しています(文字の体裁を一部整えています)。解説は medimichi が作成したものです。
正解は4番
解説
この事例の症状は、交通事故という極度のストレス体験後に生じたものであり、再体験(事故の夢)、回避行動(事故現場を避ける)、覚醒亢進(睡眠障害、集中力低下)、および現実感の変化といった急性ストレス障害の典型的な症状を示しています。これらの症状が1ヶ月以内に消退していることから、急性ストレス障害が最も適切な診断となります。PTSDは症状が1ヶ月以上続く場合に診断されます。
選択肢ごとの解説
- 1. 解離性障害は、記憶、意識、同一性、知覚などの統合性が失われる精神障害ですが、このケースの症状の中心はストレス反応であり、解離性障害に特有の症状(離人症、現実感喪失、解離性健忘など)が主要ではありません。現実感の変化は解離症状の一部としてみられますが、短期的なストレス反応の文脈で考えるべきです。正しくは:主要な症状がストレス誘発性の現実感喪失や記憶障害に限定的であり、自己同一性の混乱や明確な解離性健忘を伴わない場合、解離性障害とは診断されにくいです。選びやすい理由:「現実感の変化」という症状が解離症状を想起させるため、誤って選ぶ可能性があります。混同注意:急性ストレス障害やPTSDでも解離症状がみられることはありますが、解離性障害はより広範な解離現象が中核症状となる点で異なります。
- 2. 強迫性障害は、不合理な思考(強迫観念)が繰り返し頭に浮かび、その不安を打ち消すための行動(強迫行為)を繰り返す精神障害です。このケースの症状は、目撃した事故に対する直接的なストレス反応であり、強迫観念や強迫行為は示されていません。正しくは:強迫性障害では、汚染、確認、対称性などに関連する反復的な思考や行動が中心となります。選びやすい理由:事故の場所を避ける行動を「強迫行為」と誤解するかもしれませんが、これはトラウマを想起させる刺激を避ける「回避行動」です。混同注意:回避行動と強迫行為は目的が異なります。回避行動は嫌な刺激から逃れるため、強迫行為は不合理な不安を解消するために行われます。
- 3. パニック障害は、予期しないパニック発作が繰り返し起こり、それに伴う強い不安や恐怖、行動の変化(広場恐怖など)を特徴とします。このケースでは、特定のトラウマ体験後のストレス反応が中心であり、予期しないパニック発作の反復は示されていません。正しくは:パニック障害では、突然の動悸、息切れ、めまい、胸痛などの身体症状を伴うパニック発作が診断の基準となります。選びやすい理由:ストレスが原因で発作的な症状が出ることがあるため、パニック障害と混同する可能性があります。混同注意:パニック障害は発作の繰り返しとそれに対する予期不安が中核ですが、本件はトラウマ体験が引き金となった一連の症状です。
- 4. 正解。急性ストレス障害(ASD)は、極度のストレス(トラウマ体験)の直後から1ヶ月以内に発症し、症状が1ヶ月未満で消失する点が特徴です。この女性の症状(睡眠障害、集中力低下、現実感の変化、回避行動、再体験)は、交通事故というトラウマ体験後に現れ、1ヶ月以内に消退しているため、ASDの診断基準に合致します。正しくは:診断基準として、実際にまたは危うく死傷する、あるいは自身の身体の保全を脅かす出来事に暴露され、トラウマ関連の症状(侵入症状、否定的感情、解離症状、回避症状、覚醒度と反応性の変化)が複数見られ、症状が3日間から1ヶ月以内に存在するという点が重要です。選びやすい理由:症状がPTSDと似ているため、PTSDと混同しやすいですが、症状の持続期間が診断の分かれ目となります。混同注意:PTSD(心的外傷後ストレス障害)は症状が1ヶ月以上持続する場合に診断されます。本ケースでは症状が1ヶ月未満で消失しているため、PTSDではありません。
- 5. PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、強いトラウマ体験後に発症する精神障害ですが、症状が1ヶ月以上持続することが診断の必須条件です。この女性の症状は1ヶ月以内に消退しているため、PTSDの診断基準には当てはまりません。正しくは:PTSDと診断するためには、症状がトラウマ体験から少なくとも1ヶ月以上持続している必要があります。選びやすい理由:トラウマ体験、再体験、回避行動、睡眠障害などの症状はPTSDの診断基準と共通しているため、非常に間違いやすい選択肢です。混同注意:急性ストレス障害とPTSDは、症状が発症してから消失するまでの期間(1ヶ月未満か、1ヶ月以上か)によって区別されます。
国試ポイント
極度のストレス体験後に生じる精神症状の診断名を、症状の種類と持続期間に基づいて正確に識別できるかを問う問題です。特に、急性ストレス障害とPTSDの鑑別点(症状の持続期間)を理解しているかが重要です。
混同注意
急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の区別が最も重要。症状の種類は似ているため、持続期間(1ヶ月以内か、1ヶ月以上か)が鑑別の鍵となる。
次に同じ論点が出たら
今後同様の論点が出た場合、まず症状が『何らかのトラウマ体験後』に生じているかを確認し、次に『症状の種類』が再体験、回避、覚醒亢進、気分・認知の変化、解離症状のいずれに該当するかを判断する。最終的に『症状の持続期間』が1ヶ月未満か1ヶ月以上かを確認して、急性ストレス障害かPTSDかを鑑別する。
関連知識
DSM-5における急性ストレス障害とPTSDの診断基準、特に症状のカテゴリー(侵入症状、否定的感情、解離症状、回避症状、覚醒度と反応性の変化)と期間の基準。他の不安症や精神障害との鑑別点。